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深奥の遺跡へ  - 迷宮幻夢譚 -  作者: 墨屋瑣吉
序章:たとえ、過酷な世界でも

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23. 新たなる襲撃 /その⑤



 ─ 8 ──────


 翌朝。食事の用意を終えたジャンダルに起こされるまで、ファルハルドはぐっすりと眠り続けた。

 起き上がろうとし、傷の痛みに一瞬息が止まる。


「ちょ、兄さん。急に起き上がっちゃ駄目だよ」


 慌てるジャンダルが手を貸し、上半身を起き上がらせた。右腕以外の出血は止まっている。

 右腕はまだ布に血がにじむ程度の出血が続いている。それでも受けた傷から考えれば、驚くほど出血は少なかった。


 もう一度、導師が治癒の祈りを唱えれば出血はほぼ止まった。負担をかけないよう右腕は幅広の布を巻き、その布を首の後ろで結び吊ることで支えるようにした。



 起き出してきた子供たちは寝不足で疲れきっている。それでも皆は起きると、最初に神官たちに丁寧に礼を述べた。


 神官たちと共に皆で食事を摂る。神に仕える方々にはなにか食してはならないものでもあるかと思い尋ねれば、特にそのようなものはないと言う。むしろどのような食物でも残すことなく全て平らげることを求められるそうだ。


 明確に定められているのは、開拓作業に従事する際には必ず日に三度、可能ならば四度の食事を摂ると決められていることぐらいだ。



 それぞれの身の上のことを話していく。


 神官たちのうち、最も年長である導師の名はダン。この一団を率いる師である。ダンと共にやって来た神官はラアブ。一団の取りまとめ役をしている。


 一団は東国諸国南方における、闇の領域との最前線近くで開拓を行っていた。まだ村もなにもない荒野を一から耕し、収穫が得られるだけの礎を築けば開拓地を人々に譲り、自分たちはまた次の場所へ移る。それを役目としていた。


 今回、アルシャクス西部の疲弊した村々の救済のため、東国から移ってきたのだ。



「アルシャクスのアルシャーム十二世王より教団に要請があり、我らに声が掛かったのだ」


 ラアブが少し誇らしげに顔を輝かせる。


「へえー、立派なお役目だね。あれ、でもアルシャクス西部に行くんならなんでここを通ったの? 道、外れてない?」


 このジャンダルの疑問にダン導師以外の神官が揃って笑みを零した。


「うむ。我らも皆、同じことを考えた。アルシャクスに入った途端、導師様が急にイルマク山の旧跡に参ると申されてな。

 何故なにゆえにと思ったが、そのお陰で其方そなたらが襲われるところに出会でくわしたのだ。全てはユーン・エル・ティシュタル様のお導きだ」



 ファルハルドは改めてダン導師に礼を述べる。


「尊い役目の途中、俺たちを助けるため足を運んでいただき申し訳ない。感謝の言葉を幾重に重ねても足りない」


「ほっほっ。お気にされるな。儂のはただの気紛れじゃ。其方らを助けることができたのは全てユーン・エル・ティシュタル様の御心によるもの。儂らへの礼など要らぬよ」


 ファルハルドは少し考え、

「信仰を持たぬ身だが、神に感謝を表すにはどうすればよいだろうか」

と、尋ねた。


「なに簡単なことじゃ。ユーン・エル・ティシュタル様はティシュタル様が浄化した大地より産まれた神。農耕を司り、また大地からの恵みを司る神でもある。日々の食事の前、かてを得られたことに感謝されれば、それでよい」

「では今日から行おう」


 神官たちはファルハルドの答えに満足したように皆頷く。



「して、其方らはそのカルドバン村まで行く訳かな」

「うん、そうだね。エルナーズの伯母さんがいる筈なんで、訪ねてみないとね」


「では、導師様。そのカルドバン村までご一緒し、それからイルマク山に参りましょう」

「うむ」


 一同は食事を終えると出発した。

次話、「ラーメシュとニユーシャー」に続く。

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