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深奥の遺跡へ  - 迷宮幻夢譚 -  作者: 墨屋瑣吉
第三章:巡る因果に決着を

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03. 八層目の謎 /その①



 ─ 1 ──────


 アータルの月半ば。今日もファルハルドたちはパサルナーン迷宮へと挑む。

 食事を摂り、装備を整え集合。昔と違うのは見送る者がいること。


「無事のお戻りをお待ちしております」


 ナイイェルは見送る時にはいつも改まった口調となる。


「いいなー、ぼくも行きたいなー」

「大きくなったらな」


 アレクシオスはおねだりをし、ファルハルドは頭を撫でた。

 ファルハルドたちは中心区画の黒い建物へと向かう。今回こそ八層目を突破し、九層目へと進むために。




 中心区画の黒い建物の前で、目深に頭巾を被った一人の人物がファルハルドたちを待っていた。三年前から共に迷宮に潜っている仲間、魔術院のフーシュマンド教導の弟子である魔術師アリマが。


 ファルハルドたちを見かけると、アリマは深々と被っていた頭巾を下ろし、無言でぺこりと頭を下げた。ファルハルドも無口な性質たちだが、アリマはそれ以上だ。


 最初は連携を取るのにも苦労した。本人も声を掛け合う必要性は理解している。それでも、いざ声を出そうとすると、どうしても言葉にならなかった。


 連携を取ることのできない強力な魔術の使い手。共に潜る者として、これほど危険な者もそうはいない。残念ながらと同行を拒否するのが普通だろう。


 だが、ファルハルドたちは粘り強く話し合いを重ね、ゆっくりとでも改善し共に潜る道を選んだ。アリマのことを、あの困難なカルドバン村の戦いを共に戦い抜いた戦友だと思っていたから。


 未だに雑談などには滅多に応じてくれないが、最近では短くとも言葉を掛け合い、戦闘に必要なだけの連携は問題なく取れるようになっていた。



 揃って黒い建物内に入り、迷宮への転移門へと続く人の列に並ぶ。あちらこちらから視線が向けられる。今、最も深い階層に潜る者たちの一つであるファルハルドたちは、皆から注目される立場にあるからだ。


 視線を向けてくる者たちの中から一人が進み出て、親しげに声を掛けてきた。


「よう、そっちも今日目指すんだよね。あたいらも挑むからさ。どうだい、先に九層目に辿り着いたほうに一杯奢るってのは」


 赤毛で大柄、筋肉質な女性がカルスタンの肩を抱きながら提案する。この人物は体格もカルスタンと同等だ。


「なんなら、あんたが一晩奉仕してくれてもいいんだけどねぇ」

とファルハルドに向け、けへへっと笑う。


 顔を合わせる度にこうして誘ってくる。実に鬱陶うっとうしい。それでもただの揶揄からかいだとわかっているので、いちいち腹を立てたりはしないが。


 このウルスの女戦士、ラーナがこうして親しげに話しかけてくるのは同じ八層目到達者同士であることだけが理由ではない。ラーナもあのカルドバン村の戦いに加わっていた救援者の一人だからだ。


 カルドバン村で法要が行われるまで村に留まり復興作業を手伝った人物でもあり、迷宮挑戦者に復帰したファルハルドに魔法剣術を身に付けるための教えを請うた人物でもあり、ナイイェルやアリマと親しくしている人物でもある。


 それらを抜きにしても、周囲にめられないためにかわざわざ粗野に振る舞っているだけで、実は子供や可愛いものが大好きな女性であることも知っている。


 カルスタンとはお互いを意識し合っている関係だが、どちらも迷宮挑戦者でいるうちは一線を越えようとはしない生真面目さもある。


 親切心で「一緒になれば良いんじゃないか。いつまでもぐずぐすして高齢出産になると大変だと聞くぞ」と言ったファルハルドは顔を赤くしたラーナに本気で殴られた。



 ファルハルドたちは、ペールが見つけた記述とそれについて立てた仮説をラーナたちにも伝えていた。迷宮挑戦者たちは別に競争をしている訳ではなく、同じ階層に挑む者が増えたほうが挑戦は行いやすくなるためだ。


 戦いながら行う仮説の検証には時間が掛かったが、それぞれ確かめたことを教え合い、おそらくは正しい筈だと思われる答えを導き出した。そして準備を整え、今日という日を迎えたのだ。


「うん、いいねー。せっかくだから、うーんと高い物を奢ってもらおうかな」


 ジャンダルのこの発言に、ラーナは口の端を吊り上げた。


「言ってくれるねえ。奢るのはそっちさね。あとから吠え面かいても聞きゃしないからねぇ」


 ラーナは捨て台詞を残し、自分の仲間の元へ戻っていった。

 ラーナの仲間は戦士が二人、神官が二人。その仲間たちもカルドバン村の救援者であり、ファルハルドたちと親しくしている。この者たちもジャンダルの返答に負けん気の強い笑顔を浮かべている。



 ファルハルドはラーナたちを見ながら、ぽつりと呟いた。


「どっちが先に九層目に辿り着いたかなど、どうやって知るんだ」


 アリマも小首を傾げている。ジャンダルとカルスタンは大きく笑った。


「なーに、真面目言ってんの。ただのお遊びじゃない。あれはね、上手く九層目に辿り着けたら、ぱーっと祝おうって話をしてただけでしょ」

「そうなのか」


 ファルハルドにはよくわからない。こういうところは相変わらずである。皆が笑ううちに人の列は進み、順番となる。


「さて、じゃあ行くか」


 カルスタンが一言掛け、転移門に触れた。瞬間、視界が真っ暗となり、いつもの全身が引き絞られるような感覚が訪れる。


 そして、一行は迷宮内へと転移した。




 ─ 2 ──────


 装備を確認し、全身に『セルメの浄水』を振りかける。休息所を出る。鼻をつく腐臭。ここはパサルナーン迷宮八層目、亡者たちの階層。通路はほの暗い。二層目、三層目の獣人たちの階層よりももう少し暗くなる。


 そして、この階層の空気はどことなく湿っていて、壁や床は滑りやすくなっている。微かな瘴気も漂っている。

 もしセルメの浄水を使用しなければ、漂う瘴気により体調不良や身体能力の低下、負傷の悪化などの影響を受けることになる。


 そのほの暗い通路をファルハルドたちは進んでいく。


 前方から金属がこすれ合う音と、いやに軽く乾いた足音が聞こえてきた。この敵を知っている。ファルハルドたちは態勢を整える。感覚が鋭く、夜目も利くファルハルドが最初に確認し、仲間へと伝える。


「前方、骨の戦士、数六。前方天井、蠢く屍、数二」


 アリマとジャンダルが動く。アリマは唱える。


我が一なる意志に(ウェリン・ドゥリン・)従いて(ミロゥダル)無形の刃はマ・ラ・カ・ウェリ・トゥリ・断ち切らん(トゥル・ブァン)


 その手に持つ小振りの杖から風の刃が生み出され、骨の戦士たちを切り裂いた。ジャンダルは唱える。


穿うがて」


 天井に向けた右手の義手から魔力の塊が撃ち出され、天井を伝ってやってくる蠢く屍二体を撃ち抜いた。


 ファルハルド、カルスタン、ペールは床に転がる骨の戦士たちと床に落ちてきた蠢く屍たちに手早くとどめを刺していく。骨の戦士からは核石を回収、光の宝珠による光の回収も行い先へと進む。



 獣人の骸が寄り合わさった合わせ身の亡者が現れた時には少し手間取りはしたが、これも危なげなく倒し、一行は休息所で一息ついた。


「ふいー、今でだいたい三分の一くらいかな。やっぱ手間取るね」

しかり。強力な敵でないのが幸いであるが、怪物たちとあたる回数が多いのであるからな」


 ジャンダルのぼやきにペールが応え、カルスタンも頷いている。


「最初から長丁場予定で、怪我しないことを優先しているしな」


 そう、ファルハルドたちは今夜を休息所内で過ごすつもりで準備をしていた。


 食料や薬、包帯などを多く持ち、全員が水袋を魔導具『尽きない水袋』に、それも一刻で袋一杯に水を満たすことのできる高級品に替えている。


 夜、眠る場所に関しては休息所で休めば良い。快適とは言いがたいが、闇の怪物に襲われる心配はなく、休息所の床や壁に身を預けても身体が痛むことはない。


 ただ、深手を負ったり激しく消耗してしまえば、それ以上挑戦を続けることはできなくなるので、皆は歩みが遅くなろうとも慎重に、時間を掛けて慎重過ぎるほど慎重に進んでいるのだ。



「ラーナたちはどこまで進んでいるんだろうな」

「あー、そうだね。全然見かけないよね。さくっと解決してて、九層目に到達してたら話が簡単なんだけどね」


 その日は戦闘を繰り返しながら、一歩ずつ進み、早目に休んだ。


 そして、次の日(アータル)の刻。目指していた場所に辿り着く。

 ちょっとストックが厳しいので、そのうち更新お休みするかも知れません。すいません。

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