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深奥の遺跡へ  - 迷宮幻夢譚 -  作者: 墨屋瑣吉
第二章:この命ある限り

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28. それぞれの報告 /その①



 ─ 1 ──────


 牛人たちとの戦いから三日経ち、西村に傭兵団の巡回の者たちがやって来た。ファルハルドたちはイルトゥーラン軍との戦いがどうなったのかを尋ねた。


 結果から言えば、戦闘は行われなかった。イルトゥーラン軍は闇の怪物たちを追い立て姿を見せたが、怪物たちを狩るだけであり、傭兵団とは戦おうとはしなかったのだ。


 もちろん、国境を侵してきた存在との間に一触即発の危険な空気は漂った。ただ、闇の領域との境界付近であるこの辺りでは、国境線も曖昧な部分が多い。この盆地がアルシャクスの領地であるというのも、あくまで実効支配の結果にすぎない。


 そして目の前の戦闘に夢中になるあまり、意図せず互いの領地に入り込んでしまうことはままあることだ。事実、傭兵たちも怪物と戦ううちに、いつの間にかイルトゥーランの支配域に入り込んだことが何度かある。


 イルトゥーラン軍と傭兵団は一刻ほど陣を敷き対峙した後、イルトゥーラン軍から軍使が送られてきた。軍使は、闇の怪物たちを追いかけるうちに誤ってアルシャクス内に入り込んでしまったとの説明と謝罪の言を述べた。


 この説明内容が真実であるのかどうかはわからない。ただ、雇われの身で敢えて問い糾す利点はない。ダリウス団長は謝罪を受け入れ、イルトゥーラン軍は引き返していったという訳だ。


 ちなみに、オリムが駐屯地に帰り着いた時にはすでにイルトゥーラン軍の影も形もなく、オリムは大いに悔しがったそうだ。



 ファルハルドとユーヴは巡回にきた団員たちに、クーヒャール神官から言われた治療状況の説明を伝える。


 ファルハルドの怪我のうち、左腕の骨折以外はすでに傷口は塞がっている。ただ、骨折と戦いの負傷から、高熱が続き全身が激しく痛んだ。今もなんだか熱っぽい状態が続いている。

 昨日まではずっと寝床から離れることができず、今日になりやっと起き上がれたという状態だ。


 ユーヴの怪我は深刻なものではないが、怪我をした箇所が足であるためできればすぐに歩いて駐屯地に帰るのではなく、もう二、三日様子を見たほうが良いと言われている。


 そのため、二人とも今回の巡回と一緒に帰還するのではなく、次の巡回と共に帰るつもりであると伝えた。

 巡回の傭兵団団員たちは了解し、その内容を団長たちに伝えておくと言い残し帰って行った。




 ─ 2 ──────


 西村にいる間、怪我の療養のため西村で過ごしておきながら、ファルハルドはあいかわらず鍛錬を行おうとした。ただ、それは当然クーヒャールにきつく止められた。仕方がないので村内をのんびり歩く。一方、ユーヴはここぞとばかりに寝て過ごしている。


 開拓村だけあり、立派な建物などはない。村長宅と礼拝所が他の建物より目立つ程度だ。戸数はおおよそ四十戸足らずというところ。皆畑仕事に出払い、食事時を除き昼間に村内に住人の姿はほとんどない。


 やはり何人かはファルハルドに嫌悪の目を向けてくる。ファルハルドは取り合うことなく、過ごす。


 朝には子供たちに交じり、礼拝所での手習い教室に参加した。子供たちはファルハルドに興味津々の様子だ。

 単純に見慣れない人物だというだけでも気になる上に、その人物は傭兵。村の大人たちが敵わない怪物を倒せる者。しかも、いかにも実戦を感じさせる怪我も負っている。気にならない筈がなかった。


 ねえ、名前は。強いの。何回ぐらい戦ったことあるの。かっこいい。戦争に行ったことある。なにしてるの。剣、見せて。字、下手。これ読んで。剣術教えて。


 子供たちは次から次へと脈絡のないことを尋ねてくる。ファルハルドは戸惑いながらも律儀に答えていく。クーヒャールはその様子を微笑みながら見ている。

 子供たちが家々に帰る頃にはファルハルドはぐったりと疲れ果てていた。


 空いている時間には木札を書いていく。フーシュマンド教導から依頼されている傭兵団や目にした人々の暮らしぶりの記録を。

 そして、手紙を書き綴る。ジャンダルやレイラに宛てて。傭兵団にやって来てからのその体験を。


 クーヒャールには話を聞いてもらった。イルトゥーランの暗殺部隊との暗闘を。ベルク一世の執着を。なぜ、今ファルハルドがこの地で傭兵をしているのかのその経緯を。パサルナーンの街に辿り着いてから出会った人々のことも。


 クーヒャールはファルハルドの話に静かにゆっくりと耳を傾けた。よくいる神官たちのようにわかったふうなことは言わなかった。

 農耕神の神官らしく、

「実りのときを迎えるためには、苦難を耐え忍びはぐくむための時間が必要なのです」

とだけ述べた。


 『育む』。それはファルハルドの発想の中に存在したことがなかった言葉。なぜか、その言葉は今、ファルハルドの胸に素直に沁み込んだ。


 三日後、クーヒャールに手厚く感謝の言葉を述べ、ファルハルドたちは巡回に来た傭兵たちと共に駐屯地へと帰って行った。




 ─ 3 ──────


 牛人との戦いから十五日ほど経ちファルハルドの骨折もほぼ治った頃、パサルナーンから保安隊の監察官がやって来た。


 ダリウス団長に呼び出され、ファルハルド、ゼブ、ジャコモ、他に本隊に所属している囚人二名がダリウスの天幕に集められた。この五名が現在、パサルナーンから苦役刑として傭兵派遣されている者たちとなる。


 監察官はしばらくファルハルドたちの状態を確かめたあと、一人一人と言葉を交わす。

 話す内容はちょっとした世間話だ。ここでの生活はどうだ、うまく馴染めているか、体調に問題はないか、などなど。充分に働けているか、この先も働けるかの確認だ。


 その後は監察官は団長たちとの話し合いに移り、ファルハルドたちは解散となった。


 ファルハルドたちは荷馬車を停めてある場所に向かった。今回は前回オリムが監督者に約束させた食糧の提供があるため、普段よりも大型の荷馬車でやって来ている。

 荷台の半分を占める食料を下ろす作業を一人でしている御者に話しかける。御者はファルハルドたち一人一人の名前を確かめ、それぞれに宛てられた荷物を渡していく。


 ファルハルドにもあった。なぜか二袋と細長い革袋が。運ばれてくる差し入れは、一人頭両手で抱えられる袋一つまでではなかったのか。

 ファルハルドは戸惑い、御者を見る。御者は少し困ったように、あるいは同情するような目でファルハルドを見る。


 ろくな事ではなさそうだ。

 パサルナーン政庁から送られてくる荷物に融通を利かせられるような人物。普通より多い荷物。荷物を配る御者が哀れむ内容。

 思い当たるのは一つ。ファルハルドの顔が引きるが、かと言って受け取らない訳にもいかない。少し顔を背けながら受け取った。


 ゼブもジャコモも嬉しそうな様子で荷物を受け取っていく。荷物を受け取った者は皆、いそいそと自分の天幕に帰って行くが、ただ一人だけ荷物がない者がいた。その背中はやけに小さく見えた。



 ファルハルドも自分の天幕に戻り、袋の中身を確かめる。


 まず最初に気になっている袋から開けることにした。その袋は手触りで中に大量の木の板が入っているとわかっていた。

 覗き込む。やはりな。中身は大量の木札。当然、フーシュマンド教導が送ってきたものだ。調査して欲しい内容が延々と箇条書きに書き連ねられている。ファルハルドはその量を見て、げんなりとした。


 気を取り直して、もう一つの袋を開ける。


 最初に目についたのは傷薬など薬類。これはジャンダルからだろう。蜂蜜の結晶化したものが小さな箱に詰められている。ハーミからだろうか? ならば酒のつまみにもなるいろいろな風味の干し肉はバーバクか、あるいはカルスタンやペールたちか。底には大金ではないが、銅貨を詰めた巾着も入っていた。これはセレスティンだろうか? あるいは皆が少しずつ持ち寄って、なのかもしれない。


 他に手紙も入っていた。ざっと見る限りそれぞれの近況を書き記した木札がまとまった量入れられている。これはあとからゆっくりと落ち着いて読むことにする。


 次に細長い革袋を開けてみる。中身は短剣だった。

 鞘から抜く。その刃の印象から考えて、おそらくこれはオーリン親方の工房で打たれたものだろう。逸品とまでは言わないが、なかなかに良い品だ。普段から置いてある通常品ではなく、ファルハルドのために注文された品だろう。


 ファルハルドのために注文された品だろうと考える根拠は刃の良質さではない。その装飾に特徴がある。

 と言って、派手派手しく飾り立てられている訳ではない。柄頭に一つ、ささやかな貴石がめ込まれているのだ。


 そう、レイラの瞳の色とよく似た緑の貴石が。


 ファルハルドはその緑石を飽くことなく眺め続けた。

 ((;゜Д゜ ))


 え、え、えぇー。なんか、ブックマークが増えてる!

 なぜに? 吃驚!


 なにはともあれ、感謝、感謝です。

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