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第25話 タイ降伏



タイ王国女王である水島は決断を迫られていた。

これからのことについて御前会議を開いたのだが、会議は紛糾し収拾がつかなくなっている。

会議で出ている主な意見は次の3つ。


一つ目は残存部隊とともにバンコクを棄て、マレー半島に向かいインドネシア軍と合流しバンコクを奪還するというもの。

これは陸軍が唱えており、勝ち目のない戦いで兵力を失うよりはインドネシア軍と合流して日本軍を叩き、その後国土を回復していけばいいというのだ。


しかしこれでは国民を見捨てて逃げるということであり政府官僚は反対している。

第一インドネシア軍と合流して戦ったとして日本軍に勝てるのかどうかはわからない。

北上中の部隊は30万程度と聞いているが、侵攻中の日本軍は合わせて80万くらいまで膨らんでいる。

タイの残存部隊を合わせても3分の2にいくかどうかというところでよほどの戦略がないと勝てる戦ではないだろう。


そして二つ目はこのままバンコクで戦闘を行い日本軍もろとも玉砕というものだ。

これは海軍や政府官僚の一部が唱えているもので、インドネシアやオーストラリアが本当に大規模な援軍を送ってくるはずはない、今マレー半島北上中のインドネシア部隊もわざとゆっくり進んでいるのだ、だったら撤退して合流したところで彼らにはタイを救う意思はないから撤退しても無駄である、ならばバンコクで日本軍に徹底抗戦しタイの意地を見せてやろうと主張している。


どうもこの国の海軍には玉砕癖があるようだがこの論は水島が一蹴した。

国民を道連れには出来ない、戦争を始めたのは我々であり彼らに罪はない、と。

普段は静かに聴いているだけの水島が発言して制したため全員が驚き、この案はなくなった。


三つ目は日本に降伏するというもの。

これは政府官僚の大多数が望んでいるものだ。

これ以上犠牲を出したところで何の意味があるのか、独立が失われたとしてもそれは人命には換えられない、国民を守るのが我々の仕事ではなかったかという主張である。

水島自身はこの案に賛成である。

しかし降伏すればそれは友達を裏切ることになるのだ。

そのことで水島は降伏を躊躇していた。



彼女は議論が続く中1人で悩み続けた。

友か、国民か。

これはただのゲームだ、別に本当に人が死んでいるわけではない。

そうも考えた。

しかし15年近くこの世界で住んでいるとそうは思えなくなっていた。

彼女の心の中で葛藤が続いたが1時間後彼女は全ての議論を打ち切らせ、一つの結論を出す。



そして1914年5月3日、タイ政府は日本政府に対し無条件降伏を宣言した。

水島は自ら国民に対し演説して謝罪する。

嗚咽をかみ殺しての水島の演説に対し国民は深く同情し、異を唱えるものはいなかった。

軍部、特に陸軍はこれを不満としクーデターを起こして水島を捕まえ、戦争を継続させようと計画していたが国民の圧倒的多数、もうほとんど全員が戦争終結に賛成しているような状態であったため中止せざるを得なかった。


タイの国民はもう疲れていたのだ。

わずか半年程度の戦いだったがそれでもタイは戦場になり多くの被害を受け一般市民の死者もそれなりに出ていた。

また多くの男が戦場へ駆り出され生きているのかどうかすら分からないという状態で、多くの家族は不安を抱えている。

戦争が終われば会える、またみんなで平和に暮らせるとタイ国民は思ったのだ。

しかし、現実は彼らの願いを裏切ることとなる。


まず降伏後オーストラリア・インド・インドネシアに対しては同盟の破棄が通告された。

交戦中の陸軍部隊には抵抗をやめ、日本軍による武装解除を受けるように命令が下る。

これにより各戦線では戦闘が終結し、その日のうちに日本軍の一部がバンコク市内へ入り治安維持にあたった。


そして5月5日には正式に降伏文書への調印が行われ、タイは日本の支配下に置かれることとなる。

そのため翌日にはオーストラリア・インドネシア・インドへ宣戦布告が行なわれた。

タイ国民には気の毒だがここではい、そうですかと戦争から離脱されるわけにはいかない。

もちろんタイ軍を動員して攻め込むということはないが(というよりもはやそんな兵力は残ってないので物理的にできないが)、南方へ向かう日本軍の通り道になるため兵站基地としても重要である。


それにバンコク付近にいた約5万のインドネシア軍残存部隊はタイ軍とともに日本軍に降伏したのだが、マレー半島北上中の部隊はタイ南部を占領してしまっている。

また、ミャンマー軍とインド軍の一部もタイ領内へ入って略奪など行ったという情報も入ってきた。

まだまだタイ領内で戦闘は続いているのだ。


タイの民衆はただ耐えるしかなかった。

ほんのわずかに日本軍に対する決起を呼びかけるものや、自警団を組織してインド軍などの略奪と戦いだすものもいたが大多数の民衆はただただ耐えた。


微笑みの国タイに笑顔が戻るのはまだ遠い。





今日もテストは玉砕です。もうここまで来たらどうでも良くなってきてしまいました…。


今回の名言↓

「戦争のイロハを言えば、勝利は都市を占領することからではなく、敵軍を撃破して得られる。1812年、ナポレオンはこの原則を忘れていた」

ーアンドレイ・L・ゲットマン  (ソビエト連邦 陸軍大将)


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