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第40話 カルカッタ沖海戦:後編



「敵艦隊発見!距離、3万5000メートル」


見張り員の声が伝声管を震わせる。

吉松大将はふんと鼻で笑って、


「雑魚共が……。1隻残らず海に沈めてくれるわ。総員戦闘配備だ。水上機部隊には出撃命令を出せ。少しでも敵の邪魔をして来い」


と言って双眼鏡で敵艦隊を見た。

そこには煙をたなびかせながらこちらへと向かってくる敵艦隊がいた。



10分後、水上機部隊が全機発進し敵部隊攻撃に向かう。

もう距離がほとんどないので敵艦上空までさほど時間はかからない。

すぐに上空へと到達すると二手に分かれて攻撃を開始した。


まず一隊が敵旗艦へ向け爆撃を行う。

敵の指揮系統を混乱させるためである。

もちろん急降下爆撃などできないので水平爆撃。

真上へ到着した機から次々と爆弾を投下した。


たくさんの水柱が立ち、爆発音が響く。

20機ほどの水上機がよってたかって攻撃すればさすがに1発くらいは当たる。

命中弾は5発。

艦中央部に3発、後部に2発で後部主砲が使用不能となり副砲も何基か粉砕されたが、艦橋はノーダメージで別に艦隊指揮に差し支えがでることはなかった。


一方もう一隊は艦隊外郭にいた敵駆逐艦へ攻撃を行った。

なぜ駆逐艦かというとどうせ巡洋艦を狙ったところで水上機の搭載可能な爆弾では沈めることは出来ない。

ならばなんとか沈めることのできる駆逐艦を狙おう、駆逐艦が艦隊に向かってこられるのも厄介だし……ということである。


結局この攻撃で3隻が沈没、4隻が大破してうち2隻は洋上に停止してしまった。

要するに片方の水雷戦隊は壊滅したことになる。

何隻かは残っているが彼らも溺者救助で動けなくなるだろう。



「敵艦隊との距離、2万1000メートル!敵先頭艦射程内に入りました!」


見張り員の声が響いた。

しかし、吉松大将は一向に攻撃を命令しない。


「敵艦斉射!」


再び見張り員が声を張り上げる。

次の瞬間敵の砲弾が「白根」の前の方で大きな水柱をあげた。


「大将、射程内です。砲撃命令を」


艦長がしびれを切らした。

しかし、大将はうんといわない。


「まだ待て、しっかりと引き寄せるんだ。どうせこの距離だ、敵の砲弾は当たりはしない」


まぁ確かにこれだけ遠距離なら撃ってもなかなかあたらないだろうが、敵をなめてかかっているのは問題である。

そしてその後もしばらく撃たれ続け、距離1万4000でようやく射撃を開始した。

さすがに初弾は命中しなかったが少しずつ至近弾を得始める。

しかし着実に味方も撃たれていた。


「敵2番艦沈黙、3番艦も被弾して炎上中!」


「『飯豊いいで』より信号!我被弾、損害軽微にあらず離脱許可を求む」


「『新見』より信号!我が戦隊戦力十分、命令一下突撃せん」


戦闘開始から2時間、各艦からの悲鳴や見張り員の報告が飛び交う。

「飯豊」は「白根」型装甲巡洋艦2番艦で、「白根」のすぐ後ろを走っているため敵の攻撃が激しく、先ほどからかなりの命中弾を浴びて黒煙を吹き上げており、艦隊からも若干遅れていた。

「新見」は水雷戦隊旗艦の二等巡洋艦である。


「『飯豊』に信号、離脱を許可する。ただちに離脱せよ。『新見』にはまだ待てと送っておけ!」


吉松大将が怒鳴る。

予想以上に多い損害と予想以上にあたらない味方の攻撃両方にいらだっているのだ。

「白根」もかなり撃たれている。

すでに10発以上の大小の砲弾を受けており死者も出ている。

艦長も必死に右へ左へと敵の砲弾を交わす。

しかし再び艦を大きな衝撃が襲う。


「被害報告!」


まだ揺れが収まらないうちに艦長が怒鳴る。


「1番主砲被弾!振動で旋回不能、射撃できません!しかし火災の発生はありません!」


「艦中央部にも命中弾、右舷機銃座3基喪失!」


「2番高角砲大破、射撃不能!」


「右舷中部兵員室損壊!火災発生!」


あちこちで怒号と悲鳴がこだまする。


「取り舵一杯!消火班は艦中央部の火災消火急げ!救護班も負傷者搬送に行くんだ。2・3番主砲は発射用意!」


艦長もすさまじい砲声の中でも聞こえるよう声を張り上げ、矢継ぎ早に指示を出す。

しばらくして力強い声が返ってきた。


「主砲射撃用意良し!」


ぇ!」


生き残っている前部主砲2基4門が咆哮する。

今までなかなかあたらずイライラしていた砲員の気合がこもっていたのだろう、4発の砲弾は寸分違わず敵旗艦に命中、艦橋を吹き飛ばした。

もちろん敵司令は戦死、指揮官を失った敵艦隊はもはや艦隊ではなくなり逃走を図るものも出始めてしまう。

これに対し日本艦隊は事前に待機させていた水雷戦隊を突撃させるとともに巡洋艦部隊も追撃を開始した。



「敵巡洋艦2隻、こちらに向かってきます!」


見張り員からの報告に吉松大将はその方角を望遠鏡で見る。


「刺し違える気か……、あの2隻をまず叩け。これ以上損害は出すわけにはいかない」


すでに日本艦隊は装甲巡洋艦3隻が大破して戦線を離脱している。

他の艦も大なり小なり損害を受けていてこの「白根」も50人を超える戦死者が出ていた。

しかし集中砲火を浴びてこれだけで済んでいるのは奇跡に近く、それは艦長の繰艦技術があってはこそのものだ。


敵巡洋艦に日本艦隊は集中砲火を浴びせて沈黙させる。

「白根」はとどめを刺そうと近寄った。

その瞬間敵艦は魚雷を発射、魚雷は「白根」へと迫る。


「面舵一杯、機関最大戦速!」


迫る魚雷に対し「白根」は身をよじるようにしてこれを避ける。

数分後、魚雷は艦の真横を通り過ぎていった。

そして避けると同時に砲撃を再開し2隻は洋上に停止、1時間ほど後に沈没する。


結局この海戦の結果は以下の通りとなった。


日本

沈没  駆逐艦 2

大破  装甲巡洋艦 4 二等巡洋艦 1

中破  装甲巡洋艦 2 二等巡洋艦 1 駆逐艦 2


そのほか小さな損傷はほとんどの艦艇が受け、航空機も5機の損失。

この戦いで行動可能な装甲巡洋艦は数隻のみになってしまった。

ただ沈没艦が駆逐艦2隻だけだったのは救いである。


連合艦隊

沈没  装甲巡洋艦 3 二等巡洋艦 4 駆逐艦 11

大破  装甲巡洋艦 1 二等巡洋艦 1 駆逐艦 2

中破  装甲巡洋艦 1 駆逐艦 2


この戦いでインド洋には行動可能な大型艦はいなくなった。

結果インド洋の制海権は日本に移り、連合側の残存艦艇はムンバイまで後退せざるを得なくなる。


またこの頃、太平洋方面でも戦いが起きていた。





このごろ様々な方からアドバイスを頂き、本当にありがたく思っています。自分のような未熟者だけでは到底作品を作り上げることなど不可能なので、読者の皆様のお力をお借りしたいと思っています。お気付きになられたことやこうしたらいいというアドバイスがありましたら是非ご指導をお願いします。


今回の名言↓

「どんな事業でも、実行の機が熟すまで秘匿できなかったものは成功しない」

ーマキァヴェリ (イタリア・フィレンツェの政治思想家)

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