第3話 御前会議
御前会議は皇居内のある部屋で行われた。
俺がその部屋に入るともうすでに他の閣僚達は部屋に入っており、直立不動で俺が席に着くのを待つ。
俺は席に着くとどうぞ、と座るように促す。
そして全員が着席するとまずは首相である伊藤が挨拶を始めた。
「陛下、ご即位まことにおめでとうございます。我々閣僚達が全国民を代表いたしましてご即位のお祝いを申し上げます」
まずい。
このままだと長ったらしい祝詞が始まってしまう。
俺は伊藤の挨拶をさえぎって本題に進もうとした。
「うむ。挨拶はもうそれぐらいでよいぞ。それより私はこのたび天皇の地位に就いたわけだが、諸君らの今までの政治についていろいろ疑問に思っているところがある。それについて答えてほしい」
すると閣僚達は驚いてお互いに顔を見合わせたりしたが俺は気にせず話し始めた。
「まず一つ目、今の国民は毎日本当に辛い生活を送っているらしいな。一日一日を生きるので精一杯、というもの達ばかりだというではないか。にもかかわらず諸君は私腹を肥やすのに一生懸命、または軍備の増強ばかり考えている。なぜだ?」
先ほどより大きな動揺が起きたのが見て取れた。
「陛下、我々は私腹を肥やしてなどおりませぬ。我々は日々国政に励み、国民がより幸せに暮らせるよう努めております。また、軍備の増強も周辺国の脅威から国民を守るためだけでございます」
伊藤博文が弁解する。
しかし、そんなことで納得は出来ない。
「嘘をつくな。そんな言い訳で納得できるわけ無いだろう。何が国政に励みだ。貴様らの中には企業とつるんで国民が苦しむのを見て見ぬふりをしてる奴が何人もいる!それと今周辺国の脅威から守るために軍隊を増やしていると言ったな。どこに脅威があるのだ。佐上|(ジョンの人間名)副官、資料を配れ」
それまで少しでも天皇っぽい喋り方をしようとしていたがつい元の言葉に戻ってしまった。
で、今言った資料と言うのは周辺国の軍備を表にしたものだ。
ジョンに頼んで作ってもらったそれには周辺国の艦艇・陸軍部隊の詳細な数が書かれていた。
これを見る限りこの日本の周辺には今のところ脅威になりそうな国などない。
極東ソビエト帝国(ロシアのうち東経105度より東側を領土に持つ国)がそこそこの陸軍を持っているが兵数は日本の半分ちょっと。
海軍ははっきり言ってこのあたりでは無敵である。
そもそも戦艦を持ってる国が日本だけなのだ。
一番近い戦艦保有国は太平洋の向こう側にあるアメリカという状態である。
「よく読め!どの国が脅威になるか言ってみろ」
伊藤は蒼白になってこっちを見ている。
「俺は軍備は必要だし、この国を世界最強にしたいという気持ちも分からんでもない。けどな、物事には順番ってものがあるだろうが。国民を守るべき軍隊が国民を苦しめてどうするんだ」
と言うとそれまで腕を組んで考え込んでいた西郷従道が急に喋りだした。
「もっともでございます。自分は陛下のご意見をお聞きして自分を深く反省いたしました。自分は何のために倒幕のため奔走していたのかを忘れておったようです。皆が幸せに住める国を造ろう、そう思うてたくさんの志士が命がけで戦い、散っていったのでありますが今の自分は昔の幕府と同じことをしとりました。ほんに恥ずかしかことでございます。仰せの海軍軍備についてはすべて自分の責任であります。いかような処分でもお受けいたします」
鹿児島訛りでそう言って立ち上がり深々と頭を下げた。
さすが西郷の弟だ。
俺は感心した。
普段は茫洋としていて木偶の棒のように思われていることもあるが実際はかなり頭の切れる男で部下思い。
そういう人物評を聞いたことがあるが本当にそうだ。
彼にはまだやめられるわけにはいかない。
「いや、西郷さんにはまだやってもらわねばならない。海軍の大掃除をやってもらうからそのつもりでいてほしい」
そういうと涙を流して「はっ!」と返事をして頭を下げた。
「さて、今後の軍備の方針だが……」
その後5時間にも及んだ会議でさまざまなことが決まった。
それらは実行に移されてから説明していくことにする。
さて、実際に国は動き始めた。
国民はこれをどう受け止めるのだろうか。
第一政府の中でも反対が根強いだろうし上手くいくかわからない。
しかし間違ったことはしてないと俺は信じている。
そしてそれから1ヵ月後にまず実行に移されたのが「軍縮」である。
今自分の頭の中では第一次世界大戦を飛ばして太平洋戦争をどう戦おうかなと考えたりしていますが、なかなか上手くいきません。昨日も考えていたのですが頭の中で戦わせてみたらハワイ沖で日本の機動部隊はほぼ全滅しました……。