人間-b
「話って、話すことなんて私たちはないわ」
「…まぁまぁ、フェリス姐さん、待つっすよ。」
「そうよぉ?私達はこの子を捕まえに来たけど【???】ちゃんは逃げるつもりもないみたいだからね〜。焦る必要も無いと思うわよ〜?」
三人で話してる間ガルスはずーっとこっちを見ていた。まだかまだか、獲物を前にした獣をふと思い出した。
「……それもそうね。わかったわ、アイリス、シェキナ。私はこのことあまり話したくないから私の分は代わりに話しておいてちょうだい。」
「おっけぇーっす。」
「はぁ〜い。」
2人は女騎士……フェリスのことを説得して僕に向き直る。その瞳は少し、暗いきがした。
「……そうっすねぇ……、兄貴の事は尊敬してますし自分の命が消える程度なら構わないんすけど……。」
「ちょっと、シェキナちゃん!話が違うわよ!……【???】ちゃん、簡潔にいうわね。……家族全てが、人質になっているの。それも【???】ちゃんが助けられない王族きっての呪術によって、ね。」
「あー、まぁ、そうっすねぇ。助かる方法ってのが王様ただ1人が扱えるその解呪魔法だけっすもんねぇ、その点僕の母さんだけ解呪されたところを見せられましたけど疑う余地はなさそうっすね。兄貴がお世話になってたセ【??】さんでさえ解けませんでしたし、はい、これで補足は終わりっす。」
二人が言う事をまとめるとこうだ、王族秘伝の呪術によって三人の親族は既に呪いがかけられ、解呪は国王ただ一人が行える。
「……そっか。君らのとこも、か。やっぱあの国王下衆いなぁ……事情は分かった。」
「おっ?おっ?そろそろ?」
ガルスはそろそろだねぇ、俺っち退屈してたよぉと呟きながら1人僕に近づいてくる。
「んー、分かった、分かったから、戦った後に君らについて行くよ。」
ついて行く、といった瞬間のみんなの驚きよう。僕は絶対に忘れないだろう。
「どういうつもり?あなた、逃げてるんじゃないわけ?」
「……あらあらぁ?」
「どういうことっすかねぇ」
フェリスがすっと目を細めて睨んでくる。アイリスが困惑したように頬に手を当てる。シェキナも、目線だけこっちに向けてくる。
「おいおい……それって結局のところ手ぇ抜いて負けるとかそんな感じじゃあないよなぁ?俺っちは全力でお前とやりたいんだけ……」
「ありがとう、ガルス。僕、もう逃げる理由もなくなったし、生きる意味もなくなったんだ……。僕がいて、困る人がいる、そんなの、もう嫌だから。ここに、僕のパーティーメンバーを連れてきてくれて、ありがとう。」
ガルスに手刀を打ち込み、魔力の供給線を刺激し気絶させる。
「さぁ、君たちの番だね。最後に、気持ちいいことして終わりたいから、全力で来てよ」
僕はその時は迷惑がかかるなら、もう生きたくないと心が折れていた。いや、心が折れるふりをしていたと言うべきだろうか。
「……そう。なら、行くわよ!」
「【クイック】【ヘイスト】【フルレジスト】!」
「…戦うのが、お望みなんすね。なら、容赦はしないっすよ……!」
3人が戦闘態勢に入る。今の彼らの力はどの程度なんだろうか。それだけが楽しみで最後の晩餐でもあった。
そして。
15分もしないうちに戦闘は終わりを告げる。
「……私達……一つランクが下のSSSなんだけどなぁ……?」
「相変わらず、兄貴の速さは異常っすねぇ……。こっちも補助魔法かかってんすよ?」
「流石ね……。」
「それに魔法だって消されるし……こりゃあ、勝てないわぁ……。」
結果だけいえば僕の勝ちだった。が、何故だろうか、もっと強くあって欲しかった。僕の隣にいると思っていた人たちは、既に遥か後方に下がってしまっていた。それに気がついたのはほんとについさっき。
「……ぁ……えっと、行こうか。」
失望の色をにわかに隠せずに王国への道を提案する。