第8話 1905年度国防会議:後編
「ではまずは海軍の方から話そう。今後の建艦計画だがやはり戦艦や重巡、じゃなかった装甲巡洋艦等の大型艦建造を自国で行えるようにならなければならない。しかし、急に造れといっても難しいだろう。そこでとりあえず新型装甲巡洋艦2隻を建造したい。もちろん、今すぐではない。少々時間がかかってもいい。しかし、以下の条件を満たすような艦を造って欲しい」
と言って俺は資料を配った。
その紙には簡単な艦のスケッチとデータを書いておいてある。
そこに書かれた内容は、
1、主砲20センチ連装砲4基8門
2、速力23ノット以上
3、副砲は14センチ砲か12センチ砲を6門ほど
4、対水雷艇砲として40ミリ機関砲を10〜20門
5、基準排水量1万2000トン以内
6、防御力はこの艦の主砲砲弾を1万メートルから撃たれても主要部分は無事であること
スケッチは主砲が背負い式で副砲はケースメイト方式。
艦橋が従来艦よりも高くなっており、煙突と大体同じくらい。
当時の艦橋はかなり背の低いものが多いがそれでは何かと不便なので。
もしこの性能が実現できればかなりの優秀艦になるとはずである。
太平洋戦争時や現代の艦船を知ってしまっている俺達にはそんなにすごいとは思わないが、この資料を受け取った山本や秋山などはかなり驚いているようだ。
「これはまたかなり強力な艦ですなぁ。果たしてこれを本当に実現できるのでしょうか?造船に関しては我が国はかなり遅れているというしかありません。第一、先進国であるイギリスやフランスでも難しいのでは…」
日高が言う。
当然こういう反応が来るとは思っていた。
しかし、やってみなければわからないではないか。
「難しいということは承知の上だ。しかし、これを完成させることが出来れば日本の造船技術は大きく進歩するだろう。それにもし失敗してもいい経験になる。必ず将来役に立つ」
俺がそういうと日高も、絶対無理だろという顔をしたままではあるがとりあえず表面的には賛成した。
「ところで陛下、対水雷艇用は機関砲のみでありますか?」
秋山が不思議そうに聞いてきた。
確かに今各艦が搭載しているのはほとんどが76ミリとか47ミリの大砲である。
(機関砲を積んでいる艦もある。このごろ小説内で出現率の高い「松島」型は37ミリ5連装機関砲を搭載していた)
俺がこれを機関砲に換えたのには理由がある。
まずは機関砲の方が下手な鉄砲数撃ちゃ当たるということで、水雷艇撃退には大砲よりも効果が上がると思ったからである。
実際水雷艇みたいな小さな艦に砲弾を命中させるのはかなり大変そうだし……。
そして二つめは後の対空機関砲の下地作りだ。
今から艦載機関砲の研究を進めておけば将来対空兵器としてかなり有利になると思ったからである。
いきなり対空機関砲の研究をしろといってもピンとこないどころかまだ飛行機が飛んですらいないので分からないし。
「あぁ、それは水雷艇みたいな小型艦に砲弾を当てるのは難しいだろう?だから連続的に撃てる機関砲で狙った方が当たりやすいと思ったからだ。威力は落ちるがその分大量に撃ちこんで蜂の巣にしてやればいい」
というと秋山はしっかり納得した様子だ。
良かった、間違ってなかったと俺は少し安心した。
しかしこの機関砲、実際に水雷艇相手に効くのかどうかは俺は知らない。
まぁでも水雷艇が戦場で走り回るのは基本的に第1次大戦までだし、もし効かなくても何とかなるだろう。
「それと防御の方だが、今は砲戦の際彼我の距離が短いからいいがそのうち距離が伸びて砲弾は真上から降ってくるようになる。水平方向の装甲も強化していくようにな」
俺はそう付け加えておいた。
第1次大戦でちゃんとユトランド沖海戦が起きるかどうかわかんないからこのことを気づかせておいた方がいい。
とは言っても身をもって体験しないと完全に理解できないとも言えるが。
「さて、では陸軍に移ろう。まずは軍の編制についてだが、新しい兵制を考えてきた。聞いてほしい」
というと今まで暇そうだった陸軍の面々が姿勢を正す。
「私が今回提案するのは『後備師団』制度だ。ただし、これは今は戦時中に召集する兵達の部隊を指す言葉だが、私がいうのは名前は借りるが中はまったく異なるものだ。まず20歳から30歳までの若者を後備師団兵として募集する。しかし、彼らは平時は普通の生活を送る。ただし、年に2度くらい1週間ほどの訓練を受けさせる。そして戦争が近いと我々が判断した場合には召集して2,3ヶ月ほど訓練を行った後現役部隊同様戦う、というものだ。昔で言う一領具足
みたいなもんだ。現役兵に比べ当然戦力としては落ちるが何も訓練してない兵を駆り出すよりはマシだろう。補充部隊としても使えるし、どうだろうか?」
と言って先ほど同様資料を配る。
「なるほど。これは大変良い案ではないでしょうか。これなら平時の予算を最低限に抑えて兵員を確保できます。各方面隊に3個ほど置けばよいのではないでしょうか?」
桂は賛成した。
「兵員はこれでも問題はありませんが下士官は現役を入れたほうがいいと思います。でないと戦闘力はかなり低下するものと思われます」
児玉が言う。
「それはそうだ。そのように手配してくれ」
俺もそれはもっともだと思う。
「陛下、後備師団を作られるのに私は賛成ですが、後備師団を編制した後わずがに年に2度訓練するだけでは訓練期間が足りません。ですので、編制した際に新兵に対して半年から1年はまず訓練を受けさせるべきでしょう。その後、社会に戻して有事に召集する、としたほうがいいと思います」
奥の方にいた藤井茂太少将が発言する。
彼は史実の陸軍第1軍参謀長を努めて活躍した男であり、彼もかなり頭の切れる男だ。
「なるほど。確かにそうだな。他に意見はあるかね?」
こうして提案してみて思ったのは俺の計画には穴が多いということだ。
もともと軍人じゃないし、ちょっとよく知ってるというだけで彼らの意見を聞かないと実行できないし、実行しても意味を持たない。
その後1時間ほど議論は続き、とりあえず実行する方針は決まった。
細かいところは陸軍に任せる。
他にも俺は戦車についても提案しておいた。
これはとりあえず機関砲を防げる程度のものを開発させる。
自動車産業自体がまだまだ未熟であるため実際開発するのは無理かもしれないが。
このほかにもちょこちょこ言っておいた。
さて、この会議で決まったことがどこまで実行できるのだろうか?
まだ時期尚早といったものもいくつか含まれているので実際失敗に終わるものもかなりあるかもしれないがやっておいて損はない。
しかし、この会議の翌月に技術開発庁航空機研究班に大きな助っ人が現れた。
「ライト兄弟」である。
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今回の名言↓
「勝利は戦いの伝統的な形式を改革しようとするものに微笑む」
ーギウリオ・ドーウェ