14. 子供たちの行く先 /その③
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次の日も、村長一家はファルハルドたちに食事を用意してくれた。
内容は昨日出された夕食と同じく、潰した麦と野菜を一緒に煮た粥が一品。具材の種類も少なく、肉卵の類は使われていなければ、味付けの塩も極わずか。
余所者相手だからと粗末な食事を用意された訳ではない。村長一家も同じ食事を摂っている。
村長宅でこの食事。これだけで、この村の厳しい食糧事情が窺える。
食事のあと、ファルハルドたちはモラードたちが使わせてもらっている部屋に集まった。モラードとジーラは不安そうにファルハルドたちの様子を窺う。
ファルハルドがおもむろに口を開いた。
「残念だが、この村では暮らせない。他に当てがなければ俺たちと一緒に街に行くことになる。街での暮らしがどうなるかはわからない。だが、できるだけのことはする」
ジャンダルが続けて説明を付け加える。
「おいらたちが行くのはパサルナーンって言って、ここから南西に十五日くらい行ったところにある街なんだ。
おいらたちはそこにある神様が創った迷宮に挑むんだけど、おいらも兄さんもいつどうなるかわかんない。でも、生きている限り面倒を見るし、できるだけのことはするよ」
モラードとジーラは泣き出しそうな顔になる。エルナーズはどこか考えこんでいるようにも見える。子供たちの気持ちが落ち着くまでファルハルドたちは静かに待った。
長い時間が過ぎた。ジーラがぽつりと「いっしょに行く」と呟いた。モラードも顔を上げ、「俺も一緒に行きたい」と告げた。
ファルハルドは頷く。
エルナーズに目をやるが、エルナーズに言葉はない。エルナーズが無言なのは毎度のこと。ファルハルドたちももう慣れた。
ジャンダルが「それじゃあ……」と口を開きかける。その時不意に、ずっと無言だったエルナーズが言葉を発した。
「親類が……いる、と思う」
一同は驚き、目を見開いた。しばらく待つがエルナーズからは続きの言葉は出てこない。
「えーと、あのエルナーズ。その親類ってのは、どういう人? おじさんとかおばさんとか、いとことか? その人はどこに住んでるのかな」
「伯母さん。お母さんの、姉、だった、と思う……。南の村、の、筈」
「はず、って。その南の村ってのはどこだかわかる?」
「よく、わから、ない。小さな、頃に出て以来、行ったことが、ない、から……」
ジャンダルが辛抱強く時間を掛け、何度も質問を繰り返すが、結局はっきりしたことはわからなかった。
どうやら伯母がいると言う南の村は、元々エルナーズの一家が住んでいた村でかなり大きな村であるようだ。エルナーズが幼い頃、なんらかの事情で両親に連れられ村を出た。
あちらこちらを移動し最後に東道の集落に辿り着いたため、正確な場所や道順はわからない。
ただ、大きくなってから母親が集落の人々と話しているのを聞いた内容から、このアルシャクス国の南部にある村の筈だと言う。
伯母さんは身体が大きく、よく笑う人だった印象があると言う。幼い頃の記憶だけにどこまで正確かはわからない。
そして、ずっと「おばさん」としか呼んだことがなかったため、名前に関しては全く記憶にない。ただ、顔を見れば年を取っていてもわかる筈だとは言う。
伯母さんは畑仕事もしていたが、なんだかよく大勢の人といた覚えがあるとも言う。
なんらかの取りまとめ役や相談役なのか、それとも店でも開いている人なのか。
ファルハルドもジャンダルも腕を組んで考え込む。当てになりそうだ。しかし、場所がわからなければどうしようもない。それにエルナーズの両親が村を出た事情が気に掛かる。どうしたものかと二人揃って考え込む。
ジャンダルが考え考え、口を開く。
「このアルシャクス内でここから南の大きな村、ってことなら探せる、かな。
おいらも主に東の国をうろついてたからこの辺りはよく知らないんだけど、街道沿いに南に行ったところ、街道が東西に別れる手前にエルメスタの使う停泊地があるんだ。そこで訊いてみれば、少しは場所を絞り込めると思うんだよね」
「停泊地?」
「あーと、村、みたいなものかな。泊まれる家があって、エルメスタが入れ替わり立ち替わり集まってくる場所なんだ。旅の途中で立ち寄って、情報とか商品とかを交換すんの。
おいらたちが知らない場所に行くときなんかは、停泊地で話を聞いて情報を集めるんだよ。おいらもこっちに来る前には、アルシャクスやエランダールのことをいろいろ聞いて回ったんだ」
「そんな場所があるのか」
「そそ。おいらたちエルメスタは皆ずっと旅暮らしだから、そういう場所も必要なんだ。イルトゥーランには少ないけど、どこの国にも何箇所かはあるよ」
「なら、まずはその停泊地に向かおう」
一同賛成する。希望が見え、皆の顔は明るくなった。
次話、「停泊地にて」に続く。