#7 属性
優斗達がグラウンドに到着した時には既に白の姿があった。
彼は優斗達の姿を見ると腕時計で時間を見て、他の生徒達も来ていることを確認し、満足そうに笑う。
「遅刻者はいないみたいだね」
白がそう告げると同時に授業開始のチャイムが鳴り響く。
「じゃあ、次の授業はそれぞれの属性を確かめたいと思う。まあ、昨日ざっと見た感じである程度は把握してるけど、今度は実力も含め、きちんと確かめたいからね」
「属性?」
「ああ、そうだった。まず無知な初心者に教えないといけなかったか。それじゃあ、雨川君」
「は、はい!」
春の背中に隠れていた聡は突然白に名前を呼ばれて、慌てて背筋を伸ばす。
「退鬼師と言っても全員が戦闘に特化しているわけじゃない。それは何故?」
「え、えっと、本人の属性によって向き不向きがあるから……です」
「そうだね。たしかキミは水属性だったね。元々、水は支援系の力を発揮しやすいけれど、キミはそれが顕著だ」
少しでも退鬼師のことを理解しようと真剣に耳を傾けていた優斗だったが、さっそく訳が分からなくなってしまう。
白が何を言っているのか理解できなかったのだ。
そんな優斗の心情を察したのか白が補足するように言葉を続ける。
「退鬼師には必ず属性がある。むしろ、この属性を持っている人間こそが退鬼師になれるってわけ。逆に言えば、属性がない人間はどうあがいたところで退鬼師になることができない。その資格がないんだ」
「属性……」
「キミも昨日見ていただろ? 石動君が何もない空間から武器を創りだしたのを」
「あっ」
白に言われて優斗は昨日の試験のことを思い出す。
あの時はそれどころではなくて記憶の片隅に追いやってしまったのだが、確かにアレは普通ではなかった。
「あれも退鬼師としての力の応用だね。まあ、それは後で実践するとして先に……じゃあ、日宮さん」
「はい」
「属性は何種類ある? 全部答えて」
「炎、水、風、雷、闇、光。以上の六属性」
「正解。退鬼師になる為の必須条件はこの六属性のうち、どれかの属性を持っていなければいけない。ここまでは分かった?」
「は、はい」
漫画の中とかに出てきそうな属性とかを言われて、混乱しそうになる頭を必死でフル回転させながら優斗は頷く。
「大体は属性で戦闘系か支援系か決まるんだけど、中には属性関係なしな退鬼師もいる。例えば、支援系が多い水属性なのに戦闘系とかね」
「それって不利にならないんですか?」
「素質の問題だね。力の使い方が上手い人はそこらの戦闘系の属性を持った退鬼師よりも軽々と上に行くよ。ちなみに一般的に戦闘系とされる属性は『炎、雷、闇』の三つ。逆に支援系は『水、風、光』三つ。まあ、結局は本人の使い方次第だけどね」
頭の中で図を描きながら理解しようとする優斗。だが、フィクションのような話に頭がついていかないのか難しい顔をしている。
「自分の属性を知り、それを利用できるようになる。それがキミにとっての当面の目標だろうね。いつまでも守られてるわけにはいかないでしょ?」
「わ、分かってます!」
白は花音を一瞥するとあざ笑うかのように優斗を見る。その態度に優斗もとっさに肯定してしまう。けれど、それは優斗の本音でもある。
何も分からないから守られる事しかできなかった優斗。だが、もし優斗自身が戦えるようになれば、大河のようなことにはならないのではないかと考えたのだ。
「そう。じゃあ、キミは端に行って訓練でも始めなよ。他の生徒は実力見るからボクと手合わせね」
「え? せ、先生?」
「なに? 属性の説明はしてあげたでしょ。あとは一人で勝手にやってよ。さすがにそこまで面倒は見たくないんだけど」
そう言われたところで、優斗は今まで自分に属性なんてものがあることを知らずに育ってきたのだ。それなのに退鬼師には属性がありますよと説明されただけで、一人で扱えるようになれなどと無茶ぶりすぎる。
心底面倒そうに優斗を見る白の視線は冷たい。だが、優斗としても引くわけにはいかなかった。
「……はぁ。それじゃあ、ボクや他の人のを見て学びなよ。それでも分からないんだったらチームメイトに教えてもらうんだね」
白がそう告げた瞬間、バチッと静電気が走ったような音が響いた。しかし、その音は鳴り止むどころか徐々に大きくなっていく。
優斗はその音に驚きながらも白から目が離せなくなっていた。
バチバチと電気が弾ける音が響き、白の周囲に電流が渦巻いていく。
もし迂闊に白に近付いたら、あの電流で焼けてしまうのではないか……いや、下手したら黒こげになってしまうのではないか。そう思えるほど眩く、鮮烈な電流が白を包み込んでいる。
「まず、こうして自分の属性を纏う。見ての通り、ボクは雷属性だ。まあ、このまま属性を身に纏ったまま戦う人もいるけど、多くの退鬼師は属性を纏った武器を具現させる。その方が長時間の戦闘に耐えられるからね」
「属性を纏った武器を具現?」
それは一体どういう事なのかと首を捻る優斗。
そんな彼の目の前で電流を身に纏った白は電流を手元に集中させる。すると、電流が激しく唸りだし、それが止む頃には白の手に一本の鞭があった。
その様子は試験の時に見た嵐と全く同じだった。
「こうして、属性の力を纏った武器を生成する。ここまで出来てようやくスタート地点ってところかな。キミも早くここまで出来るようになりなよ。はい、じゃあ今度こそ説明は終わり。さて、まず誰から手合わせしたい?」
鋭く風を切る音を幾度も響かせながら、白は何度も地面を鞭で叩く。
その鞭は先程まで白が纏っていた電流を纏い、あれで打たれでもしたら当たった場所が火傷してしまう。
生徒達もそれを感じ取ったのだろう。誰もが後込みする中、真っ先に手をあげたのは嵐だった。
「……キミか。まあいいよ。相手してあげる」
嵐の顔を見るなり嫌そうな顔をした白だが、すぐに挑発的な笑みを浮かべる。
自分が負けるはずなどないと相手を見くびっている態度だ。もちろんそれは彼の実力からすれば至極当然の驕りである。
生まれた時から瀧石嶺家に仕える宿命を持ち、巫女である瀧石嶺千里の付き人として相応しい実力を彼は血の滲むような思いをしながら手に入れたのだ。
「へへっ、よろしく。シロセンセー!」
一歩前に出て、白と対峙する形で嵐は笑う。
その手には既に昨日も見た漆黒の日本刀がある。
二人は互いに見つめ合う。
肌が痛くなるような緊張感に包まれて、誰もが固唾を呑んで見守る。
そのまま暫くにらみ合いが続くかと思われたのだが、嵐が動いた。
彼は一足飛びで白の間合いに入ると目にも留まらぬ速さで抜刀した。だが、白はそんな動きを予想していたとばかりに軽くバックステップで避けてしまう。
「ありゃ?」
避けられると思っていなかった嵐は何の手応えもないことに目を丸くさせる。
「さすが風属性。うまく自分の属性を使って身体能力を高めてるね。支援系の風を使い、そこまで出来る人間はそう多くない。やっぱりキミは、こと戦闘に関しては天才的だね」
呆気にとられてる嵐に白は感心したよう彼に対する評価を告げる。
「けど」
「え?」
「属性に頼りすぎだよ。今までは初撃で倒せる鬼だったから大丈夫だったんだろうけど、それは良くない。こうして避けられてしまえばキミは驚くほど隙だらけだ」
「うわっ!?」
一瞬にして嵐の背後に回り込んだ白は、そのまま嵐の体に蹴りをたたき込む。その衝撃に嵐は吹き飛ばされる。だが、無様に地面に落下するのではなく、華麗に地面に着地した。
どうやら白の蹴りが叩き込まれる寸前に後ろへ飛んで、蹴りを避けたようだ。
その反応に白は驚いたように目を見張り、笑う。
「へぇ、反射速度も悪くない。さすが石動家の退鬼師ってところか」
白としては褒めたつもりでいったのだろう。
数多くいる退鬼師の一族の中でも優秀な退鬼師を輩出してきた名門石動家。
その一族の血を引く嵐も例にもれずに優秀な退鬼師だと……そうなるであろうと認めたのだ。だが、いつだって晴れやかな笑顔を浮かべていた嵐がその言葉を聞いた瞬間、表情をなくす。
触れられたくないところに触れられた。そんな反応だ。
「まあ、まだまだひよっこだけどね。はい、終了」
呆けていた嵐に白は容赦なく鞭を振るう。
嵐はその鞭を避けることもできず、その鞭を体に受けて、膝をつく。
勝敗は決した。
「…………」
嵐は何も言わない。
ただ唇を強く噛みしめた後、俯く。そして、もう一度顔をあげた時、彼の表情に浮かぶのはいつもの笑顔だった。
「いやぁ、負けた負けた。やっぱ、センセーは強いなぁ」
そう言いながら立ち上がり、体についた汚れを払う嵐。
その様子があまりにもいつも通りなので、白は奇妙なものでも見るように眉を寄せ……だが、何も言わないまま他の生徒達に視線を移した。
嵐と白の手合わせが終了して、次々と他の生徒達も白に挑んでは負けていく。
そんな光景を見ながら力の使い方を覚えようとしていた優斗だが、すぐに無理だと悟る。
いくら目の前で白や嵐、花音達が力を使おうとそれをどうやって出しているのかなんて見ただけで分かるはずもない。
途方に暮れ始めた優斗。そんな彼に既に白との手合わせが済んだ花音が近寄ってきた。
「調子はどう?」
「さっぱり。花音達はどうやってあんな風に属性を引き出してるんだ?」
優斗が指差した先は手合わせ中の晴と白の姿。
屈強な肉体の晴が纏うのは何もかもを焼き尽くしてしまいそうな紅蓮の炎。
晴は属性を纏った武器を顕現させることなく、炎を身に纏ったまま素手で白と戦っている。
ゆうに二メートルは越えていそうな大柄な晴と、聡ほどではないが細身で小柄な白とでは対比が凄い。見ようによっては熊と兎の戦いだ。
体格差だけで見るならば結果は明白だが、体格差ではどうにもならないほどの実力差が二人にはあった。
晴が弱すぎるわけではない。むしろ、晴は強い。
鍛え抜かれた肉体から繰り出される一撃は、当たったら怪我どころで済みそうにない。
事実、白自身もそう感じているのだろう。先程から、一度も晴の攻撃を受けないようにしている。
それもそうだろう。晴が繰り出す攻撃を白が避けるたびに地面が揺れ、穴が空いているのだから。
そんな光景を見ても最早驚くこともできなくなった優斗。彼の常識を覆すような出来事の連続にもう脳が限界なのだろう。
どこか遠い目をしている優斗に気付いたのか、花音が心配そうな声音で声をかけた。
「無理はしない方がいい。退鬼師としての力なんて使えなくたって、優斗君は私が守れる」
「ありがたいけど、男としてそうも言ってられないんだよな。それに……」
途中で言葉を止めてしまった優斗に花音が不思議そうに首を傾げる。
優斗は昔を思い出すようにどこか遠くを見つめ、ぽつりと呟く。
「俺を庇って友達が怪我するのは、もう見たくない」
優斗はそう言ってから、しまったとばかりに眉を寄せた。
言う気がなかったことを言ってしまったとでもいいたげな態度だ。
優斗にとって一番良かったのは花音がその言葉を聞いていなかったということだが、その言葉はしっかり彼女の耳に届いていたらしい。
翡翠の双眸が僅かに見開かれたのが何よりの証だ。
花音は何かを言いたそうに口を開きかけ、結局は何も言わずに口を閉じる。
それを幾度か繰り返した後、何かの決心をしたように静かな声で告げる。
「……覚悟を決めるの」
「え?」
「自分の属性を引き出す為には覚悟を決める。信念と言っても良い。自分の中にある決して譲れない想い」
「譲れない想い……」
「誰かを守りたいと願う心。強くなりたいと願う心。鬼に対する復讐心。理由は何だって良い。ただ鬼と戦う為の……鬼に弱い心を突かれないようにする為の強い覚悟が必要。それがあれば、あとは血が、魂が教えてくれる」
花音が言っている意味を優斗は半分も理解できなかった。ただ、花音なりのアドバイスをしてくれているのだと気付いた優斗は小さく笑う。
「ありがとな。それにしても、鬼と戦う覚悟か。……大河もそんな強い想いを持って鬼と戦ってたのかな」
後半は完全に独り言だった。誰の耳にも届ける気などない小さな声。
それでも花音は優斗の独白が聞こえてしまったらしく、僅かに目を見張る。だが、優斗はそんな花音の反応に気付かずに思い出したように声をあげた。
「そういえば気になってたんだけどさ」
「なに?」
「いや、ああやって属性を纏った後、武器を出してるだろ? あの武器って自分で決めてるのか?」
優斗と花音が話している間にいつの間にか晴と白の手合わせは終わっていた。
優斗が指差した先にいるのは聡だ。彼は大きな盾で白の攻撃を防いでいる。
白の鞭。嵐の日本刀。聡の盾。そして、花音の大剣。
どれも全く共通点がない武器だ。
一体どういう基準で選ばれているのか分からず、優斗は不思議そうに首を傾げている。
「勝手に決まる」
「え?」
「その人に相応しい武器が現れるって言われてる。自分では選べない」
「そ、そうなのか。じゃあ、花音は大変だったろ。あんな大剣だと」
優斗の脳裏に浮かぶのは軽々と身の丈ほどある大剣を振り回す花音の姿。
その姿を思い出して、優斗は前言撤回したくなる。だが、それよりも早く花音が不思議そうに口を開いた。
「使いやすい武器だけど?」
「……そうか」
至極当然のように言い放つ花音に優斗は、そう答えることしか出来なかった。
「…………」
妙な沈黙が二人の間に流れる。
優斗はその気まずい空気から逃げるように花音がくれたアドバイスを元に自分の属性を引き出せるか確かめる為に目を閉じた。そして、優斗は考える。
何故、自分は此処にいるのかを。
何故、自分はこんな事をしているのかを。
何故、自分は鬼と戦う為の力を手に入れたいのかを。
優斗は考える。
優斗の中に浮かぶのは様々な感情。
大河が抱えていたモノを知りたい。
鬼とは何なのか。退鬼師とは何なのか知りたい。
会ったばかりの優斗を助けてくれた花音達に恩を返したい。
色んな想いが優斗の中を駆け巡り、消えていく。そして、最後に優斗の中に残った想いは──。
「俺は知りたい。大河の事も。鬼の事も。退鬼師の事も。全部知りたいんだ」
初めて鬼を見た時、見たこともない異形の姿に恐怖した。けれど、どこか懐かしいような、あの存在を知っていたような、そんな不思議な感覚に囚われた。
それと同時に優斗は何かを思い出さないといけない気がしたのだ。
その何かを思い出す為にも優斗は知らなくてはいけない。
大河が抱えていたものを。鬼というものを。そして、鬼を退治する退鬼師という存在を。
優斗の覚悟を聞いた花音は真っ直ぐ優斗を見つめ、静かな声で告げる。
「知らない方が良いことだってある」
「そうかもな。けど、それでもこれが俺の気持ちだ。……それに上手く言えないけど、俺は全部知らなきゃいけない気がするんだ」
未だに優斗は何も知らない。
この学園に入って、七百年前の出来事や退鬼師について少しは知識をつけたとはいえ、やっぱり何も知らないに等しい。
大河の事も、鬼の事だって何も分からない。だから、知りたい。
(全てを知りたい。知らなきゃいけない。そして、出来るなら花音達に守られるんじゃなくて守りたい。その為にも力が欲しい)
強く、自らに言い聞かせるように強く願う。
それと同時に優斗の体に異変が起きた。
体の奥から温かいものが溢れ出してくるのを感じる。
暑くも冷たくもない、全てを包み込むような優しく温かい光。
自然と心が落ち着くのが分かった。
なんだか不思議な気分だと優斗は思う。
悟りでも開いたかと思えるほど、心はどこまでも穏やかで、周囲に満ちた空気もどこか清浄な気がした。
「うおっ、まぶしっ! ツッキー眩しいぞ!? 光強すぎ! もっと抑えて抑えて!」
「え?」
嵐が何を言っているのか分からなくて、優斗は目を丸くさせる。だが、それも一瞬の事で優斗自身も自分の体に起きた異変に気付く。
「あ、あれ? 俺……」
予想外にも落ち着いた様子で自分の体を不思議そうに見つめる優斗。
そんな優斗の周囲から眩い光が発せられている。
光に包まれている優斗自身ですら眩しいのだ。
嵐の言葉通り、他の人達は目を開けていられないほど眩い光を受けているだろう。
優斗は慌てて光を抑えようとするが、光は一向に弱まる気配がない。
「落ち着いて。全身を駆け巡る力に意識を集中させて。そうすれば、光も弱まる」
冷静で淡々とした花音の声が光の向こうから聞こえた。
優斗は頷いて、花音の言うとおり全身に意識を集中させる。すると、光は徐々に弱まっていき、最終的には全てが霧散した。
光が弱まった事に優斗は安堵して、花音にお礼を言おうと彼女を見て……固まった。
何故なら花音はどこから取り出したのかは知らないが、準備よくサングラスを掛けていたのだから。
「どこからサングラスを?」
「備えあれば憂いなし」
光が消えた事でサングラスはもう必要ないと判断したのだろう。サングラスを外した花音の顔はどこか得意げだ。
質問に答えているようで答えていない返答を聞いて、深く気にしないようにしようと思う優斗だった。
「うあー、眩しかった。まだ目がチカチカするー!」
「我も不覚をとってしまった」
目を抑えながら優斗達に近付いてくる嵐と晴。晴の後ろにいる聡は彼女の背に隠れていたせいか、平然としている。
心配そうに晴を見ていた聡だが、優斗と目が合うとおずおずと口を開く。
「お、おめでとう。属性引き出せたんだね」
「え? あ、そうか」
聡の言葉に優斗は先程まで自分の体を覆っていた光が退鬼師として必要な属性だという事に気付いて、自らの体を見つめる。
「あれ? ということは俺の属性って……」
「光だな! 眩しすぎて目が潰れるかと思ったぜ!」
「ご、ごめん」
「気にするな。我も初めて属性を纏った時、制御しきれずに山火事を起こしかけた」
「あの時は大変だったよね」
しみじみと話す二人に優斗はその光景を想像して顔を青ざめさせる。
「それって結構な大事なんじゃ……」
「そうだな。聡がいなかったらどうなっていたかは分からぬな」
「えへへ」
晴に頭を撫でられてご満悦そうな聡。そんな仲睦まじい二人に優斗はこれ以上は何も言うまいと口を閉ざす。
「それより、ツッキー! 属性纏えたんだし、次は武器出してみようぜ!」
「簡単に言うなよ」
遊びに行こうぜとでも言いたげな軽いノリに呆れながらも優斗は手元に意識を集中させる。
優斗の意識に従うように再び全身が仄かに発光する。その光は手元に集まり、徐々に大きくなっていき…………何かを形なすことなく霧散した。
「あ、あれ?」
失敗したのかと思った優斗がもう一度手元に意識を集中させる。だが、結果は同じだった。
「なんで?」
首を傾げたのは優斗だけではない。
他の面々も不思議そうに首を傾げている。
「……武器は必要ないという事なのかも」
「おおっ!? ツッキーもはるるんみたいに素手で戦うのか! 葡萄だな!」
「嵐よ。葡萄ではなく、武道家だ。しかし、優斗よ。お主、その細腕で素手はキツかろう。良ければ我が鍛錬してやるぞ」
「わ、わあ! 凄い! 良かったね、優斗くん。晴が鍛錬してくれるなら一週間で熊ぐらいは狩れるようになるよ!」
「熊を……!」
「なんだ、花音も気になるのか。良いだろう。我に任せろ」
「あー! いいないいな! 俺も俺も熊狩るー!」
なんて好き勝手に盛り上がりだす仲間達に優斗はどこからツッコミをいれるべきか迷う。だが、最早何かを言うのも面倒になり、諦めたようにため息をつく。
そんな彼等の様子を観察するように真紅の双眸が見つめていた事には誰も気付かなかった。




