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第58話 経済成長



第1次世界大戦終了後、日本は大きく成長しようとしていた。

インドネシア等領土の拡大やインド・オーストラリア等との自由貿易協定締結により市場が拡大したためである。


この経済成長の中で一番伸びた分野が自動車工業である。

この分野では政府の保護のもと性能の面では欧米車に負けないものができつつあったが、大量生産が出来ずに価格が高かったことから当初は伸び悩んでいたところであった。

しかし、コンベア方式の採用による大量生産が始まり価格は急激にダウン。

経済成長のおかげでだいぶ懐に余裕の出来ていた中流層以上の国民がこれに飛びつき、自家用車を持つようになった。

さらに低価格になっていくといわゆる庶民も自家用車を持ち始め、毎年自動車の生産量は飛躍的に伸びていくことになる。

さらに外国への輸出も開始され、戦争の傷の浅いオーストラリアへの輸出は好調。

人口が史実よりも少し多いことや経済的に割合発展しているためだろう。

敗戦国の中で唯一本土を攻撃されていないとこだし。


日本もオーストラリアも広大な国土を持つため移動・輸送に自動車は欠かせない。

低価格になったことでトラック運送業も本格的に始まり、それまでほとんど走っていなかった車があちこちで見かけるようになった。


これの恩恵を受けたのが建設業とエネルギー業である。

エネルギーは言わなくてもいいだろうが、車を動かすには当然ガソリンが必要だ。

そのガソリンを提供するのが彼らである。

大都市にはガソリンスタンドがどんどん造られていった。


建設業が恩恵を受けたのは道路の整備のためである。

まだ日本の道路のほとんどは舗装も何もされていない、ただの土の道だ。

自動車の普及にともない道路の整備は急務となり、大規模な予算があてられて日本中で整備が始まった。


これにより建築ラッシュも始まっていた建設業界は人手不足が深刻化。

どこの建設業者も手一杯の状態となり、大量の雇用を行なって工事をこなしていく。

これが生み出した雇用は非常に大きく、多くの失業者が職を得ることができ失業率の改善につながった。


そのほかの分野も発展が著しい。

重工業はインドやオーストラリア等への鉄鋼の輸出が好調だし、自動車工業の発展は鉄鋼の需要を急激に拡大させた。


造船業も好調。

多数の輸送船を大戦で沈められたインド・オーストラリアなどからの注文もだが、南アメリカ諸国やアフリカからの軍艦・商船の受注が最も多かった。

これは自国に満足な造船設備を持たないブラジルなどが、軍備拡張の一環として海軍力の整備を始めたためである。

史実ではイギリスに注文していたが、第1次世界大戦で大量の商船を沈められた上に造船業も大きな被害を受けたイギリスは自国の船舶だけで精一杯となり、とても輸出どころではなかった。

そのため日本に注文が回ってきており、軍縮で暇になりつつあった日本の造船業を活発にしたのである。


小売業では女性の進出が著しい。

景気の拡大に伴って国民の消費意欲が大幅に伸び、大都市では次々とデパートが建てられ週末は多くの家族連れなどでごった返した。

その中で接客などを担当するのはほぼ女性。

ファッション業界でも女性デザイナーの活躍が光りだした。


史実の時代的には大正デモクラシー、といったところなんだろうがすでに普通選挙、しかも女性にも認められている、が施行されているためその手の集会等は少ない。

医療制度や年金制度等に関しては現代から考えればかなり不備ばかりといった状態があるが、それが普通と考えている国民達からは特に目立った運動も起きていない。

この好景気のおかげで一人あたりの国民所得も大きく伸びている。

貧富の差が広がるというマイナス面もあるが、政府としても低所得者への減税を実施するなどある程度は格差是正に努めているところだ。


また、農村からの人口流出が始まっているのも大きな課題となっている。

農業は天候によって年収が大きく左右される。

干ばつや洪水、冷害……。

天災は人の力ではどうしようもない。

さらに公害が発生して収穫量が激減した地域も報告されている。


そのため農業よりも都市に出て賃金労働者となったほうがいいとして田舎から出て行く若者や、家の生活のためと出稼ぎにいく親達は後を絶たない。

彼らは安い賃金できつい労働をさせられたり、危険な労働に従事させられている。

労働基準監督局などが監視の目を光らせているが隅々まで行き届かないことが多い。



インドネシアなどの新領土でも各地で積極的な開発が行なわれている。

本土に比べればかなり遅れている経済発展だが、それは仕方がない。

大戦での被害が大きく、復興するだけでも一苦労だったのだ。

今は鉱山開発、港湾・航空基地整備、農業への支援が主である。

一次産業への支援が主だが、企業の中には労働力が本土と比べれば安い東南アジア地域への進出を検討しているところもあり、まだまだ発展していけるだろう。


港湾施設の整備が終わったブルネイなどでは、重工業や石油化学工業の進出が早くも始まっておりその地域に産出する資源などを生かしての発展が始まった。

石油の見つかっている場所では、本土でほとんど石油が採れないので急ピッチで精油所が造られて生産を開始している。

自動車の本格的な普及が始まった本土では石油が不足気味でその確保が急務なのだ。

政府の支援を受けながら石油会社が次々に油田の開発・パイプラインの整備を進めていく。


ただこちらも発展が進んでいるのはほとんどが海に面し、なんらかの資源を産出ところばかりである。

ジャングルの奥までは当たり前だがなかなか手が届かないのだ。

特にボルネオ(カリマンタン)島は広大な面積を持つが、開発されているのは島の周囲だけで、中央部は深いジャングルに覆われ、そこに何があるかすら分かっていない。

探検家がジャングル奥地に入って行方不明になった事件もある。

現在は川に沿って政府の調査団が少しずつ調査を始めたところだ。


そうそう、クラ運河の建設作業は順調に進んでいる。

大戦で大量に余った火薬がここで使われ、毎日のようにあちこちで発破が行なわれていた。

砲兵隊が出て砲撃をして吹き飛ばそうという案も出たぐらいだが、不発弾が出る恐れが高いので見送られている。

ただでさえこうした大工事は殉職者が絶えないのだ。

出来る限り建設作業員を危険にさらしたくはない。


とはいえ、死者はすでに200人を超えている。

岩盤の崩落、滑落、火薬の暴発など建設現場はまさに戦場だ。

実際その手の事件はほぼ毎日起きているようなもので、けが人の数もかなり多い。

建設ラッシュに沸く本土でも様々な工事現場で多くの男達が命を落としている。

過労なども目立たないだけでかなり深刻だ。

この労働者の大変な苦労が経済成長を支えているのである。


ただし政府としては、ただこれを見ているわけにはいかない。

そのため労働災害防止法、労働災害補償法などを出して事故に対する政府や企業からの補償が決められた。

公害など経済成長には裏の面も多い。


政府と企業の癒着に関しては厳しい法律があるため少ない方だとは思うが、やはりこれだけ国も組織も大きくなると端から端まで目が届かない。

先日も企業から賄賂を受け取り、公害をもみ消そうとした地方公共団体の幹部が摘発されたが、あくまで氷山の一角に過ぎないのだ。

こういった企業と政府の癒着が国民に悪影響を与えているのである。


それも含め様々な害から国民を守るのが政府であるが、なかなか上手くいかないなと思う今日この頃である……。





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今回の名言↓

「武者は犬ともいへ、畜生ともいへ、勝事かつことが本にて候事」

―朝倉教景(宗滴)


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