花火大会
「みんなー」
そういって焔真たち四人に近づいてきたのは茜だった。その後ろをゆっくりと零士と琴里がついてくる。すっかりと日が落ちてあたりは暗くなってきていた。
「もう集まってたの? 早いね」
集合時間には遅れないようにと気を使ってきた零士たちだったが、焔真たちがすでにそろっているのを見て思ったことを茜が言った。
「祭を見て回ってたときに偶然会って、それから一緒に行動してたからね。そういえば宍戸さん見たよ」
一応茜には報告しておいた方がいいと思った焔真は茜に素直に言った。
「え? 全くあれだけ言ったのに……」
困ったもんだと苦笑する。
「でも、わたしたちは宍戸さんに助けてもらったからあんまり言わないであげて」
恋は今日の祭で会ったことを話す。焔真は当事者だったため今更聞いたところで何も思わなかったが、初めて聞く龍馬や澪、茜たちには衝撃だったようで焔真や恋を心配する。
「わかってるって」
むしろ焔真たちのピンチに何もしていなかったら逆に怒っていたと茜は思う。次会ったら自分の友達を助けてくれた礼をしないとなと決意した。
「大丈夫?」
琴里が心配そうに焔真と恋を見ながらそう聞いてくる。
「うん、焔真が助けてくれたんだー。だからわたしは平気」
「俺も結局は宍戸さんに助けられてから、問題ないよ」
二人の報告に安堵する面々だったが、龍馬たち幼馴染メンバーは焔真によくやったという目線を送る。
「んだよ」
その視線に気づいた焔真は居心地の悪そうにする。
「別に」
琴里がそう返す。焔真も追及するとどんなことを言われるかわかったもんじゃないとこの話を続けることをやめた。
「みんな、心残りはない?」
そんなこんなをしていると恋は全員に祭は楽しめた、と問いかける。
「久しぶりだけど楽しかった!」
全員を代表したように茜が言った。
「よかった」
誘った身としてはみんなが楽しんでくれてよかったと一安心する恋。勢いのままいつものメンバーを誘ってしまった恋だったが、内心楽しんでもらえるか終始心配しており茜に楽しかったと喜んでもらえたことに安堵する。
「それじゃあ、最後の一番の目玉を見に行こう!」
「目玉?」
「うん、打ち上げ花火!」
澪が何のことを言っているのかわからないと恋に尋ねると、恋は隠すでもなく素直に答えた。
「ほんと!? すごい、楽しみ」
「そんな派手なもんでもないけどな。周りが普通に住宅街だからかデカいやつはそんなに打たないからな」
「そうなの? でも私が前住んでたところは花火事態やらなかったからやってくれるだけで嬉しいな」
「そうか」
見慣れた龍馬はあまり興味がないように言うが澪は数えるほどしか見たことがない打ち上げ花火に、今から目を輝かせている。それを優しく温かい目で見つめる龍馬。そしてそれを嬉しく思いながら見つめる焔真たち。と三者三様の行動に現れた。
「それじゃあこの近くにある穴場のスポットを教えてしんぜよう」
茜が花火がよく見える場所があるとふざけた口調で申し出る。
「ほんと? やったー」
いつもの場所で人混みの中みんなで花火を見ようと思っていた恋にとっては思いもよらぬ朗報だ。
「うん、家関係で融通利かせてもらえる場所があるんだ」
「ヤクザ様様だな」
気の使わない言葉に恋はたしなめようとするが、茜本人が気にしないで得意げなって話ていたので杞憂だったかと口を紡ぐ。
「ちょっと歩くけどみんなついてきてねー」
そういって先導を歩く茜の後を駄弁りながらついていく焔真たち。これから祭に参加する人、これから帰る人など多くの人が行き来するなか一つにまとまって歩いていく。
そして茜が足を止めた場所はそれなりの大きさがあるビルだ。
「ここ?」
なかなか信じがたいといった様子で恋はビルを見上げる。特段有名なわけではないがビルの少ないこの辺りでは目立つ場所だった。
「そ」
肯定すると茜は守衛に止められることなく堂々と中に入っていく。
「すみませーん」
どうやら顔見知りらしい受付の人に呼び掛け一言二言話をすると電話を取り話始めた。そして電話を置き再度茜と話をすると、茜は少し離れたところで見ていた焔真たちを手招きで呼ぶ。
「屋上使っていいって」
了承をとれたことを告げ勝手知ったたる様子でエレベーターの目の前に行きエレベーターを呼ぶ。
「随分あっさりだね」
琴里がもっと時間がかかると思ったと告げる。
「ここの会社の社長さんがボクの親と知り合いでここの警備も家でらせてもらってるんだよね。ボクも昔からよくしてもらってて、社長さんから花火の時綺麗に見えるから屋上使っていいよって言われてるんだ」
エレベーターが到着し仲良く全員で中に入り最上階まで上がっていく。そしてそこからは階段を使って屋上へと上がっていく。やがては全員が無事に屋上へと無事にたどり着いた。ビルの屋上から眺める景色はとても綺麗で、それだけでもここに来たかいがあるなと思ってしまう焔真だった。それだけ久しぶりに見上げた夜空は魅力的だったのだ。
「なんだ、いい夜景じぇねえか」
その光景に花火が始まる前だというのに龍馬は思わずそう言ってしまった。
「僕たちの住んでるこの場所が見かたを変えただけでこんなに綺麗になるなんて知らなかった」
零士が感動したように言う。普段生活しているなかでは気付きえないようなことに気付いた零士は子供のように笑う。
「みんな、肝心の花火まだだからね? 夜景見に来たわけじゃないんだから」
そんな焔真たちの反応に思わず苦笑してしまいながら茜はそう言った。
「花火まだかな」
すでにこんなに綺麗なのだから花火が上がったらもっと綺麗になるだろうと澪は楽しそうに夜空を見つめる。
「んー、もうちょっとだよ」
恋は澪の疑問に腕にしていた腕時計を見て答えた。
「それにしても、まさかこんな大所帯になるとは思わなかったな」
「……そうだね」
龍馬はこの場にいる全員を見渡して感慨深そうに言うと、焔真がそれに答えた。
最初は焔真と龍馬が知り合って、だんだんそこから増えていった恋や零士、琴里といった幼馴染たち。そして高校に入ってからできた新たな友達の澪や茜。二人から始まったこの輪はいつの間にか大きくなっていた。最初はここまで大きくなると思っていなかったが実際に大きくなってしまえば、そんなことを気にすることもなく困ることもありながら楽しくやっている。
「これも龍馬の魅力だね」
自分は何の影響も与えてないと心から思っている焔真は龍馬に向かってそういった。
「おめーは、昔から自己評価が低いだけだ。もうちょっと自分を見つめなおせ」
龍馬はなぜ焔真はここまで自分のことをしっかりっと見つめられないのかと本人にぶつける。
「自分のことは得てしてちゃんとした評価が下せないものだよ」
そう言う焔真に龍馬は言い返そうとするが、
「何男同士で話してるのー?」
と恋が話かけてきたために会話を中断せざるおえなかった。
どうやら澪との話が終ったあとに目ざとく会話をしている焔真と龍馬を見つけたらしかった。
「なんでもねえよ、気にすんな」
恋に言うような話でもないと龍馬はごまかす。
「えー? そういわれると気になっちゃうんだけど」
恋は話の内容が気になると食い下がる。上目遣い気味に龍馬を見て何とか聞き出そうと必死に行動するが、恋に聞かせてもどうせ訳が分からないだろうと判断した龍馬が教えることはなかった。
「他愛のない話だよ、本当に」
焔真が龍馬の言葉に付け足すように言うと恋は、どちらも本当のことを言う気がないとあきらめる気になったのか口を紡いだ。そうこう話をしている間に打ち上げ花火の始まる時間となっており、全員で雲一つない夜空を見上げた。
ヒュー、ドォーンと音を立てて綺麗な花を咲かす打ち上げ花火にその場にいた誰もが魅了された。焔真、龍馬や零士は静かに眺めていたがその反対に、恋と茜はテンションが上がってきたのか「たーまやー!」と叫び、琴里や澪などは「綺麗」と口にだしていた。高いビルも焔真たちのいる場所以外にはなく、辺りにもあまり光がないため、綺麗な花火がより一層極まっていた。
「久しぶりに見たけどいいもんだな」
静かに見上げていた龍馬も時間がたつにつれ、ぽつりと口からこぼれる。
「家にいるときはうるさいなとしか思わなかったけど実際見てみるとすごいね」
家の中にいるときはただの雑音にすぎなかったが、実際に見てみるとその感想も百八十度変わると零士も感嘆する。
「どう? 来てよかったでしょ!?」
感慨深く花火を見上げていた焔真にいつの間にか近づいてきていた恋が楽しそうに弾んだ声で話しかける。
「そうだな。これなら来年もまた来たいもんだ」
「来ようよ! また、ここにいるみんなで!」
焔真がまた来たいと答えると恋は大きな声でそういった。そしてその言葉はちょうど打ち上げ花火の切れ間だったのか全員に聞こえた。その時の全員の反応は様々だったがまとめると全員がまた来たいという旨の発言をしていた。
「ほら、みんなも来たいって」
「そうか……じゃあ来年もみんなで一緒にこような」
「うん!」
焔真が全員の意見をまとめ来年も全員で一緒にこの祭りにくると決めたことに恋は満面の笑みを浮かべながらそう答えた。
9/30日締め切りのMF文庫新人賞に送る小説を書くため、しばらく更新できないと思われます。