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第39話 カルカッタ沖海戦:前編



1915年7月3日、第3艦隊は作戦通りカルカッタ沖合い約100キロへ進出し、攻撃隊の発進用意を始めていた。

「鳳翔」艦上でも航空機が所狭しと並べられエンジンを回し始めている。

パイロット達は皆うきうきしていた。

航空機は新型のものが配備されているし久しぶりの対艦攻撃である。

腕が鳴るぞとばかりに発艦命令を待っていた。


しばらくして信号旗が振られる。

待ってましたと前の機から次々に空へ舞い上がっていく。

新鋭機である十五式戦闘機、十五式艦上攻撃機が艦を離れ上空で編隊を作る。

今回は艦爆を全ておろし艦攻のみが搭載されていた。

本当ならどっちも積みたいのだが搭載機数が二隻足しても常用機は70機強しかないのだ。

どっちかに絞ったほうがいいだろうということで今回は戦闘機を40機、艦攻を30機積んだのだった。


第1次攻撃隊は空母2隻の航空機全力を使って行われる。

水上機の部隊は敵機による攻撃を受けた場合鈍いので、先に艦上機の部隊でそれを潰してしまおうというのだ。

そのため艦攻30機のうち10機ほどには陸用爆弾が搭載されていて、カルカッタ航空基地の滑走路を攻撃する予定となっている。


編隊を組んだ航空隊は一路北上、インドネシア艦隊とインド艦隊がねぐらにしているカルカッタを目指し雲の上を飛ぶ。

今日はどうやら雲が多いし、その高度も少し低いらしい。

編隊は雲の中に入らないように気をつけながら飛行を続けた。


しかしその途中、彼らは思いもよらぬ光景を目にすることになる。

艦隊を離れて50キロもいったかなというところである戦闘機パイロットがたまたま雲の切れ目から海面を見た際のことだった。

なんとそこには艦隊が真下にいたのだ。

彼は隊長機に無線で報告を入れると雲の下へ降り確認する。


「おいおい、敵さん全部ここにいるぜ……」


彼は攻撃すべきインド艦隊とインドネシア艦隊が全てここにいることを確認した。

装甲巡洋艦5、二等巡洋艦4、駆逐艦18。

敵艦隊は4本の縦陣を作って南下していた。

中央に装甲巡洋艦と二等巡洋艦が列を作りそれに平行して左右に駆逐艦が1列ずつ。

旗艦と思われる敵艦の横には駆逐艦がそれぞれ1隻ずつ付き添っている。

恐らく通報艦の役目をしているものだろう。


「こちらカルカッタ攻撃隊、敵艦隊発見。その数大型巡洋艦5、巡洋艦4、駆逐艦約20なり。目標の艦隊と思われる。カルカッタ港攻撃を中止し敵艦隊に攻撃を行う」


攻撃隊は無電で報告すると攻撃を始める。

もちろん狙いは一番大きな装甲巡洋艦、でかい図体の腹めがけて魚雷を投下した。

雷撃隊は一機の落伍もなく全機が投弾に成功、およそ20本の魚雷が敵艦めがけてすすむ。

必死に逃げようとする敵艦、しかし魚雷から逃げるにはあまりにもその身体は大きすぎた。

やった、轟沈だ、パイロット達はそう確信したが……。


ドオォォォン!


大爆発が響き渡り海や空を震わせる。

しかしそれは狙った敵艦のものではなかった。

それは敵旗艦の側にいた駆逐艦のうちの1隻のものだった。

もはや旗艦はよけ切れない、そう思った瞬間に速力を上げ魚雷と旗艦の間に割って入り、爆沈したのだ。

その勇敢な駆逐艦に命中した魚雷はなんと8本。

1000トンにも満たないその駆逐艦は魚雷の水柱が崩れ落ちたときにはもう影も形もなかった。


パイロット達は一時攻撃をやめその駆逐艦に対し追悼の意味も含めて敬礼した。

敵とはいえその勇敢な行動に胸を打たれたのだ。

そして数分後まだ投弾していない爆装の艦攻が今度こそと敵旗艦を狙う。

陸用爆弾とは言え当時最大の250キログラムの爆弾を搭載している。

当たればただでは済まない。

艦攻隊は爆撃航程を開始、水平爆撃に入る。

そして距離100メートルを切った時爆弾を次々に投下した。


海面にすさまじい水柱が林立し、一時敵艦は視界から消える。

しかし水柱が崩れた後、敵艦は無傷でその姿を再び現す。

命中ゼロ。

しかもそればかりか対空砲火はほとんどないにも関わらず、不幸な艦攻一機が対空砲火の直撃を受け撃墜されてしまう。

結局この攻撃では駆逐艦1隻を撃沈して敵艦隊の士気を高めただけで終わってしまった。


その頃艦隊では……。


「第3艦隊は早く後方に下がれ!敵艦隊は目と鼻の先まで来ている。このままだとまずいぞ」


装甲巡洋艦「白根」で艦隊司令吉松茂太郎大将はいらだっていた。

敵艦隊が出てくるとことはある程度予想していたが偵察機を常に飛ばしていたし、こんなに近くにいるとは思わなかったのだ。

第一つい2時間ほど前に航空隊の出撃に先立ち水偵を飛ばしている。

一体そいつらは何をしに飛んでいたのだ?

(ただし彼はカルカッタ港偵察を命じていなかった。そういう面で言うと重要な偵察目標を偵察させなかった彼の責任も大きいが)


「第1次攻撃隊より報告です。我駆逐艦1隻を撃沈せり、です」


さらに彼の神経を逆なでする報告が入った。


「たかが駆逐艦1隻撃沈したくらいで報告してこんでいいわ!ったく、巡洋艦の1隻や2隻は沈めるもんだと思っていたが……」


彼は悪態をつく。

どちらかというと大鑑巨砲主義の彼は航空隊の連中があまり好きではない。

そのためさきほど参謀から弾着観測のため水偵を出したほうがいいのではないか、という意見具申があったときも即却下した。

まぁ確かに巡洋艦ぐらいの撃ちあいで弾着観測機は不要かもしれないが。


「艦長!最大戦速に上げて第3艦隊の前に出てくれ。あれを抱えてたんじゃ戦闘が出来ん」



1時間後、第2艦隊は3本の縦列を形成して第3艦隊前方に展開を完了した。

艦隊前方の水平線にはすでに敵艦隊のマストのようなものが見えている。


「装甲巡洋艦部隊は『白根』について来い。水雷戦隊は事前の通達どおり。第3艦隊には航空隊の発進を急がせろ。敵艦を沈めなくてもいたぶるくらいはできるだろ。我々の邪魔にならん程度に働けといっとけ」


彼は水平線を睨みつける。

来るなら来い、俺はこの手で叩き潰してやる、彼は心の中でつぶやいた。



注)「白根」とは軍備緊急増強計画の第2期計画で建造された装甲巡洋艦4隻のうちの1隻。「白根」型装甲巡洋艦のネームシップである。主砲は前級の「箱根」型と同じく20.3センチ連装砲5基10門。新型の10センチ連装高角砲を搭載しているのが特徴。最大速力も32.5ノットと高速である。




吉松茂太郎大将は実在しますがキャラ・能力ともに全く違うと思います。あまり架空の人物を出さない方が良いと思って名前だけ拝借しました。


今回の名言↓

「戦争は敵対する両軍の激突である。強者は弱者を撃破するだけでなく、その『戦勢』が弱者を押し流す」

ークラウゼヴィッツ

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