第23話 双子座
その夜、少し寒いテラスでヒナタはコカゲに長いLINEを打った。元気でやってる、オーロラはブルーだったと。
コカゲからすぐ返信が来た。今日LINEが来る予感がしたと。庭のサネカズラが可愛い実をつけて、それ見てそう思ったと。隣に環が座った。
「コカゲちゃん?」
「はい」
「仲良しだったもんね」
「LINE来るの、判ってたって」
「へえ」
「以心伝心なんです」
「そうなんだ。コカゲちゃんも言ってたもんね。ヒナちゃんの気持ちが伝わって来るって」
「なんか不思議」
ふうん。ふいに環は短大の授業で聴いた双子の不思議な特性を思い出した。一卵性双生児の二人は笑うツボが一緒だとか、独自の意思疎通方法を持つだとか、医学的根拠が不明な話も多かったが、利き手やつむじが逆になると言う実際の例も挙げられた。 これを『ミラー・ツイン』と呼ぶと。
そっくりだ・・・。
環はしばし黙考したあと、星が輝く東の空を指した。
「ほら、オリオンの横の方、明るい星が二つあるでしょ。あれは双子座。ヒナちゃんとコカゲちゃんって、初めて見た時から似てるなって思ってたのよ。二人三脚も息ぴったりって言ってたし、ヒナちゃんが右利き、コカゲちゃんが左利き。そういうのって”ミラー・ツイン”って言うんだよ。あの双子座みたい。名前だってワンペアだしね」
「顔は違いますよ。あ、でも誕生日が一緒やった」
環は続けてしれっと言った。
「ヒナちゃんとコカゲちゃん、双子だよ。一卵性でも顔が違うことあるんだよ。何かの事情で離れ離れで育った」
ヒナタは急にゾクっとした。
「そう言うたら、お母さん、コカゲんちに植えた木の花言葉は『再会』って手紙に書いてくれた」
「お母さんは気づかれたのかもね。自分が産んだんだもんね」
「そんな・・・確信はないです」
その時またLINEが来た。コカゲだ。
『ヒナのお父さんとお母さんが植えてくれたサネカズラ。花言葉 知ってた?』
ほら、こうやってシンクロして来る・・・
ヒナタは少し震える指でスマホを触った。
『うん。”再会” お母さんの手紙に書いてあった』
『やんね。だから植えてくれたんよね。私、何となく解っちゃった。私、お父さんにもお母さんにも似てない。一番似てるの、ヒナよ。小さい頃、私、お祖母ちゃんが言うたの覚えてる。アンタ、ウチに来れてよかったねえって。ずっとウチに来るって変やなって思ってたけどそういうことやったんや。峯婆ちゃんやオフジの言う通りやった』
『環さんもきっとそうやって言ってる。でもコカゲ、家でそんなこと言うたらあかんよ』
『解ってる。二人の秘密』
『どっちがお姉ちゃん?』
『そらヒナやろ。先に太陽浴びてる』
『えへん。コカゲ妹やから言うこと聞くんよ』
『近くにいたらね』
『はは。花言葉、”再会”やったけど別れてしもたね。てへ』
『花言葉、もう一つあるの知ってる?』
『え?』
『また逢いましょう』
ヒナタの目に急に涙が溢れた。たった一人の家族が遠くにいる。また逢いましょうって言ってる。
ヒナタは1年半前、栂東中の子と喧嘩した時を思い出した。力弱いくせに泥んこのあたしを引っ張ってくれた妹が遠くにいる。支えてあげる子がちゃんといる。
スマホを覗き込んでいた環がヒナタの肩に手を掛けた。ほら、返事は?
『絶対に。約束』
二人の心は一対に組み合わさる。それは14年前、宇吉が見た日向と日陰の織り成す美しい庭園のようだった。
ヒナタが見上げた空には、双子座の二つの大きな星が、互いを見つめながらきらきらと瞬いていた。




