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Mirror Twin  作者: Suzugranpa
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第1話 松の木の上

 植木職人 掛川宇吉(かけがわうきち)が妻の出産を聞いたのは松の木の上だった。梯子を掛けて、いつものように黒松に語り掛けていると携帯が鳴ったのだ。妻・カオリの母親からだった

「宇吉さん、生まれたよ!大変!双子の女の子!びっくりしたわ。なんで今まで黙ってたのよってヤブ医者に怒鳴ってやったんやけどさあ、いや言いましたよって、カオリが隠してたみたいやわ。可愛いんやけどやってけるかなあ。そうや、一卵性なんやけどね、顔つきは少し違うんよ。そう言う事はありますよってヤブ医者言うてたけどねー」

カオリとそっくりの性格である母親は周囲に構わずまくしたてる。宇吉はその声をぼーっと聞いていた。

双子の女の子?なんやて?今月はあと4軒仕事入ってるけど来月はまだ3軒だけや。うわ、まずいかもなあ。

「ちょっと宇吉さん、聞いてんの?名前、どうすんのよ?男の子の名前しか考えてなかったってカオリいうてるよ」

宇吉は携帯を持ち替えると

「あ、あの、お義母さん、名前は考えますんで。後で病院行きますんで」

()()うの(てい)で電話を切った宇吉は松の木の上から庭を見降ろした。小春日和をもたらした太陽が、庭の白砂に木々の影を描いている。日向(ひなた)は暖かいが日陰(ひかげ)はまだ寒い。でも夏になると日陰は憩いの場所になる。どっちも大事や。ん?そうか。名前これにしよう。どっちも大事や。でも妻の名前に(なら)ってカタカナの方がカッコええかな。


こうして3月初旬に生まれた双子の女の子の名前はヒナタとヒカゲになった。しかし名前が決まったからと言って将来が決まった訳ではない。その日の夕方、産婦人科を訪れ双子の娘と対面した宇吉は、妻の母がヤブ医者と呼んでいた医師から重大な相談を受ける。


それは 特別養子縁組の件だった。この医院でも相談を受けていて希望の夫婦がいると言う。できれば女の子。相手の事は互いに一切知らさないでやります。勿論先方には双子ちゃんの一人であることも伏せて言います。勿論、これは強制でもお願いでもなくて、あくまでも両方の、今の場合は掛川さんの気持ちと言うか、つもりと言うかがあればの話で、そうでなかったら忘れて下さい、との事ではあった。

宇吉は恐る恐るその話をカオリにした。カオリがお腹を痛めた子だ。そう簡単な話でないことは宇吉もよく解かっていた。あくまでも先生からこういう話を聞いた、その体で話したのだ。多分、一笑に付して終わりやろ。宇吉はそう思っていた。が、思いがけずカオリは真剣に受け止めた。

先細りが見えていた宇吉の将来、二人も同時に育てるとなると、カオリは宇吉の仕事を手伝えなくなる。すると宇吉の仕事の効率はさらに落ちる。それは収入が落ちることを意味していた。


産後の体調の悪い中、ヒナタとヒカゲにおっぱいをあげながらカオリは考え続けた。二人とも訳もなく可愛い。これ以上一緒にいるともう離れられなくなる。何がこの子たちの幸せなのか。

そしてカオリは決断した。翌日、まだ痛むお腹を抱えながらカオリは医師の元を訪れた。


こうしてヒカゲは女の子を希望していた夫婦、松永家の養子となり掛川家と縁が切れた。14年前の事である。


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