第64話 井戸端会議:後編
高橋がスペインでの戦艦建造を持ちかけると俺達は渡りに船と飛びついた。
「スペインで戦艦を建造……。いいかもしれん。スペインは造船所もあるし、それなりの建造経験もある。それに軍縮にも参加していない……。丁度いいじゃん」
太田がうんうんとうなづきながら言う。
「全くだ。俺達が多少技術提供すればなんとかなるだろう。よし、そうしよう」
橋本もそう言う。
他の奴も異存はなかった。
「よし、それじゃ決まりだな。とりあえず南米とも話合わないとなんともいえないが、こっちとしてはそれで進めよう」
島田がそう言って次の話題に行こうとしたが、
「ちょっと待って。高橋君とこに戦艦を今すぐに建造できる造船所ってある?一昔前の戦艦なら2万トンくらいのドックで建造できるけど、今のは4万トンクラスに対応できないと正直厳しいと思う。造船所を造るとこから始めたら時間がかかり過ぎるわよ」
奥田が島田を止めて言う。
「う〜ん、奥田の言うことももっともだよな。南米に迫る危機はかなり差し迫った問題だからな……。あんまり悠長なことは言ってられない。何かすぐに戦力を増強できる手立てはないか?」
確かにあまりのんびりしてはいられない。
俺達のこの動きを知ればアメリカはなんらかの行動を起こす可能性も否定はできない。
国境で紛争を起こすとか、相手国の港で船を自爆させるとかアメリカは戦争の口実を作るのには慣れている。
もし今戦争になれば少なくとも海では南米が蹴散らされるのは間違いない。
全員がしばらく悩んでいたが、突然島田が大きな声で叫んだ。
「俺良いこと思いついたぜ!俺たちのところの旧式戦艦の解体を南米に任せる、ということにして売ればいいんじゃないか?それで向こうがリサイクルして戦艦を造ったってことにすれば条約にも引っかからない。その上で向こうが俺達に戦艦の改造を依頼、という形で近代化改装すれば十分な戦力になる。どうだ、俺頭良くね!?」
屁理屈だろ……。
まぁ確かに引っかからないけどいろいろ問題あるくない?
「それ良い!そうしようぜ」
「島田君、意外と頭冴えてるじゃない!そうしましょ」
「さっすが島田。見直したぜ」
あら?
皆さんそれで良いの?
まぁ、みんながそれで良いなら別にいっか。
国際社会なんて屁理屈ごねていろいろやってるだけだしな。
これぐらいやっても当たり前か。
俺ももう少ししたたかにならないと。
その後本当にこれは実行され、例えばイギリスの戦艦「ライオン」はこのような形で売却された。
まずイギリス国内の造船会社に屑鉄として売却。
そこで武装のみ撤去され、船体はその会社の子会社へと売却される。
その子会社はフランスの造船会社へ船体をそのまま売却。
そのフランスの会社もドイツの鉄鋼関連企業へ……。
こんな感じで「ライオン」はイギリスにいたまま書類上で所有者が2,30回ほど変わった後アルゼンチン海軍に売却された。
その後主砲などは堂々とイギリスから輸出されてアルゼンチンに到着、取り付けのみアルゼンチンで行われることになる。
戦艦は造れないが、この取り付け作業くらいはなんとかアルゼンチンでもできるはずだ。
まぁもし無理でもどうせ後から他の国で改造されるから関係ないけどな。
さて、話は再びベルリンへ戻る。
この戦艦の件の後俺達が話しているのは大恐慌対策についてだ。
当然起こるのかどうかは定かではないが対策は考えておく必要がある。
それに大恐慌が起きなくても戦争前にはアメリカ資本が各国から撤退を始めるのは間違いない。
それぞれの国の産業にアメリカの資本はかなり深く食い込んでいる。
俺達は引き抜かれたとき対応できる力を蓄えておかなくてはならない。
「なるほどね。俺達の足元にはアメリカの手が入ってるわけね」
俺がアメリカ資本の話をすると島田が床を足で小突きながら言った。
「じゃあアメリカの会社を俺達の国から締め出せばいいじゃん。手っ取り早く今から」
そう簡単に済めば誰も苦労しないよ、島田。
「アホ。そんなことすれば本当に大恐慌になるぞ。第一そんなこと済むんなら俺はもうやってるさ」
全くどうすればいいのやら。
俺も経済とかそこまでよく知ってるわけじゃない。
まぁ素人なりに考えて今思いつくのは金を貯めておくことぐらいか。
あとは少しずつ重要企業の株を純粋な日本企業に買わせるとか?
「まぁ、金を貯めておくことが一番だろう。後は実際に起きたときいかに早く対策をとれるか、だ」
「対策って?」
奥田が聞いてくる。
「う〜ん、俺に聞かれてもな。まぁ素人の考えだけど一番は自国の通貨の価値を安定させることじゃないか?それ次第で物価が変わるんだから。ま、その方法と時期が難しいんだろうけど。俺が知ってるのは現代社会の時間に聞いた、公定歩合操作・公開市場操作・預金準備率操作ぐらいしか知らんけどな。他の対策としては潰れそうな銀行を国有化して乗り切るとか、公的資金を投入して助けるとか。まぁ、そういうことは俺わかんないから自分の国のちゃんとした人に聞いてくれ」
説明は不要かもしれないが一応簡単に。
公定歩合操作というのは中央銀行が一般銀行に貸し出す際の金利(公定歩合)を増減させることで通貨供給量を操作するもの。
これにより民間金融機関の資金量が影響され、当然それに伴ってマネーサプライも影響を受ける。
公開市場操作は民間金融機関が保有する国債などの売買を通じてのもの。
当然それを中央銀行が買い上げれば金融機関の資本は増すし、逆に買わせれば資本は減る。
預金準備率操作は、金融機関が預金を受けた際にその一定額を中央銀行に預けることを義務づけられている支払い準備金の率の操作のこと。
準備率が上がればマネーサプライは減るし、下がれば増える。
詳しいことは高校一年で習う現代社会の経済を参照。
だいぶ復習になったよ、これ……。
「あ、そういえばこんなことも習わなかったっけ?日本は戦後金融危機を二度と起こさないために何か対策をとってたって……。ええと何だったたかな?」
向井(南アフリカ)があたまを抱えて一生懸命思い出そうとしている。
が、その隣りの町田(イタリア)がさらっと答えを言う。
「護送船団方式。銀行すべてを丁寧に保護して、どんなに小さい銀行も破綻させないように、どんな小さい銀行でも利益が出るように大蔵省、つまり現在の財務省が守ってたんだよ。利息はどこも同じ、都市銀行と地方銀行で役割を分担、銀行と証券を区別してな。けどこれば競争力を低下させちまって日本はエライことになっちまったやつだが」
さすが秀才。
記憶は完璧だ。
けどなんだ、失敗作かよ。
「へぇ〜。それ案外使えるかもしれんよ。だって日本は戦後ずっとそうしてきて90年代までもちこたえんだろ?だったらあと10年か20年しかない俺らは使っても大丈夫だと俺は思うけど」
太田が言う。
「けどさ、競争力が落ちればいろいろ問題出てくるのは間違いないんだろ?だったら他の方法探そうや」
これは橋本。
「ま、使うかどうかは自分の国に帰って相談しな。それより他の方法も考えとこうぜ。対策は多ければ多いほうがいいしな」
島田が議論をさっと打ち切り話を進める。
なんだ、ちゃんとリーダーシップ取れてるじゃないか。
しかし、俺達にそう簡単に解決策が見つかるはずもない。
その後1時間ほど悩んだが妙案はなかった。
そのため一旦この会議はお開きとなり、1年後また会議を行うことで各国は合意しそれぞれの国へ引き上げた。
俺はその後ドイツ観光を1週間ほど満喫した。
その間キール軍港も見せてもらい、新鋭戦艦「マッケンゼン」にも乗艦させてもらう。
38.1センチ砲連装4基を搭載し、速力は29.5ノットを誇るドイツ最新鋭の戦艦だ。
まだ同型艦が3隻ほどできるらしく、4隻揃えばさぞかし壮観だろうな。
その後俺はドイツを発ち、日本への帰途に着いた。
いやいや、今回はなかなか疲れた……。
更新が遅れ申し訳ありません。テストは無事(とは言い難いですが)終了しました。しかし、今週末は両方とも模試があり、その次の週も忙しいため更新は困難と思われます。
ただそれを乗り越えれば作者は修学旅行というビックイベントが待っております。なんと行き先はハワイ!!いや、ここ最近のガキは贅沢になったもんですね。
是非とも「アリゾナ記念館」や「ミズーリ」を見たいもんですが、学校では作者は基本的にこういう軍事系に興味大有りなことは伏せており、ただの阪神の熱狂的ファンということで通しているので見れそうにもなく……。自由時間が半日くらいあるんでミズーリくらいは行けないことはないのですが、他の班員に迷惑かけても仕方ないですしね。
更新は修学旅行までにもう一回はするように努めます。