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深奥の遺跡へ  - 迷宮幻夢譚 -  作者: 墨屋瑣吉
第二章:この命ある限り

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03. 西部傭兵駐屯地 /その③



 ─ 3 ──────


 ファルハルドが向かい合う相手は盾を持たず、両手に剣を持つ。

 両手に剣を持つ者は対人戦を専門とし、片手は細剣、もう片手には短剣を持つ者が多い。だが、この相手は。その両手に持つのは二本の湾刀。


 一度、戦神の神殿の訓練場で見たことのある、三日月刀と呼ばれる物だ。その時に試しに振ってみた感想としては悪くなかった。ただ、切断力には優れているが刺突には向いておらず、ファルハルドの剣技には合わなかった。


 本来、三日月刀の刀身は薄く軽い造りの筈だが、相手が持っている物は以前見かけた物よりも少し短く、代わりにだいぶ肉厚な造りになっている。頑丈で、より手荒い使い方をしても折れにくくなっているようだ。


 ちらりと周囲にいる傭兵たちの武器に目をやる。今、見える範囲では他に湾刀を吊している者はいない。


 傭兵たちの武器はまちまちだが、最も数が多いのは片刃の肉厚な断ち切り刀。鍔元から切先に向け段々身幅が広くなり、切先から五分の一ほどのところが最も広く、そこから切先に向け一気に狭くなる形をしている。

 肉厚で重心が切先寄りにあるところから、これも切断力に優れ手荒に使うことのできるものなのだろう。


 どうやらこの傭兵団では、刺突用ではなく斬ることに向き、なおかつ頑丈である武器を好んでいるようだ。それが傭兵働きの特徴なのか、この一団の特徴なのかまではわからない。



「なんだぁ? お前ぇ、ビビってんの」


 立ち尽くし、周りを見回すファルハルドの様子を不安がっているとでも思ったのか、相手はあざけるように声を掛けてきた。周囲の傭兵たちもわらう。

 が、生憎あいにくファルハルドは挑発されたところで頭に血を上らせる性格はしていない。変化のないファルハルドの様子に、相手はつまらなそうに鼻を鳴らした。


「ちっ、スカした野郎が。オラ、かかって来いよ」


 意識を相手に向ける。相手の鎧兜はバーバクたちと同じ型。鎧は、腕部分は肘まで、下は太腿の途中までを覆う緻密に編まれた鎖帷子くさりかたびら。ただし、色は黒い。兜は鼻当てがつき、首を守るための鎖帷子もある。

 手足部分は少し違う。長手袋の上に、手の甲から肘までを覆う鋼の籠手、足も前面部分を覆う鋼製の脛当てを着けている。


 相手は構えることなく、無造作に右手の刀を肩に担ぎ、左手の刀は切先を地面に向け垂らしている。表情もにやついたまま。


 一見隙だらけ。だが、その気配は苛烈。意識はすでに戦闘態勢に入っている。




 ファルハルドは静かに深く息を吸う。力を行き渡らせる。初手はファルハルドから仕掛けた。肩口を狙った斬撃。速度は乗っておらず、威力もない様子見の攻め。


 相手は避けるのでもなく、受けるのでもなく、踏み込んできた。右手の一刀でファルハルドの剣持つ腕を狙い、同時に左手の一刀でファルハルドの脚を狙ってきた。


 上手い。下手な者が両手にそれぞれ剣を持つと、左右を釣られたように動かしてしまい二本の剣を持つ長所を活かしきれない。

 だが、充分に習熟した者は違う。左右それぞれを巧みに操り、息もつかせぬ連続攻撃を繰り出してくる。この相手がまさにそうだった。


 左右の刀が異なる拍子で異なる部位に迫る。手強い。拍子をずらされた攻撃は避けにくく、脚を狙う斬撃は避けづらい。それがファルハルドでなければ、だ。


 ファルハルドもまた凡庸な使い手ではない。戦ってきた相手は闇の怪物。そして、イルトゥーランの暗殺部隊。拍子をずらした同時攻撃にも、脚を狙ってくる攻撃にも慣れている。意外で手強い攻撃一つで崩されるほど、積み重ねた戦闘経験は浅いものではない。素早い足捌きで躱す。


 二人は一旦距離を取り、互いに見合う。挨拶は終わった。腕を試すのはこれから。



 今度は相手から仕掛けてきた。踏み込みながら、右の一刀を大きく振り上げ頭上からほぼ垂直にファルハルドの左肩目掛け振り下ろす。同時に左の一刀は小さな振りで水平に腰を狙ってきた。


 右の一刀は盾で、左の一刀は剣で受ける。盾で受けた瞬間、左肩に痛みが走った。痛みで身体が硬直。動作が遅れる。

 それでも剣を刀の軌道にかざすのは間に合った。だが、痛みで力が入らない。

 力負けする。受けきれず、刃は鎧に達する。


 防御力の落ちた革鎧に、切断力に優れた三日月刀。剣で受け、勢いを殺した上でなお革鎧は斬り裂かれた。


 刃を受けながらも素早く退った。傷は浅い。剣と革鎧により、皮一枚を斬られた程度で済んだ。


 だが、それをゆっくりと確認している暇はない。相手は息もつかせぬ連続攻撃を繰り出してくる。


 ファルハルドは押されていく。防戦一方。それでも深刻な攻撃をくらいはしない。

 躱し、避け、受けていく。ときに剣で受け、ときに盾で受ける。盾で受ける際には受け止めはしない。斜めに受け、体捌きと合わせらしていく。


 次第に身体が攻防に慣れていく。左肩が急回復した訳ではない。突っ張る感覚は変わらず、ぴりりとした痛みもやはり変わらない。

 だが、繰り返すうちファルハルド自身がその動きの悪さに、その痛みに慣れてきた。


 どう合わせればよいのか、どんな痛みが走るのか、正確に把握し対応し始める。もはや身体を硬直させることはない。同時に、この一月の旅程でどこまで体力が衰えているのかも正確に把握。今の自分にできる動きを思い描く。


 ここからは反撃。ファルハルドは相手の攻撃を躱し、刺突の構え。

 すでに泥濘ぬかるんでいる地面に注意しながらも強く踏み込む。

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