第63話 井戸端会議:前編
1922年暮れのある日、俺はドイツのベルリンに居た。
別にこれといった理由があってのことではない。
軍縮会議の後、島田に暇ができたら俺んとこ来いよと言われてたからちょこっと顔出しに行っただけだ。
まぁ「ちょこっと」って言う距離じゃないけど、たまには良いだろう。
どこの首相も外遊、外遊って税金で遊びに行ってんだから。
まずベルリンまでは飛行機で行ったがそれはもう大変だった。
何しろ今みたいにジャンボジェットで真っ直ぐドイツまで行けるわけじゃない。
けど船でのんびり行くのも時間を浪費してしまう(前回イギリスに行くときも大変だったし……)ので飛行機で行った。
しかし航続距離の関係上途中で給油が必要で、途中にある国の飛行場に着陸させてもらって給油を受けたりと何かと大変だった(まぁそれを事前に各国に頼む外交官も大変だろうが)。
まぁそんなこんなでようやくベルリンのドイツ軍基地に着くと島田の親衛隊の兵士が出迎えてくれていた。
直立不動、まさにその言葉が当てはまる。
捧げ筒も全く隣りとズレがない。
まぁ、どこの国もこういうのはきっちりしてるがドイツは特にすごいな。
「よう、小嶋。はるばるご苦労さん」
島田が親衛隊の後ろの方から歩いてきていた。
「おう、わざわざ出迎えに来てくれたのか」
俺も島田の方へ歩いていき握手を交わす。
「早く行こうぜ。みんな待ってるぞ」
そう言ってスタスタと歩き出す。
みんな?
誰か来てるのか。
「おい、ちょっと待てよ。みんなって誰だよ」
しかし島田はそれには答えず、
「まぁ来れば分かるって」
と言って車に乗り込んでしまった。
俺も用意されていた車に乗りどこに行くのかも分からないまま連れて行かれる。
1時間程車で走った後、車は大きな屋敷へ入っていった。
ただ不思議なことに……、めっちゃ和風の屋敷。
ここドイツだろ?
どう見ても不釣合いでしょ。
カコーン、カコーン、ってなんかししおどしの音も聞こえるし。
ってかあっちの方のあれ、なんて言うんだっけ。
ほら、あの寺とかによくある砂利を敷いたところになんか丸い模様をつけていくあれだけど……。
枯山水だっけ……、まぁいっか。
ここで俺は車から降ろされた。
島田が俺にこっち来いよと合図をする。
「ここはどこだよ、島田」
俺が尋ねると島田は自慢そうに、
「俺の別荘だよ。なかなかよく出来てんだろ。ほらあの屋敷だって苦労したんだぜ。わざわざ日本から大工を呼んでさ」
そう言って屋敷を指差す。
そこには超立派な日本屋敷があった。
「確かにすごいけどよ、お前にこんな趣味があったとは知らなかったな」
俺がそう言うと、
「いや、やっぱり和って良いだろ。着物が似合う女子とか俺もう大好きだぜ」
誰もそんなこと聞いてねぇ。
まぁ意外な奴の趣味はおいといて前置きが長くなるのでこの辺りで切るか。
屋敷の中に入り、俺は案内された部屋でくつろいだ。
いやなかなか飛行機の長旅は疲れた。
こういうときなんかこの和室は落ち着く……。
結構良いもんだな。
俺は結局時差ぼけもあり、そのまま寝てしまった。
そして翌日、俺が起きると着物のきれいなお姉さんが朝食を持ってきた。
ドイツの人みたいだけどよく似合ってる。
俺が若干見とれていると、向こうが不思議そうにこっちを振り向いたので俺は少し顔を赤くして慌てて視線を逸らした。
「お食事が終わられましたら、この鐘を鳴らしてください。お食事の後皇帝閣下が陛下をお待ちです」
そう言って着物美人は部屋を出て行った。
そして食後、鐘を鳴らすとさっきの人が入ってきて俺は案内されるままついていった。
しばらく屋敷の中を歩いてある部屋に入る。
するとそこは大きな会議室だった。
もう結構人が入っているようだ。
ん?
って言うかどれもこれもよく見た顔だ。
とりあえずヨーロッパのほぼ全員と南アフリカ、ブラジル、アルゼンチン。
一体何の集まりだよ?
「よし、これで全員集まったな。今日はサミットと称して同窓会やろうと思ってお前らを集めたんだ。それじゃ早速これからのことについて話し合おう」
島田が会議室の前に立ってしゃべりだす。
「島田君、同窓会と称してサミットじゃない?意味がつながってないわよ。それとどれだけアバウトなの?これからのことって一体何よ」
奥田が突っ込む。
「どっちでも良いだろ、変わんねえよ。で、何か議題はあるか?」
こいつ事前の準備なしでサミット始めやがったな。
普通議長を務める国はそれなりに準備してるだろ。
ってか俺はここに遊びに来たつもりだったんだが。
だからクッキーもジョンも連れてこなかった。
ま、サミットと言っても井戸端会議みたいなもんだな、第一ほとんどの奴が隣りの奴とのおしゃべりに夢中だし。
とりあえず雑談会が展開されていったが1時間ほど経ってそれは収束に向かい、ちゃんとした国際問題に関する話へと動いていった。
「なるほど、俺たちは教頭な罠に見事にはまってたわけだ。野郎、やっぱ油断のならねぇ奴だ」
橋本が吐き捨てるように言う。
「あぁ、まったくだ。けど俺たちが結束してアメリカと戦えば実際その程度の戦力差は関係ない。俺達が束になってかかれば絶対に負けはしないさ。ただ問題なのはこの中の誰かが奴の攻撃を単独で受けたりすることだ。特に角田、お前ら南アメリカは危険だぜ」
俺がそう言うと角田は、
「分かってるよ。だから今は中南米の5カ国全部で同盟を組もうとしてるとこ。けどこれだけじゃ力不足だよ。そもそも海軍なんてどこの国も貧弱そのものだし……」
ごもっともだ。
戦艦を保有しているのはブラジルのみ。
しかもこないだの軍縮で戦艦は6隻に限定されている。
「まぁ領土とか経済の状態を考えるとコロンビアやコスタリカに強い海軍を造れと言っても無理だろうな。特にコロンビアは今忙しいみたいだし」
太田が諦めたように言う。
今コロンビアは治安が非常に悪い。
反政府武装勢力が政権転覆を狙って各地でテロを起こしているのだ。
麻薬の横行や政府組織腐敗など多くの問題を抱え込み、武田(元首)も苦労しているらしい。
しかし奴は決して無能ではなく、なんとか国を維持しているし治安の改善にもきっちり取り組んでいる。
それにコロンビアはこの治安の悪さや麻薬が際立って有名だが、経済は安定しているのだ。
豊かな農業生産、豊富な鉱産資源、それに加えて花も有名である。
花の「蘭」はこの国が原産らしい。
「まったくだ。でもアルゼンチンやチリは十分な国力があるだろ。史実よりだいぶ成長したらしいじゃん。あいつらにしっかりと海軍造らせればそこそこアメリカにも対抗できる海軍ができるんじゃないか?」
と言うのはスペインの高橋。
なるほど、そういえばあの2カ国は軍縮にも参加していないからフリーだ。
これはいいかもしれない。
「高橋、お前今良いこと言った。それぞれ4隻持たしても南米で固まれば14隻、かなりの戦力になる。どうだ、角田?」
太田が息を吹き返したように言うが、角田は首を振って、
「無理だよ。あの二つの国には戦艦を造れるような技術も造船所もない。巡洋艦だって輸入に頼ってるんだぞ。なぁ、小嶋」
確かに。
あの二国には巡洋艦などを日本が輸出している。
史実からすればかなり成長しているが、造船技術に関しては三流と言うしかなく、鋼鉄製の船舶を建造できる造船所すら多くはない。
陸軍の整備が最優先で海軍の整備は遅れ、輸入物で我慢と言う状態が続いているのだ。
いくら技術支援をしても難しいだろう。
「そうだな……。それじゃあ、お前らのところで不要になった旧式戦艦を近代化改装した上で売却するのはどうだ?これなら安くあがるし、お互いに損はなくないか?」
我ながら良い案だ、そう思ったが奥田に突っ込まれた。
「ダメよ。廃棄される戦艦は完全に廃棄しなければならないっていう条項があったでしょ?」
そんな条項あったか?
しかし、調べてみると本当にあった。
第10項に「廃棄される艦は必ず解体もしくは沈没処理で完全に廃棄すること」とある。
くそっ、教頭に先を読まれていたのか。
う〜ん、とみんなが頭を悩ませる中一人だけ頭を抱えていなかった奴がいた。
「だったら俺のところで建造したらどうだ?俺の国は軍縮に参加してないが戦艦は造れないことはない。技術支援さえしてくれたら何とかなるとは思うが……」
そう言ったのは再び高橋だった。
何か話が途中で切れてる感じがありますが、それは修正を加えているとえらい長くなりそうだったので無理やり切ったためです。今度は後編が短くなりすぎそうで怖いのですが……。
あ、次週は更新がないかもしれません。作者はテスト週間に突入いたしました……。