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深奥の遺跡へ  - 迷宮幻夢譚 -  作者: 墨屋瑣吉
第二章:この命ある限り

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24. 牛人との戦い /その②



 ─ 3 ──────


 獅子型の泥人形は弓矢の攻撃により興奮している。最初に接触した人間であるファルハルドに二体共が襲いかかる。

 狼型の木人形のうち一体がハサンに向かい、残り四体は馬車を守る護衛の者へと殺到する。


 二体の泥人形は同時にファルハルドに襲いかかる。

 ファルハルドは足を大きく踏み出し、左側から迫っていた一体を斬りつけつつその横を擦り抜ける。前脚を半ばまで斬り裂くが、傷はたちどころに修復される。


 やはり外では、泥人形には単に傷を与えるだけでは追い込むことはできない。斬り裂くのではなく、斬り落とす。手数の多さではなく、強い一撃が必要となる。


 ハサンは敵に狼型の木人形が加わり、二対一となった。

 しかし、形勢は大きくは変わらない。斬り込み隊にしては珍しく、ハサンは時間は掛かっても傷を受ける危険を少なくする堅実な戦い方をする。

 一気に敵を倒すことも、一気に敵に攻められることもない。繰り出す攻撃は激しく、しかし戦い方は堅実に。慎重に、確実に敵を追い詰める。


 オリムは鎖帷子でその身を守っていることもあり、深手は受けていない。しかし、鎖帷子はあちこちが損傷し、少なくない怪我を負っている。


 だが、それは冬営地傍で犬人と戦った時よりもよほど程度の軽いものだった。

 犬人よりもより強力な敵である獅子人と戦う現在のほうが、受けている怪我は少なく軽い。あの時は先に行ったファルハルドとの手合わせで消耗していたということだろうか。現在は遺憾なくその実力を発揮する。


 オリムと獅子人。両者は傷を負いながら、いよいよ激しく闘志を燃やす。


 馬車を守る本隊隊員と商団の護衛の者たちは、少なからず手古摺てこずっている。


 馬車を守る者たちと石人形との戦いはまだ続いている。

 そこに新たに木人形たちが迫ってきた。弓を構える男たちは迫る木人形たちが護衛の者たちと接触する前こそ弓矢を活かせると、あらん限りの矢を射掛け、可能な限りの損傷を与えた。


 矢だけで倒せた敵はいない。それでも、進みを邪魔し、木人形たちがまとまって攻めてくることは防いだ。


 本隊隊員と商団の護衛の者たちは、未だ大怪我を負っている者はいず、木人形が加わる前になんとか二体の狼型の石人形を倒した。

 そこに四体の狼型の木人形がてんでばらばらに襲いかかってきた。


 本隊隊員三名と商団の護衛の者たち五名対狼型の石人形二体と狼型の木人形四体。味方と怪物たちが間近に入り交じっている状態では弓による援護は難しい。


 一度は護衛たちの手が回らず、一体の石人形が護衛たちを擦り抜け馬車に迫った。馬車の屋根の上で弓を構える男たちは、急ぎ矢を放つ。

 石人形に矢は効かない。わずかに表面にひびを入れるにとどまった。石人形は駆け抜け、馬車に対して体当たりをくらわした。


 鉄板で補強された馬車の側面が破られた。石人形は側面を突き破り、馬車の中を通り抜け逆側の側面にも穴を空ける。側面は両側に大きな穴が空き、鉄板は折れ曲がり鋭く尖った断面が剥き出しとなる。


 側面に穴を空けたが、石人形も一度の体当たりでそれ以上進むことはできない。側面の穴から頭だけを覗かせ、激しく身をよじる。石人形は側面の穴から抜け出すことはできなかった。


 弓を構える男たちの一人は投石紐に持ち替え、紐に大き目の石を挟んで振りかぶり、屋根から飛び降りた。落下の勢いを載せ、側面から覗かせている石人形の頭を強打。石人形は頭を砕かれ行動を停止した。


 馬車まで達した敵は今のところ一体だけ。個々の戦いは今、均衡している。それらの戦いがどうなるか、その結果で全体の趨勢は容易に変わる。




 ─ 4 ──────


 ファルハルドは敵の攻撃をかわしつつ、斬りつける。


 敵は獅子型の泥人形二体。強い一撃を繰り出すためには瞬間的にでも足を止め、地を踏みしめる必要がある。一体を狙い強い一撃を繰り出そうとする度に、別のもう一体の攻撃を受ける。


 今もファルハルドは敵の攻撃を受け、吹き飛ばされた。即座に二体共が殺到する。


 予想通り。飛ばされたのはわざと。盾で敵の攻撃を受けつつ自ら跳ぶことで、被害を抑えやられた振りをしながら距離を取った。


 二体共が同じように距離を取ったファルハルドを狙うことで、二体の動きが揃い単純化、さらには立ち位置の違いからファルハルドまでの距離に違いが生じた。

 先に襲ってきた一体を跳躍で躱し、遅れて迫る別の一体に上から迫る。その頭を二つに斬り裂いた。


 迷宮内であるならば、この時点で倒し終わっている。だが、ここは外。泥人形は足下の土を使い、攻撃を受ける瞬間から修復を始めていた。


 ファルハルドは頭を裂くだけでは倒しきれないと理解していた。

 だから止まることなく、着地と同時に次の攻撃を繰り出した。振り下ろした剣を即座に振り上げ、修復途中の一瞬の行動停止時間を狙い泥人形の首を落とした。


 残る敵は獅子型の泥人形一体。手強い相手だが、決して倒せない相手ではない。他の者の戦いを視界に納めながら、ファルハルドは確実に泥人形を追い詰めていく。




 その時、林の立木が揺れた。しずくが地面へと落下する。他の者はまだ気付いていない。現在、ファルハルドが最も北側に突出している。ファルハルドは泥人形と戦いながら、林の異変に気を向ける。


 激しい激突音が鳴り響く。全員が異変に気付く。立木が倒れ、落下する水滴が地面を激しく打つ音に、地を震わすような低く重く力に満ちた獣のうなり声が混ざり合う。


 なんだ。敵の攻撃を躱しながら目をやったファルハルドの視界に新たな敵が姿を見せた。


 大きな角。分厚い筋肉。巨大な身体。小型の巨人と同等の体格と獣人の素早い突進力を持つ闇の怪物。

 牛人。数ある獣人たちの、その最強の一角を占める存在が姿を現した。



 牛人は四足歩行のまま、頭を下げ角を向けて突っ込んでくる。ファルハルドは寸前で躱した。獅子型の泥人形は牛人の進路上にいた。避けようもなく、体当たりをくらう。一撃でその全身が砕け散った。


 牛人の突進。その大質量に獣人の速度が加わった恐るべき攻撃。

 躱しつつも身体をかすめられ、眼前で泥人形の砕け散る様を見たファルハルドの全身に冷たい汗が吹き出す。まともにくらえば一撃で死ぬ。頭ではなく、身体でそれを理解した。


 行き過ぎ、そのまま馬車へ向かうかと思われた牛人は、二本の足で立ち上がり首を巡らせなにかを探す。その瞳がファルハルドをとらえた。牛人は自らの攻撃を躱してみせたファルハルドに固執する。


「やべぇぞ。咆吼に気を付けろ」


 咆吼? オリムは奇妙な注意を行った。ファルハルドにはその意味がわからない。

 オリムは説明を続けようとするが、オリムもまた戦闘中。これ以上の言葉は続かない。ファルハルドにも訊き返すだけの余裕はない。


 牛人は二足歩行のまま、その足で地面を掻く。土が舞い上がる。再度角を向け、突進。ファルハルドへと迫る。


 盾で受けたところで受けきれるものではない。横に足を踏み出し、素早く躱す。

 躱しながら横を通り過ぎる牛人を斬りつける。が、さしたる傷は与えられない。分厚く固い筋肉に阻まれ、表面を斬ったに過ぎない。


 勢いよく通り過ぎるかと思われた牛人はその場でくるりと身をひるがえす。鼻息荒く、その拳で殴りつけてきた。拳もまた重く、力強い。一撃一撃にまるで戦鎚で殴りつけるかのような威力がある。


 ファルハルドは盾を割られぬよう、躱せる分は躱し、盾で受けざるを得ない分も可能な限りらせた。

 逸らしてなお、衝撃が身体を突き抜ける。一撃受けるごとに体力が削られる。押され、じりじりと足は後ろに下がっていく。


 いつまでもは受けきれない。だが、反撃を行おうにも、牛人の強力な攻撃に対処するために固く固めた身体では切り返しが一手遅れる。反撃を繰り出す隙を見出みいだせない。


 紛れもなく強い。拳を使った攻撃は獣人にしては遅い。しかし、その力強さは他の獣人を越えている。そして、筋肉に阻まれこちらの攻撃は通らない。

 距離を取り、仕切り直そうとすれば即座に突進を繰り出してくる。突進時の速さは獣人の中でも上位の速度を誇る。


 紛れもなく強い。だが、これだけでは数ある獣人の中で最強の一角を占めると言われるには足りない。最強をうたわれる理由は優れた身体能力だけではない。その理由とは。


 不意に、連続で繰り出されていた拳による攻撃に一拍の間が空いた。ファルハルドは瞬間的に刺突を狙い、牛人の懐に跳び込もうとした。


 その刹那。ファルハルドの背に悪寒が走る。いったいなにが。説明のつかない予感がファルハルドの本能を刺激する。


 牛人は大きく息を吸い込み、身を震わせている。ファルハルドは咄嗟に盾を構え、地を蹴り距離を取ろうとした。


 その瞬間、牛人が謎の咆吼を発した。それは耳では聞こえない。だが、身体が感じる。魂を揺さぶる異様な咆吼に撃たれた。


 ファルハルドの身体が動かない。意識はある。思考を途絶えさせてはいない。ファルハルドの意思は動けと命ずる。しかし、身体は動かない。その身はなに一つ反応しなかった。


 牛人は至近距離から突進を繰り出した。動かぬ身体では避けようがない。

 ファルハルドの身に大質量の巨体が迫る。


 ファルハルドは牛人の突進を真正面から受けた。

 吹き飛ばされる。身長の五倍以上の距離を飛ばされ、受け身を取ることもできず地に叩きつけられる。

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