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深奥の遺跡へ  - 迷宮幻夢譚 -  作者: 墨屋瑣吉
序章:たとえ、過酷な世界でも
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13. 子供たちの行く先 /その②



 ─ 3 ──────


 西丘村はモラードたちの集落と同じように高い木の柵に囲まれている。

 ただ、モラードたちの集落と違い、柵は丁寧に隙間なく作られ、物見櫓までもが建てられている。村自体が丘の上にあるため、かなり遠くまで見通せるだろう。


 昼間は皆、畑仕事に出払っているのか、今は村内には人影はほとんど見られない。

 ハサンの案内に従い、ファルハルドたちはその人影の少ない村内を進んで行く。


 一軒の他よりも大きな家の庭先で、鉈を振るい木を削る、初老の男性の姿が見えた。


「村長、済みません。ちょっといいですか」

「おお、ハサン。どうした、お客人かな」


 実は……、とハサンは先ほどジャンダルから聞いた話を村長に伝える。村長は驚き、目を大きく開いてファルハルドたちに尋ねた。


「今の話は本当ですかな」


 ファルハルドが「ああ」と答えると、痛ましそうな表情でモラードたち一人一人の手を握っていく。


「たいへんな目に会ったの。お前たちだけでも助かったのはせめてもの救いだ。剣士様がた、詳しい話を聞かせていただいてもよろしいですか」


「ああ、いいよ。先にこの子たちをゆっくり休ませてやって欲しいんだけどいいかな」

「ええ、もちろんです。空いている部屋に案内させましょう。ハサンもご苦労だった。あとは儂が話を聞くから、お前は畑に戻ってくれ」



 家の者にモラードたちを任せ、村長はファルハルドたちを案内する。村長宅にはちょっとした集まりにも使えるよう、簡素だが広いミーズが置かれた部屋がある。


 村長はファルハルドたちに椅子サンダリーを勧め、手ずから飲み物を入れた椀を出す。村長も席に着きおもむろに口を開いた。


「あの子たちの村が賊に襲われたのは間違いありませんか」

「うん、ないね」


 ジャンダルがモラードたちと出会ってから賊を退治するまでを掻い摘んで話して聞かせる。険しい顔のまま村長は身を乗り出した。


「では、賊たちは一人残さず退治されたのですね」

「少なくとも、おいらたちが村に着いた時に残っていた奴らは全員片づけたよ。見張りも立てず、呑気に家畜を焼いて喰らってたような奴らだかんね。二手に分かれてた、なんてことないと思うよ」


 村長はジャンダルの説明に頷き、強張こわばった表情をわずかに緩めた。一息つき、少し目元を暗くしながらさらに尋ねる。


「あの子たち以外、誰も助からなかったというのも、やはり」


 しばしの沈黙の後、ファルハルドが口を開く。


「火葬にした住人は二十一人。モラードはそれで全員だと言っていた」

「そうですか」


 村長は瞑目し、東道の住人たちの冥福を祈った。しばらくして顔を上げ、

「お二人がいらっしゃらなければ、あの子たちもどうなっていたか。仇を討って下さり、少しはあの子たちの気持ちも救われたことでしょう。

 それに賊たちは次はこの村を襲っていたかもしれません。お礼の言葉を重ねても足りません。ありがとうございます」

と、丁寧に礼を述べた。



「勝手にやったことだ。礼は不要」

「そそ。それよりあの子たちのこと、頼めないかなぁ」

「それはあの子たちをこの村で引き取るということですかな」


 村長は固い表情で訊き返してきた。


「うん。どうやら他に親類とかもいないみたいなんだ。知り合いもこの村ぐらいにしかいないみたいで。無理かな」


 村長は考え考えゆっくり話す。


「村人たちにも訊いてみなければわかりませんが、正直難しいでしょう。あの子たちの村は十年ほど前、どこの者とも知れない者たちが周囲に無断でひらいた村なのです。我々はいつ村人全員が賊になるかと、ずっと疑いの目で見ておりました。


 まともに交流を持ち始めたのは、東道に子供が増え落ち着いてきた、ここ数年のことなのです。未だ良い感情を持っていない者もおります。なにより去年はあまり作柄が良くなく、いま村に余分な蓄えはありません。あの子たちをこの村で引き取るのは難しいでしょう」


「まいったな」とジャンダルはこぼし、ファルハルドと二人考え込む。


「エルナーズ一人なら、あるいは嫁を探している家で引き取ることもできるかもしれませんが」

と、村長は提案するが、今のエルナーズの様子を考えればそれも厳しいと言わざるを得ない。


「話してみるしかない」

「そうだね。村長さん悪いんだけど、今日と明日宿を貸してもらってもいい? 今日は子供たちをゆっくり休ませて、明日どうするか話し合うよ。明後日の朝には必ず出発するし、お代として連れてきた山羊を残していくからさ」


 村長は滅相もないと慌てて手を振る。


「お代など結構。先ほども申した通り、お二人にはこの村も助けていただいているのです。むしろ、行く当てのないあの子たちの力になれず、申し訳ない」

「気にしないで。別に村長さんのせいじゃないよー」




 夕食のあと、子供たちで一室、ファルハルドたちで一室を用意してもらった。ジャンダルは集めた藁に布をかけた寝床に手足を伸ばしてぽーんと飛び込み、ファルハルドは沈鬱な表情のまま寝床の上にゆっくり腰を下ろす。


「やっぱ、難しかったかー」

「この村の生活も苦しいようだな」


「だろうねー。ほら、集落を襲った賊たちも行く当てがなく、食糧も尽きてどうしようもなかった、って言ってたじゃない。案内してくれたおっちゃんも最近物騒な奴らがうろついているって言ってたし、たぶんこの辺りはどこもかしこも今、生活が苦しいんだろうね」


「なら、どこかで運よく引き取り先を見つけるのも難しそうだな。最悪、パサルナーンまで連れて行くしかないか」

「そうなるかなぁ。ただ、あの子たち農村の生活しか知らないだろうから、街で暮らせるかな。おいらたちだって、いつ死ぬかわかったもんじゃないしね」


 ファルハルドも横になる。


「他に手がないなら仕方がない」

「そうだね。そうするしかないかな」


 耳を澄ませば、隣の部屋からジーラの泣き声が聞こえてくる。今になって、また親や故郷をなくした寂しさが込み上げてきたのか、先行きに不安を覚えているのか。


 ファルハルドたちとしても道中の危険や、先行きの不確かさを思えばどうすべきか惑う。だが、見捨てることなどあり得ない。誓いを守る。ジーラの泣き声を聞き、決意を新たにする。

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