第61話 ワシントン海軍軍備縮小条約:後編
会議が全くの物別れに終わった翌日、俺達は宿舎として用意されたホテルにある大きな部屋を借りて今後の対策を協議した。
「あのハゲ俺達をなめてやがるぜ。あんな要求がおかしいことくらい分かるし。そりゃ初めてこの世界に飛ばされたときは政治とか軍のこととか全然知らんかったけどさ、20年もこっちにおればいい加減分かるようになるっつうの」
そう不満をぶつけるのはドイツの島田。
こいつは服装やら校則やらで教頭にグダグダ説教されたことが何度もあるらしく、教頭嫌いは筋金入りだ。
まぁ、規則を守っていないこいつが悪いのは間違いないが、奴の顔から奴のネクタイの色まで全てが気に食わないらしい。
まぁ、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いってことか。
「確かに。ふざけんなってんだ。こんな会議やめちまおうぜ。いくらアメリカが軍隊を増やし続けても、俺達全員が組んで奴と戦えば勝てるさ。軍縮なんかしなくても大丈夫だ」
今度はフランスの橋本。
まぁ確かにいくらアメリカ言えど世界と戦争は出来まい。
「ちょっと待てよ、アメリカがこれ以上軍隊を増やせば俺達南アメリカの国はアメリカの属国みたいにされちまう。それを止めるためにも今回の軍縮は必要だ。俺達でまとまって一つの案を出せばアメリカだって飲まざるを得なくなるはず、それを話合おう」
必死な面持ちの角田。
ブラジルの国家元首だ。
アメリカの脅威を間近で感じているブラジルとしてはこれ以上は耐えられないのだろう。
その前に角田の神経も細いからなぁ……。
心配しすぎな気もするが、それは俺のところが当事国じゃないからそこはなんともいえないが。
「けどよ、あの教頭の性格考えてみろよ。俺達の案なんかのむキャラか?絶対無理だって」
「やってみなければ分からないじゃない。男がやりもしないうちから無理無理言うんじゃないわよ」
「奥田、お前なぁ…」
「ガタガタ言わないで案を考えなさい。どうすれば教頭がおとなしく飲むか」
「分かったよ。みんな、奥田様がこのようにのたまわれておいでだぞ。頑張って考えろよ」
「お前も考えろよ」
ロシアの奥田を中心に話し合いが半強制的に進められ、生徒達の国計8カ国はまとまって一つの提案を出すことになった。
そして翌日、再開された会議で生徒は次のように提案する。
【各国戦艦保有数】
米 20隻
日・英 16隻
仏・独 12隻
伊・露・蘇・北ア 8隻
南ア・ブラジル 6隻
※1隻3万5000トンで計算
【捕捉】
1、建造中の戦艦の建造継続を認める。
2、現有艦、及び建造中の艦以外の戦艦に口径35.6センチ以上の砲搭載は認めない。
3、各種艦艇の定義を明確にし、それぞれ基準排水量と備砲口径に制限を加える。
4、現在艦齢が20年を超えている艦もしくは大戦で激しく損傷し現在も著しい障害が発生している艦については代艦の建造が認められる。ただし軍縮調印後4年以内に建造を完了すること。
5、航空母艦についても別に保有数の制限を行なうこと など
俺達はこう提案した後、多少の修正は行なうが大幅な変更はしない、もしアメリカが拒否するというなら生徒側はこれ以上軍縮会議に協力することは出来ないと通告し、アメリカの出方を窺った。
教頭は副官らしき男としばらく話していたがこちらに向き直り、こう言った。
「私の負けだ。我がアメリカ合衆国は国際社会での孤立を望まない。合衆国は八カ国の提案を大筋では認める。ただしいくつかの修正・留保条件を要求する」
あの教頭が俺達の提案をすんなり飲んだ……?
俺達はお互いに顔を見合わせる。
奴のことだ、無理難題を要求してくるものだと思っていたが、こうもすんなり飲むとは……。
奴は人が変わったのか?
「ありがとうございます。では、その留保条件というのは何でしょうか?」
俺は恐る恐る聞いてみる。
しかし、その後帰ってきた返事は別にそれほど大きな問題があるものではなかった。
一体何をたくらんでいるのだろうか?
単純に国際社会での孤立を恐れたのかもしれないが、奴の性格上孤立なんて恐れそうにないが……。
相手が何か企てているのかどうかはわからないが、俺達はアメリカの要求を受け入れ具体的な話し合いに入っていった。
ただこの後の話し合いは専門職にほとんど任せることとなったが、若干手間取るところもあり、条約が調印されたのは会議が始まってから1ヶ月近く経った後のことである。
さて、それはさておき決まったことの概要を列挙しておく。
主なものは以下の通り。
【戦艦保有数】
米 20隻
日・英 16隻
独・仏 12隻
伊・露・蘇・北ア 8隻
南ア・ブラジル 6隻
※1隻3万5000トンで計算
【戦艦の基準・制限・備考】
1、主砲口径が20.3センチを上回るもの
2、基準排水量3万6000トン以下(ただし例外あり)
3、主砲口径35.6センチ以下(ただし例外あり)
4、航空機搭載5機以下
5、建造中艦艇の建造継続は認める
6、新規建造は10年間禁止
7、艦齢15年以上の艦、もしくは大戦で著しい損害を受けた艦艇の代艦建造は認める
8、廃棄される戦艦の空母への改装は可
9、廃棄される戦艦のうち1隻は武装を減じて練習艦とすることは可
10、その他廃棄される艦は必ず解体もしくは沈没処理で完全に廃棄すること など
【航空母艦保有数】
米・日 6隻
英 4隻
独・仏 2隻
伊・露・蘇・北ア 1隻
南ア・ブラジル 1隻
※1隻3万2000トンで計算
【航空母艦基準・制限】
1、基準排水量3万2000トン以下(戦艦を改装するものは若干上回るのは認める)
2、備砲口径20.3センチ以下
3、条約の対象は基準排水量1万トン以上の艦のみ(ただし例外あり)
4、新規建造は5年以内に完了させること
【重巡洋艦に関する制限・基準】
1、備砲口径12.7センチ以上20.3センチ以下
2、基準排水量2千トン以上1万トン以下
【軽巡洋艦に関する制限・基準】
1、備砲口径12.7センチ以上15.5センチ以下
2、基準排水量2千トン以上8千トン以下
【駆逐艦に関する制限・基準】
1、備砲口径12.7センチ以下
2、基準排水量2000トン以下
3、魚雷発射管8門以下
【潜水艦に関する制限・基準】
1、備砲口径15.5センチ以下
2、基準排水量2千トン以下
【そのほかの艦艇に関する制限・基準】
・基準排水量600トン以上1万トン以下のものについて
1、備砲口径15.5センチ砲4門以下
2、速力24ノット以下
3、魚雷発射管搭載不可
・1万トン以上の艦艇は新規建造禁止
・600トン以下の艦艇は無制限
【例外について】
・日本の航空母艦「宮古」は外洋航行が不可能なため排水量が1万トンを越えるが条約対象外
・現有艦、及び建造中の艦は主砲口径や排水量の規制対象外 など
長々と書いたが、条約の内容はざっとこんな感じである。
少々流して読んでくださっても全然構わない。
定義なんかはそれぞれの国の軍人が出てきて長々と討論してたが、俺なんかは途中で寝てしまっていたぐらいだし。
まぁ、あとから聞けばそんなに史実とは変わらないみたいだし。
これに伴う各国海軍の変遷はまたの機会にご報告することにしよう。
運動会が終わったと思ったら今度は模試、そして模試です。他にも特別講座があったりしてほとんど毎週のように土曜日にも勉強しに学校へ行かないといけない状態です……。昔野球部にいた頃はもちろん土曜日や日曜日にも学校に行きましたが、やっぱり気分が違います。週休二日制はどこにいったんだろう……?