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深奥の遺跡へ  - 迷宮幻夢譚 -  作者: 墨屋瑣吉
第二章:この命ある限り

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109. 悪神の徒 /その⑧



 ─ 9 ──────


 敵は突然の乱入者に反応できず、対応が遅れた。ファルハルドは見逃さない。戸惑う敵を斬り捨てる。


 次の相手、ファルハルドはジャンダルによって左肩に投げナイフを刺されたすい持つ敵を狙う。

 敵はやっと態勢を立て直してきた。錘持つ敵を狙うファルハルドの背中に向け、錫杖持つ者が闇色の小球を放った。


 ファルハルドはその感覚の鋭さと空間把握能力により、背後の動きまで掴んでいる。


 錘持つ敵との距離を詰め、左肩の傷口に親指を突っ込んでえぐり、堪らずうめく敵の足を蹴って体勢を崩す。引き寄せ、錘持つ敵を小球への盾とする。小球は錘持つ敵の頭に穴を空けた。


 ファルハルドは即死した敵の身体を放し、次の敵へ。向かう先は悪神の祭司長。一気に詰め寄り、心臓を狙い刺突。


 しかし、剣が届く寸前にジャンダルが叫んだ。


「待った」


 ファルハルドは踏み止まる。地を蹴り、ジャンダルの傍へと戻った。


「そいつはおいらがる」


 ジャンダルの目は燃えている。


「おいらが殺らなきゃいけないんだ」


 ファルハルドは一瞬ジャンダルに目を向けた。

 敵はこの隙を逃さず、いてくる。ファルハルドが応えるよりも速く、生き残っている敵の内、錫杖持つ敵三人全てが同時にファルハルドたちに向け闇色の小球を放った。


 敵は狙った。


 その軌道上にはファルハルドとジャンダル両者が共にいる。ファルハルドがかわしたとすれば、小球はジャンダルを打つ。

 敵は確信している。ファルハルドは躱せず、小球に打たれるしかないと。


 甘い。今のファルハルドには打つ手がある。


 瞬時に精神を深く集中させる。ファルハルドは足を踏み出し、踏み出した足を軸に回転しながら身の内より魔力を引き出す。

 魔法剣術。小剣は微かな燐光に包まれる。一振りで迫る全ての小球を斬り裂いた。


 ジャンダルは驚いた。まさか、ファルハルドが魔法剣術を身に付けているとは。だが、驚く以上に喜んだ。口笛を吹き、やるじゃんと褒めた。



 瞬く間に四人の敵を倒し、生き残っている悪神の徒は残り四人。悪神の祭司長以外に錫杖持つ者が二人、錘持つ者が一人。


 敵は判断に迷っている。不意を衝くこともできず、逃げだそうとしても追いつかれるのは目に見えている。

 態勢を立て直す間を稼ぐため、悪神の祭司長は穢悪えお拒壁きょへきを顕現させ自分たちを囲った。他の錫杖持つ二人も穢悪の拒壁を顕現し、重ね合わせる。


 ファルハルドの体内魔力は決して豊富ではなく、発現できる魔法剣術も強いものではない。魔力を帯びた剣なら魔法を斬ることができると言っても、さすがに三重の拒壁を斬ることはできない。どうするか、ファルハルドとジャンダルは打つ手に迷う。


 ファルハルドたち、悪神の徒たち、どちらも手出しができず一時的に戦闘が止んだ。




 その戦闘が一時停止した場に、誰かが駆けてくる。

 新たな敵かと身構えたジャンダルをファルハルドが止めた。ファルハルドはそれが誰かを知っている。

 それはファイサル神官。共にカルドバン村に合流したファイサルが駆けつけて来た。


 ファルハルドたちがカルドバン村への合流を目指し向かった出入口は、ちょうどカルスタンたちが戦っている場所の近くだった。


 ファルハルドたちとカルスタンたち。互いが居合わせたことに驚くが、誰もが戦闘に習熟した者たちだ。すぐに気持ちを切り替え、短い遣り取りで簡単に現状を伝え合った。


 状況を把握し、ヴァルカとゼブはその場に残ってカルスタンたちと共に戦い、ファルハルドとファイサル神官はジャンダルを追った。


 そして、足の速さの違いから、ファルハルドが先行し、今ファイサル神官が追いついたのだ。



 ファルハルドはファイサルを仲間だとジャンダルに紹介する。ファルハルドはそのまま悪神の徒たちに目を光らせ、ファイサルは悪神の徒たちを警戒しつつ、ジャンダルへの手当を行う。


 ジャンダルは痛み止めで痛みを誤魔化しているが、一刻も早く治療が必要な状態である。


 全身の打撲も酷いが、なによりも右腕の負傷が酷い。

 邪術により付けられた傷口は、瘴気によってむしばまれている。瘴気に灼かれ出血こそほとんどないが、肉がただれ、今もゆっくりと腐敗が進行している。


 ファイサルは、この状態のジャンダルがきつそうではあっても普通に話せていることに驚く。


 大量の痛み止めを服用したことを告げれば、苦い顔となった。決して良いことではない。だが、戦闘中で、他に手段がなければ仕方がないことではある。注意するにもできず、苦い顔をするしかなかった。


 浄化の祈りを祈り、傷口を蝕む瘴気を浄化する。続けての治癒の祈りを祈ろうとするが、その前に悪神の徒たちに動きがあった。

 ファイサルは祈りを続けようとしたが、ジャンダルはファイサルの手を振り払い、敵に備え身構える。


 悪神の徒たちは拒壁を解き、一斉に動いた。


 悪神の祭司長以外の三人がファルハルドたちへと突っ込んでくる。錘持つ者はファルハルドへ、錫杖持つ者の一人はジャンダルへ、もう一人はファイサルへと迫る。

 この三人がファルハルドたちを足止めをし、祭司長はこの場からの離脱を図った。


 二年ぶりであろうとも関係ない。ファルハルドとジャンダルは言葉を交わさずとも、視線一つで意思疎通を行う。息を合わせる。


 ジャンダルは向かってくる敵に飛礫つぶてを放つ。狙いは甘く、勢いは弱いがそれで充分。向かってくる敵の足はにぶった。

 ファルハルドは素早く距離を詰め、自分に向かってくる敵に斬りつけ、身をひるがえしジャンダルを狙った敵を横から斬りつけた。


 どちらの敵も一太刀で倒すことはできなかったが、それでいい。ファルハルドが敵の気を引いた隙に、ジャンダルは跳び出した。

 狙うは一人、悪神の祭司長。



 祭司長は逃げ出した。しかし、いくらも進まぬうちにその歩みは鈍る。


 なぜか。理由は一つ。

 ジャンダルが至近距離から放ち、祭司長の腕を掠めた投げナイフにはまぶされていた。ジャンダル自身が服用しているのと同じ、痛み止めと麻痺性の毒茸の粉を併せたものが。


 傷口から体内に滲入した量はほんのわずか。そのため効果を発揮するまで時間が掛かった。代わりに、気付かれぬうちにその身をむしばんでいた。


 悪神の祭司長は自らの不調に気付く。身体が重く、意識が霞掛かる。祭司長は即座に祈り、体調の回復を図った。


 それは判断誤り。逃走すると決めたならば、なにを置いてもひたすらに逃げるべきだった。祈りによりさらに歩みが遅れた。

 ジャンダルは祭司長に追いつく。


 逃走は失敗。だが、まだ追いついたのはジャンダル一人だけ。ファルハルドとファイサルは戦闘中で動けない。

 ジャンダルは大怪我を負っている。祭司長はジャンダルを速攻で排除し、逃げきらんと考えた。祭司長はジャンダルを迎え撃つ。



 ジャンダルは調子の悪さを隠しきれない。しかし、怒りをもって痛みも負傷も全て押さえ込む。

 邪術を唱える間を与えず、駆けながら飛礫打ち。祭司長は唱えかけた文言を止め、迫る飛礫を錫杖で打ち落とす。


 距離を詰める。ジャンダルは左手一本で残る二本の投げナイフを同時に放つ。祭司長は投げナイフを避けた。


 だが、避ける動作で手いっぱいとなる。ジャンダルが投げナイフを放ったのは意識を逸らすため。祭司長はまんまと視野を狭めた。

 投げナイフが避けられることがわかっていたジャンダルは、即座に腰に巻いてある鎖を引き抜いていた。


 振り抜く鎖。先端に付けられているおもりが祭司長を打つ。臑を叩き割った。これでもう祭司長は逃げられない。


 とどめをと狙い、ジャンダルは鎖を振り戻す。


 祭司長は鎖を避けた。多大な痛みに襲われている筈なのにその動きに遅滞はない。曲がりなりにも長であるだけのことはあるのか。あるいは悪神への信仰の結果として、痛みを感じないのか。


 いずれにしても、結果は同じ。祭司長は至近距離で攻撃を外した隙を見せるジャンダルに錫杖を向ける。

 今の動きが鈍り、隙を見せたジャンダルには避けられないとわかっている。厭らしい笑みを浮かべ、文言を唱えた。


「世界を統べし真なる神よ、賤しきしもべが希う。この愚物を偉大なる力で穿うがち給え」


 しかし、祭司長が文言を唱え終わる瞬間に合わせ、ジャンダルは懐に跳び込んだ。


 祭司長は気付いていなかった。ジャンダルが最初からこの機を狙っていたことを。


 ジャンダルはこれまでの戦いで、この祭司長が邪術を使用する姿を何度も目にしていた。だから、把握していた。その文言を唱える速さも、唱える時の姿勢も。


 祭司長が文言を唱え終わり、闇色の小球が放たれるまさにその瞬間。


 懐に跳び込んだジャンダルは、祭司長が持つ錫杖の端に手を掛け、全身を使い強く引いた。

 錫杖が指し示す向きが変わる。その示した先にあるものは。


 錫杖は祭司長自身に向けられる。


 文言は唱えられた。邪術の発動は止まらない。

 祭司長は凍りつく。錫杖の先端にある透き通った石から闇色の小球が放たれる。小球は祭司長の頭部を貫いた。



 時を置かず、ファルハルドたちも悪神の徒を倒し終わる。

 次話、「餓狼之口」に続く。


 来週は更新お休みします。次回更新は7月9日予定。

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