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第60話 ワシントン海軍軍備縮小条約:前編



「陛下。ブラジル連邦共和国の大使、アイルトン・フィッティパルディ様が陛下に会談を求められておりますが……」


夕食を終えて部屋でごろごろしていた俺に副官が厄介な問題を持ち込んできた。


「またか……。例の件なら日本の立場は伝えてある、日本は参加するつもりは全くないと伝えよ」


俺が不機嫌にそういうと副官はすっと部屋から出て行った。

副官が出て行った後、今度は部屋の前で控えていたジョンが入ってきて、


「陛下、ブラジルは我が友好国です。あのように無碍むげに扱われては外交に響きます」


いや、それもそうなんだけどいい加減にしつこくてさ……。

もう何回目だよ?

夏の初めから終わりまでで軽く20回くらいは言ってきている気がする。


「それと私は思うのですが我が国も参加されてはどうですか?ブラジルのみならず多くの国から要請も入っております。それに参加することにメリットもあります」


ジョンがため息交じりに言う。

あいつもいい加減うんざりしているんだろうな。

応対してきたのはほとんどジョンだし。


「日本も軍縮に参加しろと?やなこった。うちの海軍は軍縮してこれ以上削る艦はねえよ。むしろ足りないぐらいだ。太平洋だけでも馬鹿みたいに広いのに、インド洋もあるんだぞ。巡洋艦の建艦も思うように進んでないし」


あの「伊勢」型以降議会は海軍の予算増強に非常に消極的になっている。

選挙で与党が大敗を喫し政権が交代した(もちろん俺の立場は全く変わらないが)ことも一つの原因だが、アメリカとの建艦競争を始めるのではないかという不信感も議員の間では強いようだ。

ただ現状を考えればアメリカはかなりの数の戦艦を持っているし今も造り続けている。

あまり差が開くのは好ましいことではない。


「そうではありますが、アメリカなどと建艦競争になっては困ります。かといってアメリカが戦艦を続々と増やしていくのを座視することは出来ません。軍縮に参加してアメリカがこれ以上戦艦を建造できないように条約で封じるのも……」


別の副官が入ってきてジョンの話をさえぎった。


「陛下。アメリカ大使ジョン・F・ヘルバウンド様が陛下との会談を求められておりますが……」


噂をすればなんとやら。

アメリカもしつこい。

あいつらは夏前から何度も何度も……。

って言うかなんでアメリカが条約をもちかけてくるんだ?

今日本は議会がハト派が並んでることは分かってるだろうに……。

ほっとけば日本とアメリカの間にはすごい差が出来るのにな。


ただ今回のアメリカは第一次大戦でイギリスを助けたわけでもなければイギリスと仲が良い訳でもない。

両方と対峙しようとすれば必然的に莫大な艦艇が必要となり、大国アメリカとは言えどもそれなりに負担になっているようだ。

アメリカ議会も過度な建艦に不信感を募らせつつあるとの情報もあり、造るだけ造った今、日本やイギリスに戦艦を新しく造らせないようにしたいのかもしれない。



「陛下、顔だけでも出されてはいかがですか?内容が日本にとって不利なら会議から抜ければいいのですし……」



結局その後ジョンとの論戦に破れ、ブラジルなどの南アメリカ諸国の強い要請を受け日本はついに軍縮会議への出席を決定した。

南アメリカ諸国も必死なのだ。

アメリカが軍備を増強すれば今南アメリカ諸国に対してかかってる圧力はさらに増す。

コスタリカなどはパナマ運河をアメリカに売却もしくは貸与せよとアメリカから恐喝まがいの要求を受けている。

南ア諸国やヨーロッパ諸国の反発で今のところ売却などは防いでいるが、あそこの国家元首が気の弱い女子だったら屈してたかもしれないな。



1922年9月11日、アメリカ合衆国首都ワシントンD.Cで海軍の軍備縮小に関する会議が始まった。

参加国はアメリカ、日本、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、ロシア、ソ連、北アフリカ、南アフリカ、ブラジルの計11カ国。


この会議は言いだしっぺはアメリカ、最終的に本気で進めたのはブラジルといった形で始まり、それぞれ様々な思惑があってこの会議に参加している。

アメリカはだいぶ財政的に大きな負担になっている戦艦の建造を停止しつつ、この会議をアメリカ主導で行い全世界にアメリカの威信を示そうとしているらしい。

ブラジルはアメリカが軍縮を言い出したのをこれ幸いとし、なんとか圧力を軽減したいようだ。

北アフリカなどは会議自体に参加することで自国も世界の強国の仲間入りをしたことを世界や国民に示そうとする狙いもあってのこと。

この他にそれぞれ各国ただ軍備を削減するだけではなく、なんらかの狙いがあって参加している(当たり前だが)。


史実との相違点は数え切れないが、特徴的なのは史実では歩調を揃えるアメリカとイギリスの仲が今回はあまり良くないことや、全体的に反米の国が多いことだ。

これはひとえにアメリカの国家元首の教頭の人柄によるものである。


生徒からは最悪の評判をとる彼はとにかく嫌やつだ。

厭味ったらしいというか、なんというか…。

いちいち細かいところにうるさいしねちっこいし。

教員の間でもあんまり評判は良くないみたいだな。

ただ教頭という地位にあるため誰も反抗できないのだ。



教頭のくだらない演説で始まった軍縮会議は大波乱の様相を呈した。

原因はアメリカの出した軍縮案だ。

1隻を3万5000トンで計算すると以下のようになる。


米    20隻

日・英  12隻

独・仏  10隻

北ア・蘇 8隻

伊・露  6隻

南ア・ブ 4隻


備考

日本が40.6センチ砲搭載艦4隻を廃棄しなければ、アメリカは同戦艦4隻の新造を認められる、しかしそれ以外の国は口径が35.6センチを超える砲を搭載する艦の保有は認めない。

旧式戦艦を廃棄し、枠が余る場合は戦艦の新造を5年以内なら認める。

廃棄される戦艦のうち2隻は武装を減じて練習艦として保有を認める。

ただし廃棄される戦艦は必ず解体処分でなければならない、など。



なめとんのか?

俺達を素人の集まりと見くびっているのか、それとも奴の方が素人なのか。

いくらなんでもこれは酷い。



「先生、あまりにもアメリカに有利過ぎる条約ではないですか?確かにアメリカは強国ですが、これでは世界のパワー・バランスが崩れます。それに我が大日本帝国は1隻たりとも現有の戦艦を廃棄するつもりはありません。日本は第一次世界大戦後、全世界に先駆け軍縮に取り組んでおります。これ以上削ると広い海洋を防衛することが出来なくなります」


俺が口火を切ると次々に生徒側から次々に非難の声が上がる。


「我がイギリスとしても当然のめるものではありません。保有数はもちろん、イギリスはすでに40.6センチ砲を搭載する『フッド』型戦艦4隻の建造をほぼ終了しております。これを廃棄しろと?国民にどう説明すればいいのですか!あれだけ莫大な金と労働量を使ったものを……」


イギリスの太田が怒りをあらわにする。

あいつが怒るのは部活中ならよくあるが、それ以外で怒ったとこなど見たことがない。


「いくら相手が生徒だからとは言え、これは余りにも傲慢な振る舞い……。我がロシア帝国としてもこのような提案は受け入れることはできません。国家の威信を傷つけることになります。もしアメリカがこの提案を押し通そうとするならロシアはこの会議から抜けさせていただきます」


ロシアの奥田がきっぱりと言い切った。

喋り方とか内容とか真面目なあいつらしいな。

今回軍縮に参加した唯一の女子だが、さすがに物怖じすることもなく堂々とした発言だ。


その後も相次いで反対意見が飛び出し、教頭案に賛成したのは北アフリカ(国家元首はゴマすり教員)のみで、同じく教員が治めるソ連は沈黙を貫いた。

賛成する気はないが表立って反対はしないということらしい。

まあ相手が上司だからこうなのか、ゴタゴタに巻き込まれるつもりはないのかどうかはわからないが。


そんなこんなで軍縮会議初日は何の合意も得られないまま終わった。


 



更新が遅くなり大変申し訳ありません。運動会で応援団に入っていたため、あまりに忙しくなかなか続きを執筆できませんでした。一応備蓄はあったのですが、この軍縮の内容を大幅に変更したためこのように遅くなりました。運動会は昨日終わりましたが、今後も以前のように3日に一回のペースの維持は難しくなると思います。しかし1週間に1回は最低でも更新したいと思っておりますのでどうかよろしくお願いいたします。


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