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深奥の遺跡へ  - 迷宮幻夢譚 -  作者: 墨屋瑣吉
第二章:この命ある限り

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07. 西部傭兵駐屯地 /その⑦



 ─ 7 ──────


 ちょうど、ファルハルドが身体をぬぐい終わり、新しい服に着替え再び鎧を着け終わった頃、ゼブとジャコモを連れたアレクシオスが姿を見せた。


「二人とも見られる格好になったな」


 声を掛けられたオリムが尖った目をアレクシオスに向けると、隣にいたジャコモが露骨に怯え挙動不審になる。

 その態度が余計にオリムを苛立たせる。舌打ちし、きつい目で睨みつければ、ジャコモはますます身体を縮こませた。


「お前はなにを威嚇しとるんだ」


 タリクが呆れ顔で背伸びし、音を立ててオリムの頭をはたく。


「てえーな、コラ」

「いちいち、いきってんな。面倒くさい」

「まったくだ。これでは話もできないではないか」


 タリクとアレクシオスに揃って注意され、オリムも一応はつっかかることを抑えた。もっとも、誰が見てもわかる不満顔のままだが。



 アレクシオス、オリム、タリクが横に並び、ゼブ、ファルハルド、ジャコモと向き合う。アレクシオスが代表するように口を切り、説明を進めていく。


「この者がタリク。見ての通り、鍛冶職人として団の武具の製作や補修を一手に引き受けている。タリクの機嫌を損ねるといつまで経っても装備を直してもらえなくなるから気を付けろ」

「お前はなにを言っとるんだ」


 タリクは呆れ、手に持つ鎚を空いている手で叩きながら口を挟む。


「武器は壊すな。防具は壊すな。とにかく仕事を持ち込むな。自分の武具は自分で手入れしろ。道具を粗末にする奴は鎚をくらわして炉にべてやるから、そのつもりでいろ」


 毎度の言い草なのだろう。アレクシオスは薄く笑っただけで説明を続けようとしたが、オリムが茶々を入れてくる。


「単に仕事したくねぇって、だけじゃねぇか」


「当たり前だ。直すのも無料ただではないんだぞ。薪、炭、鉄、革、その他諸々。資材を仕入れるだけで一仕事だ。当然、費用は馬鹿にならん。戦闘がある度に派手に破損されたら大赤字だ。

 おまけにこっちは三人しかおらんのだ。手が回る訳なかろうが。いらん仕事を増やされてたまるか」


 自身修理待ちのオリムとしては、これには言い返す気にはなれなかった。まだまだ不満を零し足りなそうなタリクをアレクシオスがなだめる。


「私たちがこの団の副団長をおおせつかっていてな。帳簿は団長殿の奥方が預かられている訳だが、タリクも仕入れの都合で一通りの資材管理に関わっている。赤字だなんだには敏感になるということだな……。

 あなたがたは戦闘要員として戦いを行うのが役目だが、タリクや奥方の支えがなければ戦うこともできない。気を付けてくれ」


 ファルハルドたちが神妙に聞いているのを確認し、説明を続ける。



「団長殿の奥方への挨拶も必要だが、今は夕食の準備で忙しい刻限だ。またあとで改めて行うことにしよう。


 それよりも、団の説明だ。あなたがたは今日から刑期が明けるその日まで団の一員として働いてもらう訳だが、まずは我が団が現在請け負っている任務を簡単に説明しよう。


 我々は現在アルシャクス国に雇われ、アルシャクス西部開拓地の警戒警護、脅威を取り除く任に就いている。

 主敵は闇の領域から溢れ出てくる闇の怪物たち。あなたがたはパサルナーン迷宮に潜る挑戦者であり、闇の怪物相手の戦闘に慣れていると聞いている。充分な働きを期待している。


 ただし、この地ではイルトゥーラン軍相手の戦闘も珍しくはない。人同士の戦闘はいとう、と言うなら、あなたがたが生き残ることは難しいだろう」


 ここでアレクシオスは一度話を止め、ファルハルドたちの反応を確認するようにゆっくりと顔を見回した。

 ファルハルドは人相手の戦闘があると聞いたところで特に動揺することなどない。他の二人もその点は同じだった。アレクシオスは満足そうに頷いた。


「あなたがたに求めるものは簡単だ。命令に従い、敵と戦うこと。以上である」


 オリムが大声で付け加えた。


「命令違反はぶっ殺す。覚えとけ」


 わかり易過ぎる言い様に、アレクシオスとタリクはやはり呆れ顔になる。


「オリムと私はそれぞれ別働隊を率いている。ゼブは私の、ファルハルドはオリムの指揮下に入ってもらう。ジャコモは本隊の所属になるので、形としては団長殿の下だが、直接的な指示は別の者が行う。誰の指示で動けばいいかはあとで周囲の者に確認しておけ。


 オリムの隊は真っ先に敵陣に飛び込む、斬り込み隊。私の隊は騎馬隊として伝令や追撃、機動力を活かした戦闘を行う。


 といって、厳密に分かれている訳ではない。役割分担はあくまで目安だ。団長殿の指揮の下、その時々に求められる役割を柔軟に果たすことになる。

 ここまででなにか訊きたいことがあるか」


 ゼブが手を上げ、質問する。


「この団の人員は何人ぐらいなのでしょうか」


 アレクシオスが少し考える。


「そうだな……、あなたがたを含めると、今は団全体で五十九人になるか……。タリクたち鍛冶仕事を行う者が三名。団長殿の奥方とあと二人が全員の食事の用意などの裏方仕事を行っている。

 確か、今は他に怪我の療養中で戦えない者が三人ほど裏方仕事を手伝っていた筈だ。起き上がれぬほどの怪我を負っている者も一名いるな」


「あー、それな。怪我で療養中だったクムランは、今朝方おっ死んじまったぜ」


「そうなのか。では、全員で五十八人か。裏方仕事を行っている者が九人、戦える者が四十九人だな。私の隊がゼブを含め、全員で五名。オリムの隊がファルハルドが加わり全員で七名だな。

 あとは本隊となる。本隊所属の者は療養中の者を除き、団長を含め三十七名。ただし、そのうち六名はゼメスターンの間、二箇所の開拓村に常駐し、怪物の襲来に備えているので今ここにはいない」


 ゼブは頷き、ありがとうございますと述べた。続けて、ジャコモが恐る恐る質問する。


「闇の怪物の襲来は頻繁なんですか」

「あ゛ぁ、なに? お前ぇ、ビビってんの?」


 オリムは露骨に不機嫌になり、歪めた顔を傾けジャコモに迫る。アレクシオスが疲れた顔でその肩を押さえた。


「いちいち、つっかかるな。新入りが知らないことを訊いただけではないか。

 どの程度襲来があるかは一概には言えない。連日の襲来が延々と続くこともあれば、三月以上まるで襲ってこないこともある。まちまちだとしか言えないな」


 あ、ありがとうございますとジャコモは少し声を震わせながら礼を言った。アレクシオスたちはファルハルドの顔を見るが、ファルハルドには特に尋ねたいことはない。


「団長殿の奥方との顔合わせはまた食事の時にでも行おう。ああ、一つ言い忘れていた。五日後に駐屯地の移設を行う予定だ。あなたがたもその心積もりでいてくれ」


「移設、ですか」

「ああ、ここは冬営地だ。開拓村が作られているのは西の川より向こう側になる。春からは開拓村があり、より闇の領域に近い川向こうに場所を移すのだ」



 ファルハルドたちは頷き、解散になろうとした時。突然の角笛が鳴り響いた。

次話、「川辺の戦い」に続く。



 次回更新は6月27日予定。

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