第7話 1905年度国防会議:前編
さまざまな法案が整備されてから数年経った1905年、もうすでに改変の効き目が出始めた。
国内総生産ののびは10パーセント近くにも達し、重工業は手厚い保護により鉄鋼などの生産は毎年すさまじい勢いで伸びている。
また国内各地で資源探査が進められており、1902年4月には西蔵のタングラ(唐故拉)山脈で大規模かつ質のいい炭鉱が発見され、翌年操業を開始した。
しかもそこから100キロ北のユイシューというところでこれまた大規模な鉄鉱脈が見つかり、ユイシューはタングラ炭田の石炭を使ってユイシュー鉄山群の鉄鉱石から鉄鋼を精錬する大規模な製鉄所がいくつも造られ、鉄の街として発展を遂げていく。
鉄道も急ピッチで敷設中だ。
他にも今年に入って朝鮮半島中部にある春川で推定埋蔵量1万トンともいわれる金鉱脈が見つかり、これから財政を潤してくれることが期待されている。
これらの鉱山は国が見つけ、国により開発が行われているが民間企業による探査も進んでいる。
三菱グループ傘下の三菱鉱業は満州で鉄や銅の大きな鉱山をいくつも発見し、実際に採掘を始めているし、新興企業の中で最も業績を伸ばしている田坂重工も華北で見つけたカイロワン炭田の開発に乗り出した。
農業分野ではタクラマカン地域の開発が順調で、小麦や米などの生産量も増大した。
ただ、それにより値段がだいぶ下がってきていて農家の家計を脅かし始めている。
そこで消費の増大を図るためにインスタントラーメンの開発を行わることにした。
簡単な原理は俺が知っていたので、それを教えて技術開発庁に軍の携帯食料として研究させたのだ。
もし開発が成功したら当然市販化する。
値段は大量生産させれば安くなるし、おそらく俺達がいた世界同様かなり売れるはずだ。
こうした順調な経済成長の中、1905年度の国防方針を決める会議が行われた。
出席者は主な顔でいうと国防大臣西郷従道を筆頭に海軍からは山本権兵衛や常備艦隊司令の日高壮之丞、参謀の島村速雄や秋山真之など。
陸軍からは桂太郎(現陸軍庁長官)、大山巌、児玉源太郎などが出席している。
また、技術開発庁からは技術開発庁長官長岡外史や研究員数名が顔を出した。
「さて、我が国は現在順調に成長を続けている。そろそろ軍備も増強したいと思うがそうもいかない。収入の増加に合わせて出費も増えているからな。だが、技術革新だけは進めていきたいと思う。いざ軍備増強を図っても一世代前の軍隊が出来上がっても困るし、技術は日頃からしっかり研究してないと伸びない。そこで今回は陸・海軍の新兵器開発について話をしたいと思う。私も考えてきてあるがまずは用兵者である君たちの意見を聞きたい」
俺がこう言うとまず発言したのは秋山真之だった。
「はっ、では発言させていただきます。昨年頃、アメリカでは潜航水雷艇なるものが開発されたと聞いております。まだ詳細は掴んでおりませんがなにやら水中を走り敵艦近くまで忍び寄ると水雷を発射し、水線下に大きな打撃を与えるとのことです。我が国もアメリカよりその潜航水雷艇を輸入して研究し、開発を進めていってはいかがかと存じます」
さすが秋山だ。
俺が言おうとしていたことを先に言われてしまった。
史実でも潜水艦や航空機の発達を予想する報告書を出したとどこかで聞いたが、こちらの世界でも変わらずしっかりとした先見の明の持ち主のようである。
ところで、彼の言う潜航水雷艇とはおそらくアメリカで開発された「ホランド」級潜航艇のことだろう。
「さすがだね。私が言おうとしていたことを先に言われてしまったよ。おそらく秋山君が言った潜航水雷艇は排水量60トン強、全長約16メートルで速力は約6ノット、安全潜航深度24、5メートルぐらいだ。武装は45センチ魚雷発射管が1門で魚雷は3発搭載、あと水中ダイナマイト砲というものを2基持ってるがこれは気にしなくていい。これは水中で砲弾を圧搾空気で撃つものだが実用性に欠ける。輸入した後即撤去して構わない。今年中に輸入して研究してもらおう」
と俺がインターネットで得た手元の資料を見ながら言うと、
「はっ。しかし陛下、なぜそのような詳細の資料をお持ちなのでしょうか?我々は米国でようやく実用化できる潜航水雷艇が出来た、としか聞いておりませんが…」
秋山が不思議そうな顔で聞いてくる。
俺は返答に詰まった。
無論、インターネットで調べました!なんて言えない。
「まぁ、これは…、その、うん。天皇の機密、皇機ということで」
と苦し紛れに言うと、了解ですと言って顔を正した。
「他にはないか?」
と聞くと児玉源太郎がさっと挙手する。
どうぞ、と発言を許可すると起立して喋りだした。
「はっ。私は航空機について意見を述べさせていただきます。近年、アメリカではガソリンエンジンを用いて従来の滑空機[グライダーのこと]を飛ばすことに成功したという話を聞きました。詳しく調べたところ、その機は約1分の飛行に成功したとのことです。これも先の潜航水雷艇同様輸入して研究したいと思いますがいかがでしょうか?」
こいつも俺の言うことをとりやがった。
彼も明治軍人の中では後世で高い評価を受けているが、その評価に違わない能力の持ち主だ。
史実では2年後にこの世を去ることになっているが、こっちの世界では少し早く逝ってしまうかもしれない。
どうやらこのごろ体調が思わしくないらしく、今日も無理をしての出席らしい。
史実で彼を心身ともに苦しめた日露戦争は無かったが、陸軍内の人員整理を任せたのが彼の負担になってしまったのかもしれない。
彼のような優秀な人物を失うのは惜しいが人間には寿命というものがある以上仕方ない。
「君もまた私の言いたいことを言ってくれた。私のデータによると12馬力のガソリンエンジンを搭載して時速50キロ弱で飛んだらしい。距離は250メートルほど。このままでは使い物にならないが1時間ぐらい飛べるようになればかなり有効な兵器になる。おそらく10年もあれば他の国は500キロくらい飛んで他国の領土に爆弾を降らせれるような飛行機を作るようになる。日本もそれに負けてはいられない。予算はしっかりとらせる。技術開発庁は職員を開発者、おそらくライトという2人の兄弟だと思うが、に派遣して構造を聞いて来てくれ。できれば2人を日本に迎えて研究したいから一応それも打診しておいて欲しい」
児玉と技術開発庁の研究員が頷き、開発庁の職員はメモを取る。
他国領土に爆弾を降らす、と言った時に反応したのは児玉のみだった。
まぁ、航空機そのものを全員良く知らないし、後に世界がいたるところで航空機により焼け野原にされるなんて夢にも思わないだろうから仕方ないが。
「他にはないか?」
その後何人かが発言したが大して面白味もない意見で、革新的なものはなかった。
そろそろ俺の意見も出しても良さそうだ。
「では、私からいくつか提案させてもらおう」
今自分でも信じられないようなスピードで次々に話を書いています。その分誤字・脱字等もひどいですが春休みの間はこのスピードを維持していきたいです。新学期になったら…、むしろ新学期の3日前くらいから滞るかもしれません。宿題という天敵が待ち構えているので……。
今回の名言↓
「軍事力を育成するほど儲からないことはない。しかし、軍事力がなければ、もっと儲からない」
ー古代ギリシャの格言