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深奥の遺跡へ  - 迷宮幻夢譚 -  作者: 墨屋瑣吉
第二章:この命ある限り

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108. 悪神の徒 /その⑦

 この物語には、残酷な描写ありのタグがついております。ご注意下さい。



 ─ 8 ──────


 ジャンダルはその場にうずくまり、動けない。

 形の違う錫杖持つ者は冷えきり熱を帯びた目でジャンダルを眺めている。一歩ずつゆっくりと足音を立てながらジャンダルへと近づき、すぐ横まで進み立ち止まった。


 傷口を押さえ、苦痛に転がるジャンダルは横目で見上げる。目が合った。途端に形の違う錫杖持つ者は怒りを露わにする。


塵芥ごみが。薄汚い忌み子の分際で、我らの邪魔をしおって」


 形の違う錫杖持つ者はその顔を怒りに歪め、ジャンダルの腹を蹴った。ジャンダルは反吐を吐く。なんとか身体を丸め、追撃から頭と腹を守る。


「忌々しい。貴様如きに、我らが神への尊き儀式を邪魔されるとは」


 身体を丸めたジャンダルの背中を蹴る。蹴る。蹴る。延々と蹴り続ける。息を乱し、肩で息をするまでひたすらジャンダルを蹴り続けた。

 最後に塵芥がと強く叫び、思いきり蹴り飛ばした。ジャンダルはぐったりとし、もはやろくに悲鳴を上げることもできない。


 形の違う錫杖持つ者はジャンダルを見下ろし、顔に掛かる長い髪を掻き上げた。乱れた息を整え、一度表情を落ち着いたものに変えた。しかし、その表情はすぐに崩れる。


「どうした? 苦しいのか。喜べ。もっと苦しめてやるからなぁ。貴様の魂を苦痛に染め上げ、我らが神への供物として捧げてくれる」

「祭司長」


 ちょうど他の敵も集まってきた。


「遅い!」

「申し訳ございません」


「まあ、良い。この忌々しい塵芥を苦しめてやれ。我らの神への供物に相応ふさわしく整えよ」

「ははぁっ」


 集まった来た七人の敵は次から次へとジャンダルを甚振いたぶっていく。

 この者たちは人を苦しめることに慣れている。気を失わせることはなく、間違っても死なせることはない。当然、手加減もない。効率的に苦痛を与えていく。

 ジャンダルは息も絶え絶えだ。


 さらに続けようとする者たちを長である形の違う錫杖持つ者が止めた。


其方そなたら、しばし待て」

「祭司長?」


 悪神の祭司長はなにやら歪んだ笑みを浮かべている。


「よく考えてみれば、いくら整えたところでこのような薄汚い忌み子など供物には相応しくない。なあ、貴様もそう思うだろう、塵芥」


 悪神の祭司長はジャンダルを踏みにじる。ジャンダルは弱く苦痛の悲鳴を上げる。


「そこで、だ」


 祭司長はジャンダルを踏みつける足をどけ、ジャンダルの顔のすぐ横に足を置いた。


「我が靴をめよ。そして、どうか殺してくださいと懇願するのだ。さすればこれ以上、供物として整えることなく、このまま死なせてやっても良いぞ」


 敵は口々にそれは素晴らしいお考えであると賞賛する。狂信者たちの目は異常な熱を帯び、顔は愉悦に歪んでいる。全員がこれ以上の良い考えはないとでも言いたげだ。


「祭司長様のお慈悲である。なにをしておる。塵屑ごみくずよ。早く礼を述べ、靴を嘗めぬか」

「どうした、塵屑。尊き祭司長様の御威光に身がすくみ、動けぬのか」


 敵はわらい、ジャンダルをあざける。


「お……らの……ろ」


 ジャンダルは弱々しくなにかをつぶやいた。敵はそれを聞き、顔を見合わせ声上げ笑う。


「しっかり喋れ、塵屑。まるで聞こえぬぞ」

「死を乞うのは先に靴を嘗めてからだぞ、塵屑。間違えるな」


 ジャンダルはもうなにを話されているのかもわからないのか、ずっと同じ調子で呟き続けている。


「なにを言っておるのだ」


 祭司長は楽しげに嗤い、耳を近づけた。ジャンダルは懸命に腫れ上がったまぶたを開き、目を向ける。声に力を籠め、はっきりと告げる。


「お前がおいらの尻を嘗めろ、糞野郎!」

「貴様!」


 悪神の祭司長は激高し、そのままジャンダルの顔を踏み潰そうとする。



 それこそがジャンダルの狙い。弱々しい姿を見せていたのは半ばは演技。右手を失ってすぐに服の各所に仕込んでいた痛み止めを過剰に服用し、痛みを麻痺させていた。蹴りつけられ、痛めつけられながら、状況を引っくり返す機会をうかがっていた。


 挑発され、怒りに我を忘れた祭司長を狙い、至近距離から投げナイフを放つ。


 だが、惜しむらく。ジャンダルは本調子からほど遠い。右手を失い、全身を痛めつけられ、大量の痛み止めで感覚を麻痺させている状態。狙いは甘く、投げナイフは祭司長の腕を掠めただけで飛び去った。


「祭司長!」

「貴様!」


 敵のある者は祭司長に駆け寄り、ある者はジャンダルを取り押さえ、ある者はジャンダルと祭司長の間に立ち塞がった。


「其方ら、その塵芥はまだ殺すな。ゆっくりと痛めつけ、死を上回る苦しみを与えてやれ」

「はっ」


 すい持つ一人が錘をかざし、押さえつけられているジャンダルに迫る。


 ジャンダルは必死に抵抗する。大人しく殺されて堪るか。ジャンダルは身をよじり、自分を押さえつける敵の手から逃れようとする。せめて指の一本でも食い千切ちぎってやると身体の向きを変え、歯を剥き出す。


 ジャンダルを押さえつける敵は、その手にさらなる力を籠める。迫る敵はジャンダルに振り下ろさんと、錘を振りかぶった。ジャンダルは自らを狙う錘を見上げた。




 その時。一つの影が差す。


 地面に転がり、見上げているジャンダルはその影を生じさせているものが見えた。それは人影。常人を越える跳躍を行った、細身の人物。


「えっ」


 ジャンダルはその人影に見覚えがあった。

 人影は落下しながら、小剣を抜く。その落下位置は錘を振りかぶる敵の真上。着地点にいる敵の錘持つ腕を斬り飛ばした。


 人影は止まることなく、立ち塞がる敵の一人に斬りつけ、ジャンダルを押さえつける敵を回し蹴りで蹴り飛ばす。


 解放されたジャンダルは起き上がることも忘れ、驚いている。その人物は動きを忘れたジャンダルへと話しかけた。


「一人で遣るのはなし、なんだろう」

「兄さんっ」


 ついに、ファルハルドがカルドバン村へと辿り着いた。

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