第53話 これからのこと
4月1日午後8時、大日本帝国首都・長安にある皇居では戦争終結を祝ったパーティが開かれていた。
パーティ、といえば聞こえはいいがどちらかというと宴会だ。
陸海軍首脳と政府官僚が集まったのだがなぜか酒飲みがやたらと多く、俺が無礼講だ、と言ったらその後皆大騒ぎとなり、大量に酒を飲み一部は潰れていた。
「陛下、ようやく戦争が終わりましたな。苦しい戦いでしたが我が国はこれに勝利することができました。これはやはり陛下のお力でしょうなぁ」
若干酔って赤くなっている一戸大将が俺に話しかけてきた。
手には一升瓶が握られている。
「いやいや、前線の兵士の奮闘と後方でそれを支えた国民達の力があってこそのものだよ。俺はとくに何もしていないしな。一戸大将も司令部につめて頑張ってくれた。本当にお疲れ様」
俺がそう言うとえらく上機嫌になり、
「わしも老骨に鞭打って戦いに出たかったですがな。しかしなかなかそうもいきませんでした。しかしこの戦いで日本軍の強さはしっかりと見せていただきました。これでようやく安心してあの世へ逝けるというもの」
といって手酌で一升瓶から酒を注ぐ。
おいおい、そういえば一升瓶なんてこのパーティじゃ用意されてなかったろ。
まさかの持込み?
「こらこら、そんなに飲むと本気であの世に行くぞ」
と俺がたしなめるが効き目はなし。
「酒は百薬の長であります。これなしでは生きて行けませんからなぁ。やめるわけにはいかんのです」
と言ってふらふら他のところへ行ってそこでまた飲み始めた。
「陛下、いくらなんでもこれはやりすぎではありませんか?全然戦勝祝賀会といった様子ではなんですけど……」
側にいたクッキーが言う。
「まったく同感だな。天皇の前だからみんな縮こまって全然盛り上がらなかったらまずいと思って無礼講だっていったんだが、まさかここまでなるとはな。いくら無礼講でも天皇の前で潰れるまで飲むか?」
俺はため息が出た。
まぁ、でもいいか。
みんな戦争が終わって本当にうれしそうだし。
「普通はしませんね。陛下のご威厳が足りないのでは?」
さらっと失礼なことを言う。
「悪かったな。まぁ、なめられててもそれだけ身近な存在にいるってことでいいじゃん」
俺がそういうと「ものは言いようですね」と言って笑った。
久しぶりだな、こういうの。
2年半以上も続いた戦争は本当に長かった。
ただ俺たちがこうしている間もまだ兵達は前線に残っている。
銃弾が飛び交うことはなくなったが皆家族を恋しがっていることだろう。
「そういえばまだジョンはニュージーランドか。帰ってきたら結婚するんだってな。まだ早いが先に言っておこう。おめでとう」
そういうと若干顔を赤らめて、
「ありがとうございます。しかしかなり先になるかもしれませんね。まだ戦後処理など忙しいですから……。うっ、ゴホッゴホッ」
突然口を押さえて咳き込んだ。
「おい大丈夫か?」
俺は侍従を呼ぼうとしたが彼女はそれを止めて、
「いえ、大丈夫です。つわりですから」
と言った。
が、周りがうるさかったので良く聞こえず、
「水割り?おいおい、調子悪いのに酒飲むのかよ」
と、言うと彼女は若干ため息をついてもう一度言った。
「違います、『つ・わ・り』です」
へぇ〜、そうなんだ……、ってつわり!?
「もう子供できてんのか!!ってことはできちゃった婚なのか」
そういうと彼女は再び顔を赤らめて、
「声が大きいですよ。でもそういうことになりますね。ですから出来るだけ早く式をあげたいんですけど……」
確かに。
子供が出来てから結婚式ってのはなんともいえないな。
でもさ、もう無理じゃない?
だってジョンがニュージーランドに行ったのは昨年10月。
んで今はもう4月。
ということは短くても妊娠6ヶ月。
妊娠6ヶ月ってもうだいぶ終わりぐらいじゃないか?
「いや、このまま行けば絶対先に生まれちゃうでしょ。予定日いつよ?」
彼女は少し考えた後言った。
「確か今年の12月ごろのはずです」
12月?
ちょっと遅くないですか?
「だいぶ遅いんだな。それ本当にジョンの子か?」
すると彼女はさらに一層顔を赤くして(もう本当に真っ赤)少し怒って言った。
「いくら陛下でも今のは失礼ですよ!ちゃんとジョンの子です。私らもともと犬なんでいろいろ設定が突付かれててこうなっているんですよ。文句があるならこのゲームを仕組んだ方に言ってください」
なんかややこしいな。
このゲーム作ったやつ何かいろいろいい加減じゃないか?
「いろいろ大変なんだな。そうだ、何なら産休に入ってもいいぞ。田舎の方にでも行ってゆっくりしてこいよ」
赤ん坊を腹に抱えたまま働くのは相当きついだろう。
俺は男だから分からないが、世の妊婦さん達は毎日大変なご苦労のはず。
そんな彼女を働かせるのはものすごい悪い気がする。
「私がいなくて陛下は大丈夫なんですか?ジョンも今いませんし、一時的にアシスタントが完全に不在になりますが……」
本当に心配そうに言う。
確かに心配と言えば心配だが、そんなに心配されなくても大丈夫だ。
一応子供じゃないんだし。
「大丈夫、大丈夫。半年や一年くらいなんとかなるって」
俺はそういったが彼女は納得しない。
「いえ、やっぱり心配です。どうしましょう……、あ!アシスタントを増やせばいいじゃないですか!陛下のご家族が動物好きで助かりました。フェレットさん呼んでおきますね」
友達を呼ぶような感覚でさらっと言う。
そしてもう行動に移そうと動き始めた。
「ちょっと待て。当事者は俺なんだが。一人で納得して話を進めるなよ。ってかそう簡単に連れてこれるのか?」
すると振り返って、
「大丈夫ですよ。緊急時にはアシスタントの増員・補充などが認められていますから。出産ってかなりの緊急時ですよね。だから大丈夫です」
そう言ってもうどこかへ歩いていってしまった。
「やっぱりいい加減だ……」
俺はこのゲームを作ったアホと彼女両方を思って呟いた。
それからわずか数日後、マジでアシスタントがやってきた。
しかもなぜか2匹。
うちで飼っているのはメスのフェレット1匹だけなのだが、じゃあもう一匹はどちら様だ?
とりあえず今は2人とも人間の格好をしているが男女一人づつ。
じゃあ女の方がチョコってわけか。
「初めまして。チョコと申します。人間名は太田千代子です。これからよろしくお願いします」
まずはチョコから自己紹介を始めた。
赤目にメガネ、髪後ろでピシッととめている。
結構真面目そうなタイプ。
口数も少なそうだ。
「えっと、ダルビッシュって言います。人間名は……、あれ?何だったっけ……。あぁ、そうだ。大場有だった。あ、よろしくお願いします」
見た目は結構スマートで、頭の切れそうなタイプなんだが……。
こいつ大丈夫か?
「よろしくね。ところでダルビッシュさんはどなた?」
聞いたことがあるようでないような、そんな感じだ。
でもうちで飼ってはない。
「えっと、重光とかいう人の家でお世話になってるフェレットです。チョコ一人では大変だろうということでクッキーさんに連れてこられました」
あぁなるほど!
重光というのは母さんの兄、俺から言えば伯父にあたる人である。
そういえば重光伯父さんはフェレット飼ってたな。
それに確かファイターズの大ファンだったはず。
けどだからってダルビッシュねぇ……。
しかも苗字だろ、ダルビッシュは。
俺ならジェフか、アーロムあたりをつけるけど……って話がずれてるからもうやめとこ。
その後しばらく仕事の話をしてみたが、今までの2人とはやはりかなり違う。
小説での出現頻度は低かったが、クッキーとジョンは年齢は俺よりちょっと上くらいの設定になっていて、キャラ的には俺の兄と姉みたいな感じで結構いろいろフォローしてくれていた。
が、チョコは必要以上に喋らないし、ダルビッシュは必要以上に喋る(いろいろよく分かってないから)。
仕事もチョコはさっさとこなすがダルビッシュは結構手間取る。
こんな正反対の組み合わせで大丈夫なのか若干不安だが、意外なことに二人の仲はいい。
仕事が遅いダッシュをチョコが無言で手伝ったりしてる姿をその後結構見かける。
案外出来てるのかもしれないな。
まぁ、でも二人のおかげでその後の煩雑な戦後処理などは割合スムーズに進んでいった。
戦争は完全に終結しました。しかし、話はこのまま第2次大戦まで進めていこうと思いますのでこれからもよろしくお願いします。
戦後処理・他国の状況については次の話や資料として挟んでいきますので少々お待ちいただけたらと思います。
あと、どうでもいいことですが途中で出てきた二人の外国人の名前はジェフ・ウィリアムス投手、アーロム・バルディリス三塁手で、二人とも阪神タイガースの選手です。私は生粋のH県民であり、本来コイを応援するべきなんですけど小さい頃(野村さんの時代ぐらい)からずっと虎を応援しております。別に家族は何ファンということもなく、なぜかはよく分かっていないです(笑。
今回の名言↓
「いつも対立的な国家よりも、狡猾な国家のほうが恐ろしい主敵である。いつもたてつく国家は、企んでいることに秘密はない。一方、狡猾な国家は本当の狙いを見せず、それは油断のできない『見えざる敵』である」
―マウリス