第49話 インドの大反乱
インドの大反乱――。
別名セポイ(シパーヒー)の乱。
前話でも述べたがムガール帝国の滅ぶ、恐らくインド史上最大級の反乱である。
発端はイギリス東インド会社のインド人傭兵の反乱だった。
その頃イギリスは同社を通じてインドほぼ全土を征服していた。
しかしインド人の宗教慣習を無視したことなどからインド人は反感を強めており、これが原因となって1857年5月にシパーヒー(前述の傭兵ら)による武装蜂起が起こる。
これにインドの商人や農民が参加、反英独立闘争と化していくことになった。
2年の長期に渡って反乱は続くが反乱軍の不統一によりイギリス軍に次第に押され、1859年7月に鎮圧された。
これによりインドはイギリスの直接支配下に置かれ、力は失っていたものの形式上は存在していたムガール帝国が滅亡する……。
というのが我々の歴史におけるインドの大反乱だ。
しかしこちらの世界で起きたのはかなり違う。
きっかけはシンガポールに送り込んでいたインド諜報員が送ってきた情報だった。
「輸送船を含む日本艦隊がシンガポールを出撃、インド洋へ向かっている。目標はどうやらセイロン島のようだ」
これに慌てたインド陸軍はセイロン軍区に警戒を発令し、インド最南端のマドゥライ軍区に対し全部隊をセイロン島に転進させよと命令した。
現在セイロン軍区の兵は4万5000程度。
そこにマドゥライ軍区の12万を送り防御を整えさせようとしたのだが、もともと中央政府に対し不信感を募らせていた同軍区の司令アブダル・シン中将は中央政府の陰謀だと思った。
全部隊を送り込め?
軍区を完全に空にせよということか?
向こうも我々のことを疎んじているのだ、セイロンに送り込んで日本軍に我々を殺させ邪魔者を消そうとしているのだろう、と。
そこまで話が飛躍してくかな……と傍から見れば思うが、疑心暗鬼になっている彼はそう信じる。
そして彼は熱心なヒンドゥー教徒でもあった。
イスラームを信仰する中央政府は彼にとって許せるものではなく、それも理由の一つとなったのである。
そしてその翌日、マドゥライに集結した兵士らを前に彼はこう宣言した。
「中央軍は我々を邪魔者扱いし、このたびセイロンへの進出を命令してきた。これは明らかに我々を死地へと送り込み、厄介者を殺そうとする中央政府の企みである。もはや敵は日本軍ではない、我々の敵は中央政府だ!よって私は栄光あるインド帝国の未来のためにこの悪しき中央政府を倒す。勇敢なるインド兵士の諸君、私に続け!」
この演説、案外効いたようでマドゥライ軍区のほぼ全兵力がこの反乱に参加することになる。
また、シン中将は他の軍区にも協力を呼びかけた。
すると南部4軍区とセイロン軍区がこれに呼応し中央軍と戦うことを決意したのである。
これによりハイデラバート以南は反乱軍が制圧するところとなり、隣接する軍区はこの突如の離反に動揺しはじめた。
一方中央政府としては北と東に日本軍、南に反乱軍を抱える形となってしまいもうどうすればいいか分からなくなった。
パキスタンに援軍を求めたが対日平和条約を締結しているパキスタンは動けず(もっとも、パキスタンは現在アフガニスタンでカザフスタン軍と交戦中で兵を送れる状態ではない)、中央政府の手元にある信頼できる兵力はデリー軍区の10万余のみである。
インドは追いつめられた。
そしてこの事態になってどうすればいいか分からなくなっているのところがもう一つあった。
日本である。
実はセイロン上陸作戦など計画してはおらず、スパイが見たのはバンダアチェ(スマトラ島最北端の町)への通常の輸送船団であり、それもかなり小規模なものだったのだ。
そして何があったのか分からないが突然交戦国であるインドの南部で軍が反乱を起こして内戦を始めているのである。
ある意味日本は蚊帳の外に置かれ、ただ見守るような形になっていた。
この機会に付け込まない手はない、一気に大軍を送り込んでインドを占領してやろう。
そう言う参謀らもいたが戦況はどうなるか分からないし、下手に住民の感情をあおると取り返しのつかないことになる。
特に宗教が絡むこの問題は複雑なのだ。
反乱から一週間ほどして反乱軍から日本に対し要請が入った。
カルカッタ以東のインド領土を割譲するから我々を支援して欲しい、というものである。
この要請は国会・統合作戦本部・巷で非常に激しい論議を巻き起こした。
まず国民の半数はこれに対し積極的に介入せよという意見だった。
政府内でも陸軍参謀らや一部の海・空軍参謀らはこれを主張する。
一応構図としては厳しい支配に耐えかねた反乱軍側が民衆の協力も得て戦っていることになっていたので正義は反乱軍側にある、我々は彼らの味方をすべきだ、というのである。
残り半分と政府官僚の大半を占めるのは静観せよ、というものである。
複雑なインドの国内事情に介入してゴタゴタに巻き込まれるのは真っ平御免だというのだ。
軍部も海軍の大半と陸軍の上級将官はこの意見を支持する。
まだオーストラリアも残っている以上インドとは講和でもして早く戦争を終わらたいのだ。
そして超少数派なのは反乱軍・中央政府両方を倒してインドを完全に占領せよというもの。
二つに戦わせ、双方疲れ切ったところで大軍を送り込んでやればインドを完全に征服することができると彼らは主張した。
しかしこの火事場泥棒を狙った論を支持するものはほとんどいないし、インド全土を占領する労力に見合うだけの見返りがあるかといえばそうでもない。
そのため早々にこの意見は消えた。
さて、残る二つの意見は激しく対立、各地で集会が行われるなど加熱していっている。
俺はこれに歯止めをかけるべく声明を出し、自分の考えを伝えた。
今回の声明で俺は後者の意見を取っている。
これ以上戦争を長引かせるのは得策ではない。
まだまだ国力に余裕はあるが次第に国民生活が苦しくなっているのはだいぶ感じるようになってきた。
ついこないだ来年度予算に目を通したが再び増税が行われることになっていたのである。
戦争に突入してからもう3度目の増税だ。
近頃は物価の上昇、品不足が目立つ。
貧しい家庭はかなり打撃を受けているはずである。
早く戦争を終わらせ、国を安定させなくてはならない。
この声明後、議論は沈静化に向かい政府も対インド講和のため動き始めた。
ここ最近やたらと早く更新してるな、と思われた方いらしゃっるかもしれませんが、それはテスト週間に減るはずのストックが逆に増えたため起こった現象です。それが何を意味するか…、皆さんお分かりですよね?
絶対防衛圏(60点)陥落の報が今日入りました。ライティングという二つに分かれた英語の教科の片方ですが、60どころか50割ってました…。
学生でもしテスト前なのに読まれている方、是非テスト勉強をしましょう。でなければ本土空襲が始まりますよ?もう始まってる方もいるかもしれないですけど…。
今回の名言↓
「天才は1%のひらめきと99%の汗」
―トーマス・エジソン
ちなみにこの名言、本人は「1%のひらめきがなければ99%の努力は無駄である」と言ったらしいですけどね。