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深奥の遺跡へ  - 迷宮幻夢譚 -  作者: 墨屋瑣吉
第二章:この命ある限り

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125. 百折不撓 /その②



 ─ 3 ──────


 救援に来た挑戦者の一部がやっとカルドバン村に辿り着き始め、南側で戦うバーバクとカルスタン、西側部分で戦うヴァルカとペールに対し、共に戦う村人たちは声を掛けた。もうこちらは大丈夫だから、あなたたちは北東部分を頼みます、と。


 バーバクたちはその場の防衛をやって来た挑戦者たちに任せ、自分たちは最も戦闘が激しい北東部分に向かった。


 北東部分に駆けつけ、戦闘に加わろうとしたバーバクたちは戸惑った。なにかゼブとファイサルの様子がおかしい。二人の訴えを聞き、思わずバーバクは怒鳴った。あの大馬鹿野郎がと。


 ゼブとファイサルから聞かされた。ファルハルドが悪獣のかしらを狙い一人飛び出していってしまった、と。


 バーバクたちは素早く話し合い、決めた。この場をペール、カルスタン、ゼブに任せ、ファルハルドと共に戦う機会の多かったバーバク、ヴァルカ、ファイサルがファルハルドの救援に向かう。



 押し寄せる悪獣たちを倒しながら進み、バーバクたちは見た。凄腕の敵に追い詰められ、危機におちいるファルハルドの姿を。


 その敵はバーバクやファイサルをして、背筋に冷たいものが走るほどの腕前。無意識に、わずかながら二人の歩みが緩む。


 歩みが緩んだ二人を余所に、ヴァルカは躊躇ためらいなく突っ込み、槍を繰り出した。


 二人は共に進む間に、ヴァルカから今の身体の状態を聞かされている。そのヴァルカの迷いのない姿に二人も心を奮い立たせる。バーバクは踏み込み、ヴァルカの槍をかわした老人を狙い戦斧を振る。


 老人は掠めさせることもなく躱す。足を踏み替え、その手のナイフで踏み込んだバーバクの手首を狙い、斬りつけようとする。ファルハルドが割って入り、バーバクを狙うナイフを弾いた。


 ヴァルカとファイサルが同時に槍と鉄棍を繰り出す。左右から繰り出された二本の武器は老人を打つと思われたが、当たる寸前、老人は身をひるがえした。その身を悪獣の陰にひそませ、姿を隠す。


 悪獣たちは牙を剥き出し、襲い来る。バーバクは陰に隠れる老人諸共叩き斬らんと、大きく斧を振るい迫る悪獣をまとめて両断した。


 胴を両断された悪獣たちは、血を撒き散らしながら地面に横たわる。しかし、そこに老人の姿はなかった。皆の意識に一瞬の空白が生まれる。


 その時、正反対の方向で、老人が悪獣の陰から姿を現した。ナイフをかざし、ファルハルドを狙う。


 老人に音はない。気配もない。しかし、ファルハルドには優れた空間把握能力がある。姿を見せた瞬間、位置を把握。この老人をして、ファルハルドの隙をくのは困難。ファルハルドは気配すらない老人のナイフを躱し、反撃。刺突を狙う。


 ファルハルドの剣は避けられる。が、ファルハルドにわずかに遅れて突き出されたヴァルカの槍が、初めて老人の身を掠めた。


 ヴァルカは老人の狙いがファルハルドであることを理解している。そして、身を隠したこの老人の居場所をまともに捉えられるのが、ファルハルドだけであることも理解している。

 だからヴァルカは老人の姿を見失った瞬間から、他の仲間たちとは違い、自分でこの老人の居場所を探ろうとはしなかった。ファルハルドにだけ注目した。


 そして、昨日この老人に毒のナイフで刺されたヴァルカの、この敵に向ける気迫は尋常なものではない。賊働きをしていた頃を彷彿とさせる、防御を捨てた激しい攻めを行う。


 その結果が、攻撃の初めての身の掠め。

 ヴァルカとファルハルドは息を合わせ、老人を攻める。横から悪獣が襲いかかり、邪魔をする。


 ファイサルが、不可視の拳で悪獣を撃つ。ファイサルは荒々しき戦神に仕える武技も法術も一流の神官戦士。しかし、ここまでの一連の攻防で悟る。ファイサルの武技ではこの老人を捉えきれないと。


 さらに神官たちの使う法術のうち、攻撃用の法術は人相手には効果がない。光の神々は人が人を傷付けることを望まない。


 これが悪神の加護を得ている者相手であるならば、多少効き目は落ちるが一定の効果はある。また、黒犬兵団のジョアン神官が調理用の法術で木柵を燃やし敵を焼いたように、使い方を工夫することで本来は攻撃用ではない法術で人を傷付けることもできなくはない。

 それでも、この老人との戦いで、ファイサルの法術を活かすことは難しい。


 よって、ファイサルはこの場の戦いでは悪獣の相手を主とし、ファルハルドたちの援護に回る。



 仲間たちの加勢により、ファルハルドが一方的に押されていた状況からは持ち直した。戦いは均衡する。ただし、それは危うい均衡。掠り傷一つが致命となる状況は変わらない。


 ファルハルドは踏み込む。この老人の動きを捉えることはファルハルドでも難しい。だが、他の者ではまるで追いつけない。なんとか渡り合えるのはファルハルドだけ。


 ファルハルドの剣が老人を掠める。同時にバーバクの斧が脚に向け振られ、ヴァルカの槍が横から脇腹を襲う。


 老人は三人の刃を躱す。しかし、体勢が崩れた。ファルハルドは好機と見、強く踏み込、違う、これは誘い。


 踏み込もうとしたファルハルドに、横手からファイサルが対応しきれなかった悪獣が襲いかかってきた。ファルハルドは身を翻し躱すが、その隙を老人は衝いてくる。毒のナイフがファルハルドに迫る。


 ヴァルカが身体ごとぶつけるように槍を手に突っ込んだ。老人は避け、悪獣の陰に身を滑らせた。別の悪獣が、老人が身を隠した悪獣とファルハルドたちの間に割り込んだ。


 いつの間にか悪獣たちの動きが変わっている。


 おそらく悪獣使いのかしらが倒されたことに気付き、今は別の悪獣使いが付近の悪獣を従え、この老人を手助けしている。周囲は全て悪獣によって囲まれている。隠れて指示を出す悪獣使いを探し出すだけの余裕はない。


 遠く離れた場所からは、大勢の叫ぶような喧噪も聞こえてきている。救援に駆けつけた挑戦者たちと悪獣の戦いにもなにか変化があったのか。気には掛かるが、そちらに気を割く余裕もない。


 ファルハルドたちは、さっきまでよりも統制が取れた悪獣たちの襲撃と、その悪獣を利用する暗殺部隊の老人の動きに翻弄されながら、懸命に反撃を試みる。

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