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Mirror Twin  作者: Suzugranpa
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第7話 喧嘩

 何かがおかしい。コカゲは右腕をさすった。急に胸がドキドキする。雨の放課後、学校が終わったコカゲはフルートの練習に出掛けるところだった。何だろう、ヒナタの事がやけに気にかかる。発表会来るって言ってたからかな。


 練習行く前にちょっと寄ってみようかな。コカゲは少しまわり道をして栂西中学の前にやって来た。あれ、オフジがいる・・・。オフジは傘を二本持ってきょろきょろしていた。


「何してるの?」


 コカゲはそーっとオフジに声を掛けた


「お、コカゲちゃん、ええとこに。ヒナタ見てない?」


 反対にオフジがコカゲに聞いた。


「いや、私も探してるところ」

「えーそうなん?何か慌てて傘も鞄も持たんと飛び出したって、ちょっと変なんよ。この頃ウチの小学校の時の変な奴がヒナタにガンつけてたから気になる」

「えー何それ?そしたらどこへ行きそうなん?」

「うーん、もしヤバい話やったら、ほら、あっちの山崩してるとこの空き地か、反対のこっちのモミジ公園か」


「ヤバいって?」

「呼び出されるとか。ウチには何も言わんと行ってるかも知れんのよ、あの子変に正義感強いから」

「喧嘩?」

「うん、まあね。剣道部やから棒持たせたら強いけど素手ではどうやろ」


 コカゲは驚いた。これまでのコカゲの人生になかった話だ。喧嘩って口げんかしか知らないし。


「私、空き地見に行ってくる!」


 空き地は山を開いて開発中の住宅地だが、こんな雨の日は工事もしていないだろう。


「ほんならウチは公園行ってみる」


 オフジも叫んで駆け出した。空き地までコカゲは駆けた。運動は不得意ではないが部活はやってないので走り慣れてない。段々息が上がって来るがコカゲは走り続けた。


 10分後、コカゲはヒナタを見つけた。相手は二人。一人は茶髪だ。ヒナタは膝をついている。制服も泥だらけ。相手の中学生は栂東中の制服だ。オフジの言ってた相手かも知れない。縄のようなものを振り回している。ヒナタは左手だけで縄に抵抗しているようだが形勢は不利っぽい。コカゲは鞄と傘を電柱の下に置くと、フルートの胴部管だけを掴んで空き地に飛び込んだ。何故だか急にヒナタがフルートを欲しがっていると思ったのだ。


「おまえ、誰や!」


 相手の中学生が叫んだ。ヒナタがこちらを見る。


「コカゲ!無理や!入ってくんな!」


 それには答えずコカゲはフルートをヒナタに投げた。ヒナタが転がったフルートを掴む。


「なんや、笛でも吹くんか!」


 相手が叫んでヒナタに覆いかぶさろうとしたその瞬間、ヒナタの左手が一閃した。相手はうぎゃっと叫んだかと思うともんどり打って倒れ込んだ。二刀流で鍛えているヒナタのフルート刀が相手の(すね)を打ち砕いていた。呻く相手をもう一人の茶髪が助け起こす。泣いている。


「もう行こ」


 茶髪が縄を振り回していた女子中学生を抱えるように空き地を出て行った。


 振り回していたのは縄でなかった。細い鎖だ。ヒナタの両足と右手は赤く血が滲み、蚯蚓腫(みみずば)れが無数に走っている。


「ヒナ、大丈夫?」

「うん、ありがとな。助かったわ。やっぱり武器ないと勝たれへんな」


 そういうとヒナタは泥んこの地面に突っ伏した。


「ちょっと、ヒナ!」


 コカゲはヒナタの脇に手を入れると道路まで引きずってゆく


「ごめんコカゲ。コカゲにさせる仕事ちゃうのに、フルート壊してしもたかも知れんのに…」


 ヒナタも顔をしかめながら足を動かそうとしている。

 その時オフジが走ってきた。


「ごめんヒナタ!あいつらそこで会うたから、二人とも、蹴り入れといたった、もう凝りたやろ」

「オフジ、アンタが呼び出されたって山木さん言うてたから慌てて出たのに、どこに居ったんよ」

「職員室。呼び出されたんはほんま。あいつら上手いこと山木さん使うたみたい。塾のLINEあるから」

「なんやそれ。職員室は何やったん?」


「中間は追試せえへんから期末頑張らんと知らんぞ言われた。英語の先生に。それはええねんけど、前からヒナタ狙われとったんよ。逆恨みで」

「そうか。あたしも間抜けやったな。裏取らんと走ってしもた。あーあ」


 オフジは力の抜けたヒナタの片方の腕を取り、コカゲと一緒にヒナタを電柱にもたれさせる。


「うわ、派手にやられたな。右手()れてる」


 しかしヒナタは微笑みを浮かべていた。


「大丈夫。骨までいってへん。足立先生にどう言い訳するかやな…、部活サボってるし」


 コカゲは空き地に戻りフルートを拾ってくる。キーが二つ飛んでいた。ヒナタはそれを見て


「ホンマにごめんコカゲ。あたし、弁償できへん。どうしよ」

「ううんこれ練習用やから大丈夫。公園で吹いててうっかり落としたってフルートの先生に頼んでみる」

「でもなんでここ判ったん?」

「さあ。二択やったし、私も急に右手が痛くなって、なんかヒナのこと心配になった」


 オフジも言った。


「突然コカゲちゃん現れてびっくりした。テレパシーとかあるの?あんたら」


 コカゲは少し照れた。


「さあ。でもこれでちょっとは恩返しできた。横断歩道の」


 ヒナタはよろよろ立ち上がった。


「よし、歩けるわ。あーあ、でも泥んこやしびしょびしょやし、コカゲもオフジもみんな家で言い訳大変や」

 

 オフジも笑った。


「ウチはコカゲのせいにしてコカゲはヒナタのせいにしてヒナタはウチのせいにしよ」

「完全に悪者やなあ」


 雨の中三人は笑った。冷たいけど少し温かい。コカゲは味わったことない感情にちょっぴり涙ぐんだ。


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