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第59話 観艦式



1922年3月11日、俺は戦艦「金剛」艦上にいた。

現在「金剛」はイギリス・ポーツマス沖。

前方にはイギリス駆逐艦2隻。

海上に砲声が響き渡る。


当然だがこれは礼砲。

「金剛」はまずイギリスの軍艦旗を掲げて、イギリス国旗に対し21発の礼砲を打つ。

すると今度はイギリス駆逐艦から同数の礼砲が打たれる。

そしてポーツマスには英国家元首がいるためはもう一度21発。

で、イギリス側からも同数だけ打ちかえされる。


5秒に1発の割合で礼砲は打たれる。

なかなか面倒だが、外国の港に入るときは打つ決まりなのでこれを欠かすと外交問題になる恐れすらある。

掲揚に手間取って礼砲の数が足りなくなったりしてもアウト。

そのため大急ぎで旗を掲げ、万が一故障等があってもいいように礼砲も複数用意する。

これは重要な海軍の儀式なのだ。


で、なんでこんなところに俺がいるのか。

それは明日、イギリス国王である太田の誕生日の記念として行なわれる観艦式に参加するためだ。

太田と俺は同じ野球部に入っている。

奴はまさにチームの要で、2年にもかかわらず試合に出ているしポジションはキャッチャー、打順は4番である。

来年はキャプテン間違いなしだ。

若干うらやましくもあるが、あいつは本当に頼りになる。

俺もいろいろ教えてもらったし、チームのことを本当に良く考えている奴だ。


そうそう、俺は外野手だ。

なんとかベンチに食らいついてはいるが、出場機会は代走くらいしかない。


さて、余談が過ぎた(いつものことだが)。

今回この観艦式に参加するのは最新鋭戦艦「金剛」型4隻(とその護衛の駆逐艦8隻)。

「金剛」型は世界に誇る日本海軍最強の戦艦だ。


基準排水量 3万5500トン(公称3万2000トン)

速力    28.0ノット

主砲    40.6センチ連装砲 4基

高角砲   10センチ連装砲  4基

機関砲   40ミリ単装    20基


史実でいう「長門」型にあたる艦である。

砲の製作には多少手間がかかったが何とか成功、搭載できた。

防御も当然対40.6センチ砲防御である。

ところで戦艦なのになぜ山の名前を冠しているのか。

本来の命名基準なら旧国名を冠すべきだが、個人的に史実の「金剛」型が好きな俺が無理やりつけさせたためである。

「金剛」型の名前がないとなんか抜けてる感じがして嫌だし……。


世界に40.6センチ砲を搭載した艦は他にいない。

名実ともに世界最強の戦艦であり、今回観艦式にわざわざ太田が4隻全部連れて来いと指名してきたのである。


ただ、軍縮の動きは当然起こっていた。

特にアメリカが軍縮条約を今年の夏に開こうと呼びかけている。

史実同様40センチ砲搭載艦が引き金となったわけだ。

ただし、なぜ夏なのかというのは自国で建造中の40センチ砲搭載艦の完成を待ってということらしい。

アメリカはかなり早くから40.6センチ砲搭載艦を建造しようとしていたみたいだが、主砲の製造に手間取り日本に遅れを取っているようだ。

これらは少し日本に有利に働くだろう。


史実のような対米6割といった屈辱的条件は絶対に呑まない。

そもそも国力では比肩しうる国になってきているはずだ。

数は同数、性能はアメリカよりもいいものを保有したい。

そのため「金剛」型4隻の次に建造されている(この軍縮を見越して「金剛」級の完成を待たずして建造に入っていた)40.6センチ砲搭載艦の「伊勢」型4隻は軍縮前に全て完成させるべく突貫工事が行われており、現在「伊勢」「日向」はほぼ完成している。

が、「扶桑」「山城」の2隻は擬装中でギリギリ間に合うかどうかといったところ。


ただ本来なら軍縮の会議を早くから始めて日本の「伊勢」型の竣工を防ごうとするだろう。

が、アメリカは特に急ごうとしない。

軍縮で棄てさせるつもりなのか、それともそれを利用して何か自国に有利な条件を引き出そうとするのか……。

あの教頭は一体何を考えているのだろうか?


にしてもついこないだ軍縮、軍縮って言って艦艇の整理をしたばかりなのにそれからもう8隻も戦艦を造っている。

しかも戦艦だけ造るわけにはいかないだろうに……。

巡洋艦や駆逐艦もそれに応じて必要になるはずだが、現在はほとんど建造されていない。

まぁすぐに戦争が起こるわけではないだろうから、ゆっくり造っていけばいいけど。


おっと、話がずれている。

まぁとにかく全世界から注目されている「金剛」に俺は乗っているのだ。

結構いい気分。



「指定された錨場まであと5マイル」


艦が入港に備え慌ただしくなる。

機関科はボイラーの火を落とす準備に入り、砲術科分隊もデッキで活動を始めた。

投錨用意、係船桁と舷梯の出し方用意、デリック(揚艇機)の準備等。

航海科は水深を測る側鉛線の準備をする。


「おも〜か〜じ、速力は原速|(12ノット)に落とせ」


航海長の指示が出る。


「入港用意!」


当直将校の号令とともにラッパが鳴る。

といってもすでに準備は始まってるけどな。

しばらくして操艦は航海長から艦長の手に移る。

距離があと4000メートルというところで速力は半速|(9ノット)に落とされた。

さらにあと3000メートルになると微速になる。


「ふたじゅうふた〜(22メートル)、定質砂」


投鉛手から水深と海底の状況の報告が入る。

その後、航海長が艦長へ助言する。


「艦長、錨位500(メートル)前です。…200前、100前、50前、錨位です!」


「錨入れ!後進減速!」


航海長が錨位と言ったのと同時に艦長が号令する。

デッキでは錨が落とされた。

錨鎖は通常高潮時の水深の3倍プラス90メートルのが出される。


「ふたじゅうふた〜。行きあしとまりました」


この報告で入港は完了した。

なかなかこういうのを見るのも面白いな。

っと、ぼやぼやしてはいられない。

早く上陸しないと太田が待ってる。



上陸すると俺は迎賓館に案内され、そこで太田と会った。


「久しぶりじゃん!元気にしとったか?」


「まあな。お前はどうだ?」


「見ての通りだよ。お前も全く変わってないな」


その後立ったままで軽く1時間ぐらい喋った。

気付いたら時間がやばくてお互いに焦ったが、それでもやはり久しぶり(前に会ったのはハワイの時だから、10年近く会ってないことになるな)に会えてうれしかったのだ。


そして翌日、観艦式は盛大に行なわれた。

参加した艦艇はおよそ160隻。

イギリスは戦艦「ロイヤル・サブリン」を筆頭に120隻と、海軍の大部分の艦が集結した。

まぁ本来なら、「クイーン・エリザベス」あたりが向こうの旗艦になるのだろうが、第1次大戦で「バーラム」1隻を残して戦没してしまっている。

「フッド」級は史実よりも遅れて現在建造中だ。

これも軍縮に間に合わせるべく突貫工事が行なわれているらしい。


外国艦は日本だけでなく、いろんな国の軍艦が集まっていた。

フランスやロシアの戦艦、イタリアや南アフリカの巡洋艦、スウェーデンの駆逐艦、第1次大戦では敵国だったドイツやスペインの巡洋艦もいる。

しかし外国メディアの注目はなんと言っても「金剛」に集まった。

史実の「足柄」同様、獰猛だ、飛び掛ってきそうだ等の感想が飛び交う。

確かに4隻並んだその光景は壮観だった。

(史実の方はただ褒めたわけではなく、害獣である狼にたとえたのはけなしている要素もあるかららしいが……。今回はどうなのだろうか?さすがにこれは人の心まで読めないので分からないが)



「あれは?」


「イギリスの新鋭駆逐艦『スカウト』であります。いわゆるS級の駆逐艦です」


「S級?そんだけすごいのか?」


「いえ、そうではなくて頭文字が全て「S」の駆逐艦ということです。アドミラルティS級とも呼ばれております」


「へぇ〜。さすが物知りだな。やっぱエリートは違うな」


「お褒めの言葉を頂き、身に余る光栄です」


一日中こんな会話が「金剛」艦上で繰り返された。

外国艦艇はほとんど知らない(特にこの時期の軍艦なんてほとんど知らない)ので、俺についている従兵にずっと聞いていたのである。

この従兵はこれあるを予期していたのか、もともと勉強していたのかその質問全てに答えてくれた。

彼は海軍大学校の生徒らしいがその中でもずば抜けて優秀だとかで連れてこられたらしい。

もちろん、ただ艦型を暗記しているわけではないだろう。

もしかしたら未来の連合艦隊司令長官か海軍大臣?

まぁ、まだわかんないけどね。


それはさておき、その日一日中続いた観艦式は大成功に終わる。

夜にはイギリス艦が夜間電飾をし、サーチライトが夜空を照らした。

俺は陸からその光景を眺めていたが、本当にうっとりするような光景である。

今度は日本で派手にやってやろう。



この観艦式で注目を集めた「金剛」型4隻を苦々しく見る国が一つあった。

アメリカである。

両国は後に軍縮で激しく衝突した。






明日から学校です……。宿題が終わらない……(泣。


あと更新は恐らく1週間程途絶えます。短期入寮があったりして忙しいですし、次の話が出来てないんです……。どうか見捨てないでお待ちいただけると幸せです。


今日の名言↓

「後悔、先に立たず」


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