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深奥の遺跡へ  - 迷宮幻夢譚 -  作者: 墨屋瑣吉
第二章:この命ある限り

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16. 開拓村の暮らし /その①



 ─ 1 ──────


 駐屯地の移設から十日。エンサーフの月に入り、ファルハルドは初めて開拓村に向かう。


 駐屯地周辺の巡邏はファルハルドも行っているが、開拓村までは徒歩だと往復するだけで半日が掛かるため、普段開拓村周辺の見回りは騎馬隊の者が行っている。

 今回はファルハルドたち新入りに開拓村までの道順や地形を覚えさせるため、ナーセルと髭ありハサン、ファルハルド、ジャコモ、他に冬の間開拓村に常駐していた本隊所属の者二名の計六名で開拓村で向かうことにした。



 開拓村までの道のりは騎馬隊が頻繁に行き来していることもあり、歩くのに不自由しないだけの道ができている。

 周辺は明るい。盆地の北側は鬱蒼とした森となっているが、南側は人の手が入っているためか、土地の起伏自体は小さくないが歩きやすく見通しの利く明るい林となっている。


 途中での休憩を挟みながら進む。地形を把握する目的もあるため、ときに道から外れた場所を見、ときに木に登り周囲を見回し、と行いながら進んでいく。それでも日暮れまでにはまだまだ時間がある刻限に一つ目の開拓村へと辿り着く。



 開拓村周辺は広く拓かれ、住居のある村落部分を中心にその周囲を畑が、さらにその周囲を林が取り囲んでいる構造となっている。


 村に入る前に周辺の探索を行う。怪物たちの姿は確認できない。もっとも、元々闇の怪物たちの活動は昼間は低調だ。厚い雲で日の光が遮られているなら話は別だが、今日は珍しく弱いながらも日が差している。今、怪物たちの姿が見えないことに不思議はない。


 注意深く足跡も探るが、怪物たちの新しい足跡らしきものは見当たらなかった。動物たちの足跡は多数あるが、それがただの動物のものか、凶暴化した獣のものかまでは確認できない。


 村人たちは畑で農作業を行っている。畑と林や道との境は腰までの高さの垣で区切られている。


 村人たちに声を掛けながら進んでいく。村落部分の周りには、以前見た東道の集落よりも高さが高く頑丈な木の柵が巡らされている。柵の内側に深い空堀が、その内側に分厚い土塁が築かれ物見櫓も作られている。


 村落部分の西側、すぐ横には川が流れ、この川は下流に下っていけば傭兵団の駐屯地へと繋がっている。川には堰が造られており、外せば空堀に水を流し込めるようになっている。


 川の向こう、開拓村から見て西に進んだ場所からは高くはないが広く続く丘陵地となっており、南は二刻ほど進めば盆地を囲む山々に達する。



 一行はこの開拓村に詰めていた本隊隊員の案内で村長宅に向かう。

 村長宅は川傍にあった。他の村民たちの家屋よりも大きく、並びに離れも建てられている。ただ、開拓村だけあり、村長宅とは言え室内に物はほとんどない。水瓶が目立つ程度だ。農具や織機は別の部屋にでも置かれているのだろうか。


「よく来てくれた。歓迎するぞ」


 村長は声が大きく、覇気に満ちた男だ。年の頃は三十半ば頃か。少し若いが、開拓村を率いるならこのぐらいのほうが相応しいのだろう。


 室内には机や椅子もないため、ナーセルと冬の間この開拓村に常駐していた本隊隊員のオルダが村長と向かい合う形で絨毯の上に腰を下ろし、ファルハルドたちは少し離れてそのまま立っている。


「どうだい、近頃怪物たちは姿を見せたか?」


 オルダの問いかけに村長は首を振る。


「あんたらが見回りをしてくれているお陰で闇の怪物たちは現れていないな。三日ほど前に獣たちが騒がしかったが、それも俺らで撃退できたぞ」


 この世界、どこであっても怪物たちの襲撃は存在する。当然、ただの村人であってもある程度は戦える。ましてや、人の領域の最前線を伐り拓く開拓事業に人生を賭けようとする者たちなら、凶暴化した獣を撃退することぐらいのことは普通にやってのける。


 村長宅に向かう途中、村の中を通る時に動物の皮を干しているのを見たが、おそらくそれが三日前に襲ってきた獣たちのものなのだろう。


「まあ、去年みたいな大規模な侵攻ならあんたらに頼るしかないがな。あの時は本当に助かったよ」

「なーに、気にするない。それが仕事だ」


 ナーセルたちはそう言いながらも、満更でもない顔で手を振る。

 ナーセルはファルハルドたちを指差す。


「あいつらが今度入った新入りだ。今日はちょっと顔合わせに連れてきたのさ」


 村長はファルハルドたちに目を向け、頭を下げる。


「俺がこの開拓村の長をしているワリドだ。よろしく頼む」


 ファルハルドの印象としてはこのワリド村長は農民というより兵士に見える。筋肉の付き方やその雰囲気が戦う者に近い。武器を手にすれば、なかなかに手強そうだ。そして、ナーセルやファルハルドのような忌み子を見ても気にした様子はない。

 その逞しさや明るい性格は確かに人を率いるのに向いている。ファルハルドとジャコモは揃って頷き、挨拶を返した。


 ワリドの妻が食事の用意ができたと顔を覗かせた。妻は年若く、笑顔の明るい女性だ。妊娠中らしく、大きなお腹を抱え動きづらそうである。ファルハルドは食事を運ぶワリドの妻を手伝う。それを見て、ジャコモも手を貸した。


 ワリドと並んで腰を下ろした妻にオルダが声を掛ける。


「エベレ、また腹がでかくなったな。そろそろ産まれるんだったか」

「なに言ってんですか、オルダさん、いやですよ。予定はターベスターン頃ですって」

「そうだったか、随分でかくなってるからそろそろなのかと思ったんだが」


 オルダは頭を掻く。ワリドは声を上げて笑う。


「なんだ、妊婦は見慣れないか。あんたもいい年だろ。そろそろ身を固めてもいいんじゃねえか」

「バーカ、相手がいねぇよ」


「なんなら、うちの村に来てもらってもいいんだがな」

「なに言ってやがる。この村に独り身の娘なんていねぇじゃねえか」


 ワリドはそうだったと豪快に笑う。開拓村だけあり、今この村に暮らすのは男だけで暮らす者か夫婦者しかいず、独り者の女性などいなかった。

 ちなみに子供の姿はあるが、それも労働が行える年齢の子たちで、幼子はいない。ワリドたちの子供がこの村で産まれる初めての子供となる予定だ。


 ファルハルドは食事の会話に混ざることもできず、静かに会話に耳を傾けていた。

 ワリドの今の心配事は雨続きの今年の天候らしい。


 この開拓村はアルシャクスの国家事業の一環として作られた。人々を募るため、開拓村が作られてから最初の五年間は税が免除されているが、開拓村ができてから今年が六年目。いよいよ今年から税が掛かってくる。

 今年と来年が通常の半額、その次の年からは通常通りの税を納めなければならない。


 この五年間でだいぶ生活も落ち着き、畑も拡がったが蓄えなどはできていない。作物が育つだけの充分な日照が得られるかが心配だと言う。


「大変だな。まあ、そのあたり俺らにゃどうにもできねぇが、怪物たちの脅威は取り除いてやるからよ。せいぜい頑張れよ」


 その夜は村長宅の離れを借りて休んだ。休む前にファルハルドは村内を一通り見回った。村内に明かりは見当たらない。

 もっともこれは不思議でもなんでもない。街なら別だが、農村ではどこであっても日が暮れれば皆すぐに眠り、わざわざ灯りをともしてまで夜更かしをしたりはしないからだ。


 一際ひときわ大きな村であるカルドバン村でも、日が暮れた後まで灯りを灯していたのはニユーシャーの店くらいのものだった。そのニユーシャーの店でも灯りを灯すのは店に来た客がなかなか帰らず、客が残っている間だけだ。


 暗い村内を見て回るが、特に異常などはなかった。柵の向こう、畑に動物たちの気配がある。もしかしたら畑が荒らされている可能性もあるが、そのあたりはファルハルドにはよくわからない。

 ファルハルドは農村の暮らしを知らない。農村で過ごしたのはカルドバン村で過ごした一月半程度の経験しかない。


 開拓村。闇の領域と接するなか、人の領域を拡げるための活動。地を耕し、人の領域を拡げ、その生を篤実にまっとうする人々。そして、子をし慈しみ育てる生活。


 それぞれの家屋のなかから聞こえてくる寝息を耳にし、当たり前の人の暮らしに思いをせた。

 Σ(ОД○*)

 いつの間にか、ブックマークが増えてる!

 お、おおぅ。吃驚。

 更新した訳でもないのですが……。


 何はともあれ、感謝感謝でございます。

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