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第34話 決戦を求めて



シンガポール陥落から2週間後、海軍では敵海軍撃滅のため新たな作戦が発令された。


作戦内容は……、いちいち説明するほどのものでもない。

内容は極めて単純、二国艦隊のいるジャカルタを砲撃してやろうというものだ。

しかも無線封鎖・灯火管制など全くなし。

堂々とカリマータ海峡(ボルネオ島とスマトラ島の間)を進む。

そのうち二国艦隊が現れるだろうということだ。


参加艦艇は第1・2・3艦隊、ようするに現役の水上艦艇全てと第5艦隊の潜水艦が約20隻。

潜水艦はこの地域に展開する全てが集められた。


そして今回の作戦の目玉というか海軍がその活躍を期待しているものが「雷撃機」である。

数年前から研究されており、さらに昨年のシンガポール奇襲で必要性が増した機種だ。

去年の暮れに正式採用が決定され、それから数ヵ月後に「鳳翔」「興翔」の2隻にそれぞれ20機配備されている。

その分戦闘機が減っているが、海上航空兵力を持たない二国艦隊相手なら少々減っても問題はない。

この新機種「十五式艦上攻撃機」がどの程度のものか測る絶好の相手である。

(ちなみにこの「十五」というのは昭和十五年というところからきている。お忘れの方もいらっしゃると思うが俺が即位した時点で元号が昭和に変わっている)



一方二国艦隊はもちろん日本艦隊の出撃は知っている。

そして今度は目標を誤ったりすることもない。

自分達がいるここ、ジャカルタが狙われていることは疑いようのない事実である。

そして連日会議が行われているが全く結論が出ない。


何しろ兵力差が大きすぎる。

艦種別に比較してみると、戦艦は8対2、空母は2対0、装甲巡洋艦は12対8、二等巡洋艦は16対8、駆逐艦は56対32と日本軍が圧倒的に有利。

しかもこれに加え水上機母艦4隻もあり制空権(まだそんなに重要視されてはいないが)は完璧に日本軍のものである。


どう考えても大人対子供の勝負だろう。

しかもついでに言っておく、オーストラリア海軍が保有する戦艦というのはアメリカ製の新型戦艦だと思われていたのだがそれは間違いだった。

何隻もの潜水艦がその戦艦を見たのに新型艦と間違えている。

もちろんそれには理由がある。


その戦艦は旧アメリカ海軍戦艦「ヴァージニア」型2隻である。

建造は史実より少し遅れて1908年、それに伴い若干性能は向上している。

が、それを補っても余りある欠点を抱えた艦なのだ、こいつは。

こいつの基本データはこうだ。


基準排水量 1万8500トン

速力    20.8ノット


主砲    30.5センチ連装砲 2基

副砲    20.3センチ連装砲 4基

      15.2センチ単装砲 12基

対水雷艇砲  7.6センチ単装砲 12基

       4.7センチ単装砲 12基

魚雷発射管 53.3センチ発射管 4門


確かに旧式だがそんな馬鹿みたいにけなすことはないだろ、と思われた方がいるかもしれない。

ご存知の方もいるだろうがこいつの欠点は副砲にある。

実は副砲のうち2基がそれぞれ前後部の主砲の上に乗っているのだ。

つまり二階建て砲塔というわけである。


この二階建て砲塔が初めて艦艇に採用されたのは「キアサージ」型の時。

そもそもの目的は副砲の数を減らしても片舷へ向けられる火力を減らさないためだった。

それは成功しさらに副砲が移動したことにより、舷側に15.2センチ砲14基を搭載することができた。

しかし大きな欠点を抱え込むことになる。


まず一つ目に副砲が主砲の上に固定されているため、同一方向にしか砲を向けることが出来ないこと。

二つ目、主砲塔の中に副砲の揚弾筒が通っているため装置が複雑になってしまい、両方の砲の発射速度が大幅に低下してしまったこと。

三つ目は同一目標に射程の異なる砲を向けるため弾着観測や照準が難しいこと。

四つ目、主砲が副砲の爆風にさらされてしまうこと。

そして五つ目に一発の被弾で主砲と副砲が同時に破壊されてしまうことである。


これだけの欠点を抱えてしまい「キアサージ」は明らかな失敗作だった。

ちなみに「キアサージ」はその後クレーン船へ改造され1955年まで使用された。

戦艦としてよりもクレーン船として過ごした生涯の方が長かったらしい。


さて、それがなぜまた「ヴァージニア」に採用されたか、それは米西戦争の戦訓からである。

低い位置にある副砲より高い位置に副砲が活躍したためで、それを受けてもう一度採用したのだが結果はやっぱり失敗。

爆風に関しては工夫されていたがあとの問題はそのままで、史実では1922年ワシントン軍縮で廃艦とされ翌年陸軍爆撃機の標的となり沈められる。


この世界では米西戦争がゲーム開始の前年だったため造られてしまったのだが、結局使い道が決まらなかった。

そして世界大戦勃発を告げられた年である1910年の7月、戦力増強を図るオーストラリア海軍から旧式でもいいから戦艦を売却して欲しいという申し出が入る。

その話を渡りに船として同型艦の「ネブラスカ」とともに売却されたのだった。

オーストラリア海軍は不満ではあったが無いよりはマシと買ったのである。

しかし、新鋭艦ぞろいの日本海軍を相手にするのに、あまりにも淋しい状態であった。


で、どうして潜水艦が見間違えたかと言うと売却の際にオーストラリア側の要請で改修工事が行われ、艦橋のシルエットがアメリカ新型戦艦に類似していることや例の二階建て砲塔が背負い式に見えたためである。

もっとも、しっかりと近寄れば違うことは明白なのだがおいそれと近寄れるはずもない。

結局オーストラリアに入れたスパイが情報を掴むまでは分からなかったのだ。



しまった、余談が過ぎた。

とにかくこの建造国からも失敗作の烙印を押されたこの戦艦を中心とした艦艇が日本を待ち受けている……はずだった。





本文にありますが本当に余談で終わらせて申し訳ないです。別にこの2隻に思い入れがあるわけではないんですけど結構頑張って調べたんでスルーするのはちょっと…というわけで…。


今回の名言↓

「珍奇な奇襲は敵を仰天させるが、普通の突発事件には、誰も驚かない」

ーベゲチウス

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