人間-a
雨が降っていた。
ポツリポツリ。
それは誰かが悲しい結末を引き起こす引き金の音であることは間違いない。誰かが人知れず悲しい決断をする時の背中を押す音なのかもしれない。
「……ッ!ハァハァ!……なんで、なんで僕がっ!」
仲間だった奴らが、追ってくる。
「【???】さんよぉ、どこいくつもりだァ?」
いきなり脇道から声が掛けられる。
【???】とは僕の名前だったはずだ。なぜ、聞き取れない。
「ガルス!き、君まで……ッ!」
いや、今は僕の名前が聞き取れないことはどうだっていい。ここまで僕が彼の接近を許したこと、共に戦った仲間でさえ襲ってくるのに未だに気を許している自分の神経に叱咤した。
「いんやぁ?別に俺っちあんたを捕まえる義理は国王にもないしむしろあんたに助けてもらった恩の方がある。まぁ、今からしようと思ってることは?まァ?恩をあだで返すようなもんだけどね。」
そういうとガルスはおいっ!と自分の後ろに向けて声を放つ。
「!!!……えっ、な、なんで……」
そこには見知った顔が4人、それも戦争を止めるすぐ前まで共に戦っていた仲間、特に心を許して背中をあずけた友であった。
「……ゴメンね、【???】私、貴方と戦わなきゃいけない。」
「ふふっ、【???】ちゃん、私も彼女も…君を捕まえなきゃいけなくて…ねっ?」
「あぁー……えっと……すいません、兄貴。えっと、いや、【???】さん、取り返さなきゃいけないものが出来たので……僕は、貴方を倒さなければ。」
ふらつく視界。ガルスはつまらなそうに僕の仲間を一瞥した後にこう言った。
「俺っちは、ただ純粋にお前と戦いあいたかっただけ、こいつら、うちらの国王になにか握られてるみたいよぉ?まっ、理由だけでも聞いてやんなよ。」
飄々とした態度のガルスは僕を捕まえる気ではないらしい。
「いらないわ、ガルス。私達は理由を話しても罪悪感は消せはしないもの。」
「そうね、【???】ちゃんに知ってもらっても何も出来ないわ。」
「……僕は何も言うことないっすよ。」
何かが違う。なんだ?何でこうもかたくなに僕に何も話さない?いつもこいつらが困ってる時は助けたし僕が困ってる時は助けてくれた……そんな、関係じゃなかったのか?信用なんてされても無かった……いや、信用の深さが足りなかっただけなのか?
「僕は、いきなり国王から狙われた。その理由は簡単、権威を脅かすからだ。」
自分から動かなければ相手は動こうとすらしてくれない。それは常に僕が信じていたことでだからこそ僕のことを話すことで彼らは話してくれると信じた。
「僕らが止めた戦争、ラグナロク。これさ、国々が僕に恐怖しちゃってるんだよ。…そして獣王率いる獣の国ガンティアーツ、魔王率いる魔族の国アルマ、そして創世神率いる天界ユートピア、これらの国は僕の首をとって停戦、形は終戦だけどね。まぁ、それに持ち込もうとしたんだよ。もう終わったはずの戦争を2度と起こさないために一方にだけ強すぎる力を置かせたくない、とね。」
ガルス以外のメンバーはじっとこっちを見て話を聞いている。その反応は予想通りでやはり彼らは話し合えば分かってくれる、そう確信していた。
「けどね、知っているとおり僕らの国の国王は優秀。だから秘密裏に僕に契約を持ちかけてきた。首はいらないから国に忠義を尽くせ、私のために尽力してくれ、とね。当然、断ったら育ての親のギルド長やらなんやらになにかするってことを無言で威圧してきたけど。……まっ、それでその契約の中身の実態は国王専属の奴隷契約。扱いは奴隷、命令違反は死、ただ、それだけ。どう?だから僕は逃げ出したんだよ。」
どう?の部分でみんなの様子を探ってみた。1人は目を閉じ、1人は口に手を当て鋭い眼光で見据え、1人は剣の鞘に手を当てていた。
「でさ、逃げ出された国王はもちろん怖いよね、いつだって優秀な王様は危機感と欲が大部分を占めているものだから。気がつくと国王命令違反で捕縛礼状、生死は問わないらしい。僕の親も、捕まったよ、軟禁状態だ。」
「話は、それだけっすか?」
剣をつかむ手が強くなった気がした。
「私達も、似たようなものね」
目を開く女騎士、それは敵を射抜く目であるのは長年連れ添った僕だからこそ分かる。
「そうねぇ〜……まぁ、私達は【???】ちゃんのように最強でもないから……ね。人質をとられると私たち辛いのよねぇ〜。」
杖を握る魔道士のそれはまさに死を予感させる大魔道士のそれだった。
「……話、終わった?」
つまらなそうに両方を見てくるガルス。
「ねぇ、何があったか聞かせてよ。ガルス、もう少し待って」