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第62話 教頭の仕掛けた罠



「だから私は行きたくなかったのよ!別にカザフスタンとの交渉なんて私が出るまでもなかったでしょう。陛下に頼まれたから仕方なく行ったのに、それで帰ってきてみればいつの間にかあんな条約を飲まされて……。あなたはアメリカの回し者ですか!?」


「なんだと!?俺は日本のためを思ってあの条約調印に賛成したんだ。なのにお前は俺をアメリカの回し者呼ばわりするのか!」


「あんな屈辱的な条約が日本のためになると?あなたはよくそれで陛下の副官が務まってますね。日本の威信を地に落としたのですよ!」



もう一時間は続くのかな、このやり取り。

しかもだんだんと内容も語気もヒートアップしていってて、かなり凄まじい言葉の応酬が始まってる。

正直あの二人がこんなに激しく喧嘩するとは思わなかった。


あ、もちろん二人というのはジョンとクッキーのことだ。

原因はこないだ締結された軍縮条約について。


クッキーはカザフスタンとの国境付近で発見された油田の利権配分や国境線の確定などの交渉のためアスタナ(カザフスタンの首都)まで行っていたのである。

彼女が長安を発ったのは軍縮会議参加が正式に決定する少し前。

しかしカザフスタンには航空基地が未だ未整備で(現在日本の支援を受け航空機の導入を開始しているところ)、陸路で行くしかなかったのだがそれが大変な難路だった。


新疆やウイグルでは交通網の整備が非常に遅れており、鉄道は計画中の路線ばかりで実際に開通しているものは一つもない。

華北から鉄道が延ばされているが西寧シーニンの辺りが今のところ精一杯。

とりあえず彼女はウルムチにある空軍基地まで飛行機で向かい、そこからは自動車に切り替えてアスタナを目指した。

(シベリア鉄道を使って、という案もあったが新疆方面の視察も兼ねてこっちのルートを彼女が選択した)


未舗装の道路で途中何度もパンクしたりエンストしたりを繰り返してようやくアスタナ入りしたのは出発してからおよそ1ヶ月も経った後のこと。

着いて休む間もなく会談を行い、巧みな誘導で日本有利の条件を飲ませて交渉を纏め上げた。

そして再び難路を乗り越え帰ってきた頃には軍縮条約は締結されてしまっていたのだ。


田舎ばかりを通ってきた彼女に軍縮条約締結は寝耳に水で、対米八割という保有比率を聞くとこれを不満どころか屈辱として激怒。

俺も30分くらい怒鳴られ、さらに彼女の怒りは軍縮参加を進めた上に条約締結に賛成したジョンに向き今に至る。

正直クッキーがここまで怒ったのは初めて見た。

国に対する誇りや忠誠心が強い分今回の件は許せないのだろう。


ただ彼女が一番怒っているのは俺達生徒側がアメリカの策にはまってしまったことだ。

彼女に言われて気付いたのだが、教頭が最初に突きつけた無理難題は俺達から最大限の譲歩を引き出そうとした教頭の罠だったのである。

まず俺達が飲むことのない条件を出せば、生徒側は条約をアメリカが飲むように条件を緩和してくる、向こうはそう考えたのだろう。

それにまんまと引っかかり、俺達は単独ではアメリカに立ち向かうのが困難な状況にあるのだ。


まあ、とはいえこっちの世界では単独でアメリカと戦うことはないだろう。

生徒側の国は反米、というより反教頭派ばかりで誰も奴の側につきはしないだろうし。

他の教員にしても北アフリカのゴマすりを除けば、あまり奴を好きなことはなさそうだ。

それにもし教員対生徒で戦争が起きても、生徒側を合わせた面積・人口と教員側のそれでは圧倒的に生徒側の方が大きい。

まず負けはしまい。


ただ次の戦争がどうなるのか分からない。

そのためやはり今回の条約は失敗というべきだろうな。

クッキーが怒るのも仕方のないことだ。


しかし、ジョンはジョンで日本のことを考えていたのは間違いない。

アメリカと日本が建艦競争を繰り広げれば海軍予算は凄まじい勢いで膨張、国家財政を圧迫し国民生活を脅かすことになるのは目に見えている。

ジョンはそれを防ぎたかったのだ。

国民あっての政府・国家。

それが彼のモットーだから。



さて、まだ喧嘩が収まらないようだから新造空母を紹介しておこうか。


今回の軍縮では日本は3万2000トン×6、つまり19万2000トンの保有枠が与えられた。

現有の「鳳翔」型2隻を差し引きくと、日本の残りの保有可能な空母のトン数は16万8000トンである。

(ちなみに「鳳翔」型は公称1万2000トン、実際は改装によってプラス1000トン強ある)

練習空母の「宮古」は1万トンを少し越えているが、外洋航行が不可能なため対象外となった。


そこで「赤城」型空母4隻の起工が決定された。

艦名は「赤城」「加賀」「蒼龍」「飛龍」の予定。

これも「金剛」型に続き、命名基準を無視してつけたものである。

そもそも山、国、飛ぶものが混ざっているため、軍人達は皆なぜ陛下はこのような名前を……、と思っているだろうが史実をご存知の皆様には理由を分かっていただけるだろう。

一応カタログデータでは基準排水量3万1千トンで速力は30ノットとなっている。


ただこれでは保有枠が余るので2万トン級の空母2隻の建造が決定された。

これは「赤城」級同様4隻建造予定だった、中型空母「飛鷹」型の図面を流用して設計しなおされたもので、そのまま「飛鷹」「準鷹」と命名される予定だ。

基準排水量は2万2000トンで速力は30ノットを発揮できるよう設計されている。



う〜ん、まだ喧嘩が続いてるなぁ。

じゃあこないだできた日本の対米作戦について話しとくか。


日本海軍は当然アメリカを仮想敵国としている。

特に軍縮以降は対米作戦を専門に扱う部署が極秘で設置され、現在案を練っている。

ただ今のところこれというのはないな。


例えば史実どおりの迎撃タイプの作戦。

史実ならフィリピンやグアムを占領しておびき寄せるのだが、今回はそれなし。

アメリカ艦隊がマーシャル諸島にやってくることを前提に迎撃作戦が立てられているが、別にアメリカの針路はマーシャルだけではあるまい。

アメリカがマーシャルではなく真っ直ぐマリアナ諸島や小笠原諸島へ突っ込んできた場合、その時点で作戦が崩壊してしまう。

まぁ、これは後にハワイを占領して、に変わったが、今度は兵站の問題が出てくるなど非常に難しい。


史実でも自分達はこうだからアメリカもこうだろうみたいな考えで作戦を立てていたとか聞いたが、この世界でもどうやらそんな偏った見方をする奴がかなりいるようだ。


ということで、対米作戦部署の人材をきれいに入れ替えた。

今までは古参の参謀や司令などを中心にした人材で構成されていたのをすべて若手に切り替えたのである。

古参の参謀は経験はあるが、どうも保守的で柔軟な思考に欠ける。


その点若手は経験はないが発想が自由だ。

凝り固まった頭から良案は生まれない。

彼らならきっと良いものを造ってくれるだろう。


ただ経験不足はどうにもならない。

それにまだまだ知識も足りない。

なので今回新しく対米作戦部署に配置された若手参謀を皆アメリカに送り込むことにした。

まずは敵を知れということである。

史実の世界でもアメリカ留学を経験した将官と、そうでない将官の考え方は大きく違っている。

この経験は彼らにとって非常に貴重なものとなるはずだ。


他にも士官学校生には卒業研修として他国への短期留学を行なわせている。

外国へ行くことで広い見聞を持つことができるとともに、多角的に物事を見る力を養うのが目的だ。

行き先は本人達の自由。

イギリスが一番人気だが、アフリカや南米、中東といった言い方は悪いが少しマイナーな国を希望する生徒もいる。

ただ単純に修学旅行程度の考えで行く者もいるが、大部分は何かしら自分で考えて国を選択しているようだ。

だから華やかな欧州とは違う地域を選ぶ者がいるのである。


この短期留学制度だが、希望者には長期留学も認めている。

もちろん何かしらの研究をしたいとか、そういうきちんとした理由がある者のみだが、毎年10人程残留希望者が出ている。

出世コースから少し外れてでも研究をしたい、そういう心意気のある生徒がいるのは心強いことだ。


さて、喧嘩は収まらないが今日はこの辺にしとくか。

多分明日にはお互いの機嫌は直るだろうし。





先週今までの話の誤字脱字チェックをしましたが、結構出てきました。文章自体がおかしいのも混じってましたし。気をつけてはいるのですが、なかなか減りませんね……。

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