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第38話 反省会



「さて、今回諸君に集まってもらったのは今回のレンガット戦での敗北について話し合い、今後の作戦に生かしていくためだ。なぜ敗北したのか、どうすればこれから勝てるのか、諸君らの忌憚きたんのない意見を聞かせてもらいたい。ではまずは報告を」


俺も正直今回の作戦の失敗には驚き、そしてなぜこんなことになってしまったか不思議に思っていた。

毒ガスをばら撒いてきたという話も聞いたが詳しい報告はまだ聞いていない。


「はっ、簡単に報告しますと今月の5月21日にまず第2軍が上陸、島の反対側にあるパダンを目指し行軍を開始しました。翌日、続いて上陸した第4軍がレンガットへ向かい1週間後同地を占領しました。そこで第4軍は第2軍のパダン攻略を待ち、その後南下する予定でしたが6月12日に敵軍の攻撃を受けました。その際敵軍の使用した毒ガス攻撃により前線の兵士の多くが戦死し、さらに追撃を受け大きな損害を受けてシンガポールへと引き揚げました」


参謀の一人がおおまかな説明を入れる。

そしてその後戦闘の詳細に対する報告が入った。

報告の後、まず一番最初に口を開いたのは一戸大将だった。


「使われた毒ガスは何か分かっているのかね?」


一戸大将が問うと参謀の一人が立ち上がりそれに対し説明を入れる。


「はっ。兵士の症状などから塩素ガスによる攻撃の可能性が高いと思われます。砲弾に入れられていたのではないかということです」


塩素は原子番号17、いわゆるハロゲン元素の一種である。

常温・常圧では黄緑色の気体で、特有の臭いを持ち毒性と腐食性がある物質だ。

現代では洗剤や水道水の消毒剤としておなじみのものではあるが、非常に危険な物質なのである。

「混ぜるな危険」は本当なのだ。


で、塩素を吸ったらどうなるのか?

まずある一定以上の濃度の中にいるとそれだけで皮膚の粘膜を刺激する。

特に目は危ない。

吸ってしまえば呼吸器系に障害を与え、咳や嘔吐を催し重大な場合には死に至る。

今回は大量に、しかも液体の状態で砲弾にいれられて飛び散らせたらしくそのため多くの兵が命を落とした。


史実でも人類初の化学兵器として使用された塩素だが、この世界でもちゃんと登場してしまったわけである。

日本では毒ガスの研究などしていない。

民間人を巻き込む大量破壊兵器の研究など俺が絶対に認めないからだ。

しかしその対策としてガスマスクの開発をさせてなかったのは俺の失策である。

開発・製造して前線の兵士にいきわたるまで前進を中止しなくてはならなくなってしまったのだ。

長ければ一年くらい足踏みをしてしまうかもしれない……。


「とりあえずガスマスクが早急に必要だ。技術開発庁は全力を挙げて開発に取り組んでくれ」


俺は後ろのほうにいた技術開発庁の研究員に言った。

しかしそれに対する反応は薄く、それに彼の動作がなんとなく変だ。

挙動不審というか妙にオロオロしている。

どうしたんだ?と聞いてもあいまいな返事を言うだけ。

他の陸軍のメンバーもなんとなく怪しい。


「おい、一体どうしたんだ?」


しかし返答はなく、俺はある確信を抱く。

この話の流れからすればこうだ。


「お前ら、毒ガスの研究を続けていたんだな」


一時期大戦前に陸軍の間で毒ガスの研究をしようと言う声が様々なところで聞こえてくる時があった。

毒ガスは少ない代価で大きな戦果を得ることができる。

ガスマスクさえつけていれば味方兵士に損害はほとんど与えないが敵兵士を皆殺しにだってできるのだ。

確かに便利な兵器だが俺は民間人を巻き添えに殺してしまうことや、その殺し方があまりにも惨いことからそれに反対し研究を中止させた。

しかし、俺の知らないところで研究は続けられていたのだ。


「どうなんだ?黙っていては分からない。どこまで研究は進んでいるんだ?」


問い詰めていくうちに研究者達はもはや言い逃れは出来ないと思ったのだろう、全てを話した。

やはりかなり前から極秘に進められていたらしくすでに10種類以上の毒ガスが研究されておりうち3種類はすでに実用可能の域に達しているという。

開発されたものの一部にはそれに対する解毒剤・防毒マスクなどもあるらしい。


「なるほどな。で、陸軍で関与していたのは誰だ?技術開発庁が単独でやるはずはないよな。正直に言えば処分も軽くしてやろう。今隠して後からばれたら命令違反で軍法会議行きだ。銃殺刑も考えるぞ」


この俺の脅しは効いたらしい。

ぞろぞろと出てきた。

この会議参加者だけでも10人近くいる。

その後の調査で若手の参謀を中心に50人ほどもいたことが分かり、それぞれ減給や謹慎などの処分が下された。



さて、それはさておき今回の作戦会議で陸軍部隊の前進は停止されたが海軍による敵艦隊掃討作戦が行われることになった。

もちろん豪本土にいるオーストラリア艦隊を攻撃するのはさすがに見送られたがインドに逃げ込んでいるインドネシア艦隊とインド艦隊は十分攻撃できる。

そこで第2・3艦隊による攻撃が行われることになった。


これに平行して第1艦隊から「安芸」型戦艦2隻を出してニューブリテン島攻略作戦も行われる。

オーストラリア艦隊が太平洋へ抜けるのを警戒してのことだ。

別にそこを占領したからといって全てが見張れるようになるわけではないが脅しにはなるだろう。

それにオーストラリア国民には日本軍に包囲されたという心理的打撃を与えることにもなるし。


こうして海軍による太平洋・インド洋両面作戦が始まった。





ご意見ご感想お待ちしてます!


今回の名言↓

「勝敗は兵家の常である。激戦にせり負けた将軍は不運であるが、敵から奇襲されたり、敵の罠にはまったりした将軍は弁解の余地はない」

ーレナタス

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