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深奥の遺跡へ  - 迷宮幻夢譚 -  作者: 墨屋瑣吉
第二章:この命ある限り

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29. それぞれの報告 /その②



 ─ 4 ──────


 ファルハルドは短剣を仕舞い、手紙である木札を手に取った。木札は大きく二つの塊に分けられている。その一つを開いてみた。



『やあ、兄さん、元気かい。こっちは順調にいってるよ。今は四層目に挑んでるとこ。


 この前、蜥蜴人の上位種の竜人と遣り合ったんだけど、いやー、ありゃ強かったー。結構、冷や汗掻いちゃったんだよね。

 力の強さや素早さも強化されてるんだけど、それ以上に鱗が硬いのなんのって。おまけに毒の息まで吐いてくるんだよ。ほんと、まいったね。


 て言っても、直接遣り合ったのはおいらじゃなくて、カルスタンなんだけどね。毒もくらってたいへんだったんけど、一度光壁で助けられた以外はカルスタンが独力で倒しきったんだ。カルスタンとペールもかなりの腕前だね。


 なんかねー、カルスタンはバーバクみたいにどっしり構えるって感じじゃなくて、自分からがんがん攻めてく感じなんだよね。ペールも守りの法術よりも攻めの法術のほうが得意みたいで、二人とも攻撃が主体になってるね。


 ほーんと、力が強いとか体格に恵まれているとか、あと便利な法術が使えるってのはいいよね。うらやましくなるよ。ま、おいらはおいらの流儀でやってくんだけどね。


 バーバクもハーミも変わりはないかな。あいかわらずよく食べて、よく騒いで、どんどん戦ってるよ。


 それでレイラなんだけど、怪我から完全に恢復したってことでパサルナーンからの所払いが実施されたんだ。兄さんが送られて半月後ぐらいだったかな。一応、連絡しちゃだめーってなってて、その後どうしてるかはわかんないんだ。


 でもねぇ、セレスティンはなんだかこっそり遣り取りしてるっぽくて、詳しくは教えてくんないんだけど、この前訊いたら万事(つつが)なくって言ってたね。

 そんなだから大丈夫だとは思うんだけど、兄さんのほうからもセレスティンに手紙を書いて尋ねてみればいいんじゃないかな。


 あー、で、フーシュマンドからの木札の塊はごめんだけど、どうしようもなかったんだ。一応ね、これでも頑張ったんだよ。本当だよ。多過ぎるだろって頑張って止めようとしたんだよ。


 ただ、まあ、ほら、ねー。あの人、やっぱ止まんないよね。取り敢えず、ほどほどに相手しとけばいいんじゃない。完全に無視したら、なんか飛んで行きそうな気がするんで、一通りは期待に応えといたほうがいいとは思うけど。


 傷薬とかそっちで必要かなーって思うものを適当に詰めておいたんだけど、もし他にそっちで必要な物とかあったら書いて寄越して。生ものとかは無理だけど、送れる物は送るから。


 んじゃ、また手紙書くからね。


     ジャンダル』



 ファルハルドは笑みを零した。

 ジャンダルからの手紙は実にジャンダルらしかった。迷宮攻略が順調に進んでいるようでなによりである。カルスタンやペールとも上手くやれているようだ。


 竜人、か。ファルハルドは考え込む。この地で蜥蜴人にもまだ出会でくわしていないが、もし自分が出会えばどう対処するか、それを考える。

 蜥蜴人と戦った経験を基に考えるなら、やはり鱗で覆われていない部分を狙っていく形になるだろうか。毒の息を吐くと言うが、毒の強さやその息の射程、吐き出す頻度によって戦い方は変わるだろう。


 ファルハルドはしばらく考え、次の手紙を開いた。



『拝啓


 春もたけなわとなったが、お主は息災であるか。お主のことだからさほど心配はいらぬと思うが、派遣された先はイルトゥーランとの国境地帯であると聞く。その点だけがいささか心配だ。


 聞くところによると、お主が派遣された傭兵団を率いる団長殿は一廉ひとかどの人物であるらしいの。叶うならば早々に友誼を結ぶがよい。

 そして、できる限り他にも信頼できる仲間を見つけられるよう努力せよ。無愛想が悪いとは言わぬが、少しは人と打ち解ける努力をするのだぞ。


 さて、お主の派遣された土地ではどうやら獣人のみならず、石人形などの『むさぼる無機物』どももよく姿を見せるようだの。とはいえ、無機物どもに関してはお主は迷宮内で一通りの種類と出会っておる。

 だが、獣人に関してはまだ出会っておらん種類がおる。よって、儂らの知るうち特に手強い獣人どもについてその特徴を記しておく。



 ・双頭犬人


 犬人の変異種となるが、個体としての強さは並の犬人よりいくらか手強い程度。せいぜいが狼人と同程度と言ったところだ。


 だが、こやつらの手強さとは個体としての強さではない。群れを率いる点こそが面倒なのだ。

 元々、犬人、狼人のたぐいは複数体で現れることが多いが、双頭犬人の率いる群れは大規模かつ群れの一体一体が恐れを忘れた狂乱状態となっており、気を抜けばあっと言う間に群れに呑まれることになる。


 よって、出会った場合にはなによりも群れを率いる双頭犬人を倒すことが肝心である。また、群れの構成員を相手取る時は手数多く傷を負わすことよりも、確実に息の根を止める、少なくとも戦闘を継続できないだけの深手を負わすことを目指すべきだのう。



 ・竜人


 蜥蜴人の上位種となる。身体能力全般が上がっておるが、特にその鱗の硬さは比べものにならぬほどじゃ。板金鎧に匹敵するか、あるいはそれを上回るほどだの。その上、その身に毒を帯びておるのみならず、毒息を吐いてくるので気を付けねばならぬ。


 実は儂たちもこの前、こやつと戦ってのう。その際にはペールの光壁で毒息を防ぎ、カルスタンの戦鎚で打ちのめしたのじゃ。いかに鱗が硬くとも、その内部の肉の身にまで衝撃を伝えれば鱗の硬さは関係ないということだ。


 とは言え、お主ではこの方法は採れぬ。お主ならば毒息を含め攻撃を全てかわし、目や口の中のような鱗に覆われておらぬ部位や、脇や股のような鱗の薄い部位を狙っていくのがよいだろう。



 ・牛人


 恵まれた体格と発達した筋肉を持つ怪物だ。獣人と言うよりも小型の巨人のような存在と考えたほうが分かり易いかもしれん。


 極めて興奮しやすく、興奮した際に繰り出してくる突進はバーバクでも受け止めることはできん。厚い筋肉に阻まれ傷を与えることは難しいが、お主が戦うならこの相手も躱しつつ急所を狙うことになるだろう。


 ただし、牛人には一つ気を付けねばならぬ特徴的な攻撃手段がある。儂らの間で『すくみの咆吼』と呼んでおる無音の咆吼じゃ。

 耳では聞こえぬ不思議な咆吼を放ってくるのだが、これを間近で浴びせられると身体が硬直し呼吸一つか二つ分の間動けなくなる。『守りの光壁』ならば防ぐこともできるが、そちらに法術の使い手がおるのかどうか。


 正直、今のお主では相手取るには少々荷が勝ち過ぎておる相手だ。出会でくわした際には、仲間と協力して対処するのが確実だのう。


 さて、最後となるがお主は少し根を詰め過ぎるきらいがある。気楽に、と言っても無理かも知れぬが、もう少し肩の力を抜いて、周囲を見回し生きることを楽しめ。レイラもきっとそう望むのではないかのう。


 では、運命にあらがう戦士に、抗う戦神パルラ・エル・アータル様のご加護を。


          敬具


     ハーミ・タリーブ=リー・パルレファーデ』



 ファルハルドは苦笑いを抑えられなかった。できれば牛人との戦いの前にこの手紙を読みたかった。


 しかし、『生きることを楽しめ』か。ファルハルドにとってそれはとても難しいことだった。


 生まれてこの方、楽しみを感じたことなどない、とは言わない。

 だが、ファルハルドにとって生きるとは、息苦しく不自由な重荷を背負って歩み続ける道程のようなもの。生きることそのものを楽しいと感じたことはない。


 ハーミの忠告は正しくとも、実現するには難しいものだった。



 ファルハルドは一息ついた後、木札を仕舞い葦筆カラムを手に取る。が、筆は進まない。頭を悩ませる。

 近況報告やフーシュマンドに頼まれた調査票はすでに記入しているが、二人からの手紙への返信をどうしたものか。未だに文を綴るのが不慣れなファルハルドにはなかなかに難易度の高い作業だ。


 パサルナーンからの監察官は明日の朝には出立する。ゆっくりと考え込んでいる時間はない。ファルハルドはうなりながらなんとか文章を捻り出していった。

 ((;OдO)) おぅ? なんか、またブックマークが増えて、感想まで貰えてる! 何だろう、急展開。なぜに?


 ……。

 …………。

 ………………。


 うん、自分の頭じゃさっぱり分からないね。分からないことは考えても仕方ない、素直に喜んでおこうー。

 うわーいヽ(^▽^)ノ


 何はともあれ、感謝感謝でございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ブクマは スコ速@ネット小説まとめ の方で取り上げられてるので、それでじゃないでしょうか 展開的には主人公がいつ魔法剣術覚えて種族特性に目覚めるのか気になるところです
感想一覧
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