表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/71

第37話 毒の霧



1915年5月21日、連合軍艦隊が追い払われ、インドネシア近海の制海権を握った日本軍は悠々とスマトラ島中部への上陸作戦を開始した。

投入された部隊は第2・4軍で、スマトラ中部を一気に縦断、敵部隊を二分させる作戦である。

対するインドネシア軍はせいぜい10万名程度と見られており、今回は一方的に叩き潰して終わりだと誰もが思った。


兵力は十分、シンガポールにはまだ後詰として待機中の第1軍がいるし火力も圧倒している。

航空支援も受けれるし補給にも不安はほとんどない。

さらに兵士は戦争開始から各地を転戦してきた歴戦の兵士ばかりだ。

もちろん補充兵も混じってはいるが彼らの多くもマレー半島での戦いは経験している。

ジャングルの行軍でも問題はない。

負けるはずがなかった。


作戦は順調だった。

第2軍がまず上陸し島の反対側にあるパダン目指して進軍を開始、第4軍も続いて上陸し少し南下したあたりにあるレンガットという町を攻略する。

それまでの間インドネシア軍との戦闘は全くなかった。

恐くなってて逃げたんだろう、そういう楽観的な観測をする参謀もいたが多くの参謀は首をかしげる。

全く攻撃をしてこないということは兵力を温存している、つまりどこかで日本軍を待ち伏せしているかもしくは奇襲をかけてくるんじゃないか……。

暗い観測が頭をよぎるがではどこでどれくらいの規模でどうやってと言う点はまったく分からない。


それがはっきりしたのは6月12日、レンガットの日本軍に対しインドネシア軍が砲撃をしかけてきたときである。

ここでようやくお出ましか、しかしそれにしても通常の攻撃で奇襲ではない。

普通に白昼堂々と砲撃をかけてきたのだ。

一体何がしたいのだろうか……、再び参謀達が首をかしげる。


しかしその攻撃は普通ではなかった。

日本軍の陣地付近に砲弾は着弾してはいるが下手くそなのか命中弾はほとんどない。

兵士達は陣地からそれを眺めインドネシア軍など大したことはないなと安心した。

しかし、しばらくしてその兵達は突如苦しみだし、次々と倒れる。

後方にいた衛生兵はその様子を見て何事かと陣地へ急いで向かった。


いわゆる匍匐ほふく前進で進み、10分くらいかけてようやく陣地の塹壕に入る。

そしてすぐさま手当てをしようと包帯類を取り出した。

しかし、兵士達に目立った外傷は無い。

ゆすっても反応なし。

どうしてだ、そう考えているうちに彼の身にも魔の手が伸びる。


「ゴホッ、ゴホ。なんだ、この息苦しさは……。目もチカチカするし……。うぅ、気分も悪くなってきた……」


彼は塹壕から出ようとしたが息苦しさが増し、その場に倒れてしまった。

そして、そのままゆっくりと目を閉じる。

彼が二度と起きることはなかった。



「第46師団より報告!前線の兵士が突然倒れだし、多数の死者が出ています!退却許可を!」


「こちら第55師団、敵の策略にはまりました。敵陣地付近にあった堀のようなところへ入り込んだ兵達が次々に倒れています、退却許可を!」


「第13師団です!兵士が相次いで倒れています、敵部隊の動きも活発になりこちらに向かってくるようです。このままでは支えきれません、増援部隊を派遣してください!」


第4軍司令部に突如無線が大量に入りだし、それも全てが悲鳴。

しかし軍司令部ではその悲鳴の意味が分からなかった。

何にもないのに兵士が倒れだす?

敵には魔術師でもいるのだろうかとそんな疑問まで思い浮かぶ。


「こちら第13師団、マスクのようなものをつけた敵兵が突入、我が部隊と交戦を開始しました。我が部隊の戦力はわずか、すぐに救援部隊を!」


ガスマスク……?

ならばまさか敵軍は……!


「司令!毒ガスです!敵は毒ガスで我が軍を攻撃ししているのです。前線の兵士が倒れだしたのは敵軍が毒ガスを撒いているからに違いありません。すぐに部隊に撤退命令を!早くしないと手遅れになります!」


ガスマスクと言われてピンときた参謀の一人が叫ぶ。


全く同じことを同時に思った軍司令官はすぐさま部隊に撤収を命令した。

全部隊が倒れた戦友を肩にかつぎ、ジャングルの中を撤退し始める。

しかしこれに対するインドネシア軍の追撃はすさまじく、満身創痍の日本軍はジャングルを敗走。

小部隊ごとに追撃してくるインドネシア軍と交戦しながらの敗走は多くの日本兵の命を奪うこととなる。

5日後シンガポールの対岸へたどり着いたのは第4軍約20万のうち10万強だった。

砲兵部隊は無事に撤退できたのだが最前線にいた歩兵で生き残ったのはほんの一握りに過ぎず、その彼らも咳や嘔吐が止まらない。


重症兵から優先してシンガポールへ撤収、3日後にはパダン攻略を中止した第2軍も引き揚げてきてとりあえずスマトラ島からは完全に撤退した。

この戦争開始以来の大敗北に日本国内は衝撃を受ける。

株価は急落、国民全体が大きな不安を感じるようになった。


そして何よりショックを受けたのは陸軍だ。

半分ほどの兵力しか持たないインドネシア軍に敗北したばかりか、第4軍の兵の半分を失ったのである。

何より開戦以来負けたことのない陸軍は若干浮かれていたこともあり、この敗北は堪えた。



そこですぐさまこの作戦についての会議が召集され、反省とこれからの作戦について話し合うことになった。





とうとう毒ガスの登場です。実際毒ガスについて良く知らないので調べながら書きましたが実際にどのように使われたのかイマイチ分かってないです。おかしいところなどがありましたらご指摘ください。すぐに訂正します。

それと「安芸」型戦艦の主砲を36センチと誤って記述していました。正しくは35.6センチです。訂正してお詫びします。


今回の名言↓

「同じ戦い方を繰り返すな」

ーリデル・ハート



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ