表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Mirror Twin  作者: Suzugranpa
20/26

第19話 事件

 コカゲの父・勝重には弟がいた。名前は(ひさし)、未だ独身でフリーターだ。たまに兄の所へ現れて、口実を作っては小遣いを貰っている。勝重は歓迎こそしてはいないが、やむを得ないと思っていた。のらりくらりとやって来た久にはこれと言って見るものがなく、企業に就職しても続かない。アルバイトでも自分一人分なら何とかやっていけている。ま、他人に迷惑かけてる訳じゃなし、しゃあない奴や、と見逃していた。しかし莉は密かに久を避けていた。勝重との結婚前、久は莉をやらしい目で見ることが時々あったのだ。勝重に言う訳にもゆかず『ちょっと嫌な人』という思いは莉の胸の中に畳まれたままだった。


 久がやって来たのはヒナタが身を寄せてから3週間ほど経った日曜日だった。久はインターホンも押さずにいきなり入って来た。丁度ヒナタがTシャツと短パンで竹刀を振っていた時だ。


「キミは誰?」


 ヒナタの全身を上から下まで見て久は言った。ヒナタは面食らった。


「え?あの、ここにお世話になってる掛川ヒナタです」

「ふうん、兄貴が言うてた里子ってキミのことか。ふうん、上出来やなあ」


 そう言うと玄関に入って行った。ヒナタは竹刀を振り続けた。


 しばらくしてコカゲが降りて来た。


「コカゲ、さっき入っていった人、誰?」

「ああ、叔父さん。久叔父さん。お父さんの弟やねん。未だにフリーターやけどな、時々来はるねん」

「ふうん」


 その翌週も久叔父はやって来た。ヒナタがリビングを通ると目で追われているのを感じる。なんか、変な人やな、せやからフリーターなんかな。ヒナタは少し意識した。


 更に翌週も久叔父はやって来た。日曜日は暇なんかな、ヒナタが素振りを切り上げて竹刀を仕舞おうとしていたら、久が声を掛けてきた。


「なあ、ヒナちゃん。ちょっと家の裏見てくれへん?」


 家の裏手は特に何もない。隣との境であるブロック塀が高く(そび)え、日当たりも悪く使わなくなった家財類の置場になっている。


「こっちこっち」

「はい。何かあるんですか?」

「うん、ちょっとここ見てみぃ」


 ヒナタは竹刀を左手に持ち替え、言われた場所を少し(かが)んで見た。空っぽのプランターが重なっているだけで、特に何も見当たらない。


「ヒナちゃんはもう大人やなあ。ちょっと秘密の事教えたるわ」


 言いながら久は背後からヒナタのTシャツの下に手を入れて来た。


「いやっ!」


 ヒナタは瞬間、身を半回転させ久の手を払うと、左手に持った竹刀で久の手首を痛打した。


「いったあー」


 久はその場で(うずくま)る。ヒナタは駈け出し玄関から家に飛び込んだ。はあはあ。何よあれ。



 丁度、莉が出て来た。


「あれ?久さんかと思うたらヒナちゃんやった。もう練習終わったん?」

「あ、はい」

「どうかしたん?」


 莉が怪訝(けげん)な顔でヒナタを見る。ヒナタは迷った。騒いだところで信じてもらえるかどうか判らない。お父さんの弟なんや。下手な事言えないし、それほど(ひど)い事された訳やない。


「いえ、ちょっと気合入れ過ぎた・・・はあはあ」

「へえ、日曜やのに剣士には休まる暇ないねえ」

「はいー、流浪ですから・・・」

「大変やねえ志士は」


 ヒナタは誤魔化して2階の部屋に上がった。ここの子じゃないから狙って来たのは自明だった。こみ上げてくる。


 下碑なケダモノめ。窓からそっと外を伺うと久は門扉から出て行くところだった。くそっ。ヒナタは悔し涙を流しながらその背中を(にら)みつけた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ