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深奥の遺跡へ  - 迷宮幻夢譚 -  作者: 墨屋瑣吉
序章:たとえ、過酷な世界でも
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18. 停泊地にて /その④



 ─ 6 ──────


 次の日も雨は降り続き、本格的な土砂降りとなった。雨は降っているが、ジーラが動物たちに会いたがり、朝食のあとザーンに会いに行くことにした。


 ザーンは前と変わらず広場の隅で動物たちと共にいた。馬車から大きく雨除けの布を張り出させ、その下で笛を吹いている。ファルハルドたちが声を掛けるより先に動物たちが気付き、ザーンから手招きをしてくれた。


「ティシュタル様は今日もここが気にいられたらしいの」

「はは、本当だね」


 ジーラたちはザーンに挨拶をしたあとは、動物たちと遊び始めた。ジーラは犬や猿たちと木の棒や布の玉を使って遊んでいる。モラードは鼻の長い動物にこわごわと触れている。エルナーズは鳥たちを指や肩に止まらせて微笑んでいる。


 子供たちが動物たちとたわむれる様子を見ながら、ファルハルドたちはのんびりと世間話をする。


「一人旅ですか」

「いやいや、息子たちと一緒に回っとる。今は息子たちはあちこちに話を聞きに行っとってな。もうそろそろ戻ってくるかのう」


「だよね。エスペルトゥ氏族の人たちって基本、大勢で旅するもんね」

「儂んとこは特に多いほうかの」


 ザーンは指を折り、数え始める。


「儂、弟夫婦、長男夫婦と孫が二人。次男夫婦には子供はおらんから、九人と動物たちだの」

「ほへー、泊まるとことか食事の用意とかたいへんそうだね」


「儂らの馬車は寝泊まりもできるからそうでもないかのう。食事はそうじゃの、たいへんかもしれんな。だが、食事は大勢のほうが楽しかろうよ」

「まあねー」



 話すうちに、ザーンによく似た中年の男性が戻ってきた。右手でやんちゃそうな男の子を引き摺るようにして連れている。少し遅れて女の子と並んで女性も戻ってきた。


「父さん、客人かい」

「おお、そうじゃ。こちらはナルマラトゥ氏族のジャンダルとそのお連れじゃ。こっちは儂の長男夫婦と孫たちじゃ」


 ファルハルドたちはそれぞれ名乗り、挨拶をする。長男夫婦も挨拶を返す。ザーンの長男シーン、その妻ファイ。子供は男の子のジールと女の子のファウン。ジールはジーラと同い年、ファウンは一つ下らしい。


「よかったら一緒に食事をしていって下さい」

「いやー、おいらたちも人数が多いから悪いよ」

「なーに、構いませんよ。子供たちも子供同士遊びたそうですし、お気になさらず」


 せっかくなのでファルハルドたちはご馳走になることにした。ファルハルドたちもザーンたちも街中とはいえ旅の途中ということで、習慣として一日に三度の食事を摂っていた。

 食事時までには次男夫婦も弟夫婦も戻ってきて、賑やかな食事となる。



 モラードたちは食事の最中、自分たちの食事を動物たちに分け与えようとしたがそれは止めさせた。

 ザーンたちにあげてもよいか尋ねて、よいと言ってもらったらあげてもよい。そう告げ、モラードたちが尋ねると、動物たちの餌は別に用意しているとのことなので、食事のあと餌遣りを手伝うことにした。


 ジーラとモラードは子供たちと夢中になってお喋りしながら食べている。合い間合い間に、息子夫婦に動物たちのことや旅のことをいろいろ尋ねている。


 エルナーズはザーンの弟夫婦に南の村のことから始まって、このアルシャクスのことを尋ねている。東道以外のことはあまり知らないエルナーズには、いろいろ珍しく興味を惹かれる話のようだ。弟夫婦もつかえながら話すエルナーズと楽しそうに話している。


 ザーンはジャンダルに東国諸国のことを尋ねる。知らない土地のことを知りたがるのはエルメスタの本能のようなものなのだ。



 一通り話し、ジャンダルとの会話が落ち着いたところでファルハルドがパサルナーンのことを尋ねた。


「パサルナーンに行ったことはありますか」

「随分昔、あんたらと同じ年頃に行ったのう。そうか、二人はパサルナーンに行くのか」


「まあね。『全ての人の子よ。パサルナーンを目指すべし』だもんね」

「儂としては気儘きままな旅暮らしのほうがよいと思うがの」


「なにかパサルナーンの街について知っていますか」

「そうだのう。店だのなんだのは、儂の知っとる頃とは違っとるだろうしの。おお、そうじゃ。前にパサルナーンの迷宮から引退した者が言うておった。確か、魔術を使える者がおらんと進むのが難しくなる、とな」


「あー、魔術ね。そりゃそうだろうけど、魔術師なんてそうそういないでしょ。仲間になってもらいたくてもねー」


「いやいや、パサルナーンの街になら魔術師たちの集まりがあるぞ。確か西の街外れだったな。魔術師たちが集まって研鑽を積む、通称『魔術院』があるんじゃ。やたらと長い正式な名称はもう忘れたがの」


「へー、そうなんだ。さすが、パサルナーン。でも、おいらたちが訪ねて行って、相手にしてもらえるかな」

「さてなあ。だが、何事もやってみなくては始まるまいて」

「そうだねー。取り敢えず、パサルナーンに行ったら魔術師を探すなり、その魔術院に顔を出すなりしてみるよ」



 その後も日暮れ近くまでザーンのところで過ごし、モラードたちはザーン一家とも動物たちとも仲良くなった。

 特に子供のいない次男夫婦はモラードたちのことが気に入ったようだ。もし、伯母が見つからず困ったときは自分たちを訪ねるようにと告げる。

 ザーンたちは遠慮したが、お礼代わりに熱冷ましや食中しょくあたりの薬を置いていった。




 次の日は晴れ渡り、ナーディルとラーディルは歌うような挨拶で東国に向けて旅立った。ザーンたちもまた会おうと言い、出発した。モラードたちは名残惜しそうな様子だった。


 ファルハルドたちは泥濘ぬかるんだ道が乾くようにもう一日待ち、次の日になってから停泊地を出発した。

次話、「新たなる襲撃」に続く。

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