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第42話 ビスマルク海海戦



1915年7月4日朝、海戦の火蓋は切られた。


午前7時過ぎ、敵艦隊は日本側の特設水上機母艦「樫原丸」「福原丸」「高原丸」の3隻が搭載する計18機の水上機の索敵網に引っかかった。


「『樫原丸』偵察3号機より報告。我敵艦隊発見せり、艦隊の南西約120キロ。戦力は戦艦2、装甲巡洋艦4、二等巡洋艦3、駆逐艦24。針路は北東、我が艦隊へ向かっている模様」


偵察機からの報告が入ると日本艦隊は速力をあげて敵艦隊へと急ぐ。

敵艦隊も真っ直ぐこちらへ向かっている。

距離はぐんぐん縮まり1時間半後には水平線の向こうに敵艦隊を捉えた。


「敵艦隊視認、距離3万1000メートル!」


「『樫原丸』水偵より報告、敵水雷戦隊展開を開始。我が艦隊を包囲しようとしているようです」


敵艦隊はどうやら水雷戦隊で日本艦隊を挟み、両翼からの雷撃で撃滅しようとの魂胆のようだ。

艦隊司令大村中将は味方艦隊の不利を感じた。

個々の艦艇の性能では明らかに日本艦隊が有利だが艦艇の数を見れば不利は避けられない。

戦艦2対2、装甲巡洋艦0対4、二等巡洋艦2対3、駆逐艦16対24。


戦艦はあまりにも性能が違うし数も同じだから問題にはならないが、装甲巡洋艦以下の艦艇では日本艦隊が劣勢だ。

開戦以来初めて日本艦隊が敵より少ない兵力で敵にぶつかる。

もちろん戦艦の砲撃力は絶対だし、その堅固な防御力は敵の砲弾を跳ね返すだろう。

しかし全てが全てではない。

装甲は全面に張ってあるわけではないし、魚雷を喰らえばそのうち沈む。


しかし逃げるつもりなど毛頭ない。

ラバウルには輸送船団と5万近い陸軍兵達がおり、彼らを何があっても守りとおしてみせないといけないのだ。

それに撤退など大日本帝国海軍の誇りがそれを許さない。

圧倒的に不利というならまだしも今回は少し船の数が少ないというだけだ。

この程度でいちいち逃げ帰っていたのでは世界の笑いものになるだけである。


「『美々津』より信号、水雷戦隊突入許可を求む!」


血気盛んな奴らだ。

中将は苦笑しながらも他に手はなくそれを許可する。

しばらくして駆逐艦達はそれぞれ二等巡洋艦の後について離れて行った。

両翼に展開した敵水雷戦隊へそれぞれ日本側も1個水雷戦隊ずつ向かう。


「よし、戦艦部隊もやるぞ。距離2万5000から砲撃を開始する。前部主砲射撃用意!」


中将がそう言うとすぐさま伝声管から力強い声が返ってきた。


「前部主砲塔射撃用意はすでに出来ています。射撃命令を待ちます」


こいつらもやる気十分だな、頼もしい限りだ。

彼はそう思い不安な気持ちが少しなくなった気がした。

そうだ、俺が弱気になっててどうするんだ。

彼は気合を入れなおし敵艦隊に向き直った。


「射撃開始まであと2000…、1500…、1000…、500…、0!」


「撃てぇ!」


艦長の声とほぼ同時に「安芸」主砲が火を噴いた。

しばらくして後ろを進む「石見」もこれに続く。


「砲弾着弾!敵艦前方に落ちました」


見張り員から報告が入る。

その報告に少し落胆したがすぐに気を取り直す。

まぁ初弾は距離を測ったりして照準を修正する「試し」であるためあたるわけはほとんどなく、いちいち落胆しても仕方はないが少し期待してしまったのである。


「初弾からあたるわけないか……。よし次発装填急げ!」


彼は艦橋から下の砲塔を見る。

砲が少し旋回し、その後上下に砲門が動く。


「1番主砲、射撃用意良し」


「2番主砲、射撃用意良し」


力強い報告が入る。


「撃てぇ!」


再び砲が吠える。

これがこの後ずっと繰り返される。

もちろんこれだけではない。

時間が経つにつれて敵の砲弾が届き始める。

被害報告も出始めた。


「左舷高角砲指揮所被弾、指揮不能!」


「敵先頭艦に砲撃命中!敵艦炎上!」


「二等巡洋艦『美々津』、被雷した模様!左舷に傾斜して炎上中」


次から次へと報告が入る。

艦長もめまぐるしく動く事態に対応していく。


「衛生兵は負傷者の収容急げ!応急班、左舷中央部の火災の消火はまだか?はやく消し止めろ。砲術長、今のは良かった。その調子で頼むぞ!」


「艦長!砲術長より意見具申、後部主砲射撃許可を求む。目標は左舷前方の敵水雷戦隊!」


従兵が叫ぶ。


「許可する。面舵一杯、後部主砲射撃用意!目標は前方敵水雷戦隊先頭艦、射撃時期は砲術長に任せる」


艦長も怒鳴り返す。


「二等巡洋艦『美々津』沈没!」


中将や艦長らが一斉にそっちの方角を見る。

すると「美々津」は艦首を持ち上げ艦尾から沈んでいくところだった。


「後部主砲射撃用意急げ!『美々津』の敵討ちだ」


中将が沈み行く艦を見ながら言う。

しばらくして後部主砲が咆哮した。


「敵先頭艦に命中!爆沈!」


艦橋で歓声が上がる。

命中したのは敵水雷戦隊旗艦だろう。

せいぜい二等巡洋艦、35.6センチ砲弾に耐えれるはずがない。

にしてもこれは後部主砲からすれば初弾、よく当たったものである。


「味方水雷戦隊、魚雷発射!」


浮き足だったのを見て取った水雷戦隊はここぞと雷撃、その魚雷はさらに数隻の敵艦を撃沈しすっかり士気の下がった敵部隊は撤退を開始した。

旗艦の「美々津」をやられていたためなかなか統一的な雷撃は難しかっただろうが、2番艦の艦長が上手く指揮をしたようだ。


しかし未だに敵の本隊は踏みとどまっている。

旗艦は炎上していてすでに沈黙しているが2番艦はまだ健在のようだ。

一方装甲巡洋艦は4隻中2隻は海底に逝った。

これは「石見」は戦艦ではなく装甲巡洋艦を狙っていたためで、その砲撃を喰らった敵艦は当たり所次第では一発で沈んだ。


「右舷前方の敵水雷戦隊、変針。戦線離脱を図る模様です!」


さきほどとは逆側で戦っていた敵水雷戦隊は日本側の見事な雷撃により旗艦以下5隻を失っており、もう一方の水雷戦隊が逃げ出したことで戦意を完全に喪失、敗走を開始した。


「味方水雷戦隊へ信号!追撃はせず、敵本隊へ雷撃を敢行せよ」


大村中将は今こそ敵を殲滅するときだと思った。

大型艦を1隻でも討ち漏らすと後がややこしくなる。

それにもうこうやって外洋で撃ちあうこともなくなるだろう。

今を除いて沈める機会はない。


「艦長!我々も敵艦へ向け突撃だ。だいぶ距離は近づいているが至近距離でとどめをさしてやろう」


「安芸」はにわかに速力を上げ敵艦へと向かう。

もはや距離は1万5000程度。

かなりの至近距離で敵の砲弾も味方の砲弾もお互いに良くあたっている。

近づけば被害も受けるが敵は満身創痍、それに士気もすっかり落ちているはず。

とにかく逃がさないことが大切だと彼は判断したのだ。


それからしばらく後のこと、「石見」の放った砲弾が敵装甲巡洋艦の1隻に命中、爆沈させる。

これで完璧に戦意を打ち砕かれたオーストラリア艦隊は戦線離脱を試みる。

しかし速力が圧倒的に違うため逃れることは出来ない。

そうしたら取れる行動は一つしかなかった。


「敵艦マストに白旗を確認!さらに敵艦から信号、我降伏す、砲撃を中止されたし」


見張り兵が少しうれしそうな声で報告した。


「よし、撃ち方やめ。敵艦に信号、戦闘配備を解き艦を停止せよ。全員まだ気を抜くなよ、最後まで何があるか分からんからな。艦長、敵艦を受け取りに行くから護衛の兵を何人か出してくれるか?」


大村中将は自ら敵艦へ乗り込み、降伏に関する手続きを行った。

手続きは順調に行われ目立った混乱もなく、降伏した3隻(旧式戦艦2、装甲巡洋艦1)のうちすでに浮かぶ廃墟となっていた「クインズランド」(旧「ヴァージニア」)は雷撃により処分されることになる。

その際には各艦の甲板に水兵達が整列、艦が沈没するまで見送った。

そしてその際、大村中将の命令でオーストラリア国歌が演奏される。

軍楽隊は正直ほとんど吹いたこともない曲で焦ったがなんとか演奏、沈み逝く「クインズランド」を送った。

残りの2隻は午後に到着した護衛駆逐艦4隻に付き添われてひとまずトラック諸島へと向かった。


結局この海戦では日本軍は二等巡洋艦1隻と駆逐艦3隻を撃沈されたが、代わりに敵艦隊の大型艦を全滅させることに成功。

日本艦隊から逃げ延びた艦艇も潜水艦に襲われ二等巡洋艦を全て撃沈され駆逐艦もさらに4隻を失った。

結局この戦いは日本側の大勝利で幕が下りる。


この戦いを日本はビスマルク海海戦、オーストラリアはニューブリテン沖の悲劇と呼ぶ。





恐らく初めて1話で3000文字を超えました。少し詳細な戦闘描写を頑張ろうと思いましたがなかなか難しいです。これからしっかり頑張ろうと思います。


今回の名言↓

「どんな状況であっても、揺るぎない一人の権威が公共のために必要である。一瞬の協議が好機を逃し、小さな失敗が血の償いを求めることは常識である」

ールイ14世


それとカルカッタ沖海戦のところで旗艦の名前が「白根」になったり「箱根」になったりしてましたが正しいのは「白根」です。失礼しました。

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