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深奥の遺跡へ  - 迷宮幻夢譚 -  作者: 墨屋瑣吉
第二章:この命ある限り

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68. 紛争 /その①



 ─ 1 ──────


「糞ったれ」


 戦場いくさば。そこかしこに骸が転がり、強く死臭の漂うその場で、ファルハルドは一人毒づいた。

 身体が重い。疲労が濃い。戦いは終わらない。



 ファルハルドにとっての初めての戦場。共にいるのはオリム率いる斬り込み隊。当初の予定では本隊だけで出兵し、斬り込み隊を戦場に出す予定はなかった。


 ダリウス団長を初めとした傭兵団の幹部が集まり、誰を戦場に出し誰を開拓村の警戒警備に残すのかの話し合いが持たれたが、これが揉めに揉めた。


 最初、ダリウスは自分が本隊隊員の過半数を率いて出兵し、アレクシオス、オリム両副団長に開拓地の警戒警備の役目を任せるつもりであった。


 しかし、二人共が自分たちも戦場に出ると言い張って聞かない。どちらも譲らず、ぶつかり合う。仕舞いにはアレクシオスとオリムが戦場に出、ダリウスが残ればいいと言い出す始末。


 これにはダリウスが呆れた。軍との約束でダリウスが団を率いて出陣することになっている。ダリウスを残すという選択肢はあり得ない。


 などと、もっともらしく語っているが、横で聞いていたアイーシャ、ジョアン、タリクにはばれている。


「あんたら、揃いも揃って要は自分が戦いたくってしょうがないってことでしょ」

「まったく、いい歳して悪餓鬼のままなのかい」

「お前らどんだけいくさ好きなんだ」


 図星の指摘にダリウスたちは気まずそうに言葉に詰まる、訳もなく、全力で肯定した。


「当然だ」

「戦と聞けば燃える。当然でしょう」

「たり前だろ」


 アイーシャたちは揃って深く溜息を吐き、額を手で押さえた。


 これでなにも考えていない者たちならば、それこそただの悪餓鬼どもがと叱り飛ばせば済む話だが、それぞれがそれぞれなりに考えた上での発言。団にとって一番良い形はなにかを考え、その上で自分の欲求も満たそうとしているだけになかなかに性質たちが悪い。



 このままではらちが明かないと、ダリウスたちを放っておいて、アイーシャたちで配置を決めていった。


 まず、ダリウスが団を率いて戦場に向かう。これはアルシャクス軍との約束もあり、揺らがない。


 次にオリムも斬り込み隊を引き連れ、戦場に出る。

 アレクシオスは騎馬隊を率い、開拓村周辺を巡って、怪物の掃討、人や物の移動を行い、さらに残った団員たちの指揮も執る。


 この決定にオリムはアレクシオスに勝ち誇った顔を向ける。ただ、アイーシャがオリムを戦場に出すことに決めた理由は、残すと鬱陶しいと考えたからだったりするのだが。


 斬り込み隊を戦場に出す分、本隊は残す人数を多くし、戦に連れて行くのは半数以下とする。


 そして、普段より少ない人数で開拓地の警戒警備を行うために、駐屯地ではなく両開拓村に団を駐留させる。これはすでに実施されている。




「アイーシャ殿、私も戦場を希望します。それに、それではなんだか私の負担だけが大きくないですか」

うるさい。苦情は受け付けないよ。あんたならできるだろ」


 確かにできる。もちろんオリムも同様のことはできるが、両開拓村をつなぐ役割も求められるのなら、それは斬り込み隊よりも騎馬隊のほうが適している。全員がそれを理解している。仕方がないと、アレクシオスは溜息をついて受け入れた。



 この決定を伝えられ、団員の過半数は喜び、一部は冷静に受け止め、少数は嘆いた。


 喜んだのはなんと言っても戦場に出る者たち。久方ぶりの戦だとはしゃいでいる。ファルハルドとヴァルカを除く斬り込み隊の面々がその代表だ。

 ラグダナから無理矢理連れて来られた困り者たちも大喜びしている。ただし、この者たちは警戒警備に残され、戦場に出ずに済むことに安堵しているのだが。


 冷静に受け止めた者の代表は騎馬隊の者たちだ。この者たちも戦場に出たがっているが、配置を考えればたぶん残されるのだろうと予想していた。ファルハルドとヴァルカも冷静に受け止めている者に含まれる。


 少数の嘆いている者たちとは戦場を望んでいるのに残され、それが納得できない者たち。人数の関係でそんな者たちも出てくる。


 出兵準備に四日を当て、ダリウスとオリムに率いられ、本隊の半数と斬り込み隊が出陣した。




 ─ 2 ──────


 ダリウスたちはつい最近通った道を再び辿り、アヴァアーン近郊へと向かう。軍の集合場所として指示されている場所がそこなのだ。


 アヴァアーンには太守である王族もおり、アルシャクス西部方面を管轄する軍の本部もある。軍を集めるにはアヴァアーンが都合が良く、しかし副都であるアヴァアーン内部に大軍を収容できる場所もなければ、行儀の悪い傭兵の集団を街中に入れる訳にもいかない。


 そのため、アヴァアーンから徒歩で半日ほど北に進んだ場所にある平原が集合場所に定められた。



 平原は兵たちで埋まっている。ファルハルドなどはその光景に感心している。


 ただ、オリムに言わせると、別段大軍と言うほどではないらしい。アルシャクス正規軍の大半はすでに移動しており、ここにいるのは正規軍の一部と傭兵たち。ダリウスたちは最も遅れて到着した一団となる。


 オリムに仲間たちを任せ、ダリウスは軍首脳部に到着の挨拶に向かった。




 そうこうするうち、集まっている他の傭兵団の中にオリムの知り合いがいたらしく、オリムを見かけ向こうから話しかけてきた。


「よう、オリム。随分、遅かったな」


 がっしりした身体付きの四十絡みの迫力ある顔付きをした男性がやって来た。


「おお、ミブロスの旦那。まだ生きてやがったのかよ」


 ミブロスはオリムの酷い言い草に気分を悪くした様子もなく、豪快に笑っている。


「かっはっは、なかなか死ねねぇもんでな。お前ぇこそ、とっくにくたばってんのかと思ったぜ」


 オリムも楽しげに笑っている。


「闇の怪物相手のショボい戦いしかなくってよ、なかなか思うように死ねねぇんだ」

「そっちもか」


 ファルハルドがナーセルに訊いたところ、ミブロスは古くからの知り合いらしい。

 と言って、仲良しこよしのお友達という訳ではない。戦場で何度も干戈を交えた仲だと言う。


 ミブロス率いる傭兵団は昔からアルシャクス領内で活動している。対してオリムたちはずっと東国諸国で活動していた。互いにアルシャクス側、東国諸国連合側に傭われ、何度となく戦場でまみえては遣り合ってきた。


 ぶつかれば当然命を懸けて殺し合うが、あくまで互いに傭われ戦っているだけ。恨み辛みがある訳ではない。戦いが終わればわだかまりなく付き合いもし、なにより互いの実力を認め合っている。同じ側で戦うとなれば、気安く話をしたりもする。


「イルトゥーラン軍に不穏な動きがあるって聞いたんだけどよ、まだ宣戦布告とかはねえのかい」

「ねえな。どうも国を挙げての戦って訳じゃなさそうだ。元気の余った跳ねっ返りが粋がってやがんのか、手柄の欲しい鼻息荒い奴がちょっかい出してきやがってんのか。まあ、そんなとこだろ」


「かっ。んだよ、つまんねぇな。どうせなら、ぶわーと派手に来いっつうんだ。拍子抜けじゃねぇか」

「まったくだ。なかなか面白れぇ戦には当たんねえな」


 ミブロスは団員たちを見回した。


「なんだ、少ねぇな。お前ぇんとこは全員じゃねぇのか。

 おっ、古くからの奴らだけじゃなく、新しい奴らもいんのか。なんだよ、神官様までいんのか。どいつもなかなか良い面構えしてんな」



 今回、ダリウス率いる傭兵団から出兵している人員はダリウスとオリム以外に本隊隊員の二十名と斬り込み隊の七名、そして神官のファイサル神官となる。


 ダリウスはファイサルをイルトゥーランとの戦には関わらせないようにしようとしたが、本人が当然のような顔で付いてきた。

 もちろん、ファイサルの目的は戦そのものではなく、ファルハルドからイシュフールの言葉を学ぶことだ。


 駐屯地からの移動中にも、時間さえあればファイサルはファルハルドからイシュフールの言葉を教わり、ファルハルドはファイサルに文章を綴る練習に付き合ってもらっている。

 他の傭兵たちは良くやるよと少し呆れて眺めていた。


 オリムはつまらなそうに鼻を鳴らした。


「あ゛ぁ? どこがだ。ありゃ、気取ったスカし野郎と根性なしなしのフヌケ野郎だ。どっちもショボくて話になんねぇよ」

「はっ、お前ぇは相変わらずだな。まあ、いいや。今回は味方なんだからよ、ダリウスにもよろしく言っといてくれ」

「オウ」


 ミブロスは自分の仲間の元へと帰って行き、代わりにしばらくしてダリウスが帰ってきた。


 明朝、夜明けと共に行軍を開始する。

 目指すはここより四日ほど東に進んだイルトゥーランとの国境付近。


 そここそがイルトゥーラン軍が待ち構える会戦の場所となる。

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