第23話 バンコクへ
戦争が始まって3ヶ月が経とうとしている。
しかしそのわずか3ヶ月でタイ軍の劣勢は明らかだ。
メコン川会戦と第2次ビエンチャン会戦(前話に出てきた戦い)の両会戦の敗北後、連合軍は敗退に敗退を重ねカンボジアからは叩きだされ、タイ北部はすでに日本軍の手に落ちた。
もはや絶望的な戦況だが、タイ軍の兵士達はまだ勝てると信じている。
それはインドネシアやオーストラリアが援軍を送ることを宣言したからだ。
ただのパフォーマンスかと思えばそうではなく、オーストラリア方面に出ている潜水艦やスパイ情報によるとオーストラリア艦隊が出撃用意をしているようだし、インドネシア軍が陸路でマレー半島を北上中という情報も入ってきていることからどうやら本気のようである。
また、インドネシア艦隊もジャカルタに集結しているようだ。
そこで日本海軍は主力部隊である第1艦隊と第2艦隊をサイゴンへ前進させた。
ただし新鋭戦艦「美作」型は基隆(台湾北部にある港町)に残している。
理由は訓練不足。
「美作」型4隻は開戦直前に海軍に編入されたばかりでしかも擬装工事のやり残しがあったりして思うように訓練も出来ていない。
そのため今回はお留守番ということになったのである。
それにインドネシア艦隊は戦艦を持たないためいなくても大した問題ではない。
こないだの海戦(タイランド湾海戦)で「安芸」型2隻をやられたのは痛いが「安芸」型のもう2隻は健在である。
装甲巡洋艦の数でも圧倒しているしそれで十分対抗できると思ったのだ。
そして3月の中ごろ、艦隊はサイゴンに到着した。
かなり前線に近いため敵水雷艇等による奇襲を受ける恐れもあるが、ベトナム海軍が軍港として使っていたので防備はそこそこされているようだし大丈夫だろう。
ちなみにベトナム海軍には二等巡洋艦1隻と駆逐艦10隻、そのほか哨戒艇などが10隻ほどいたが現在は第4艦隊の指揮下に入っている。
また、シンガポールを奇襲した第3艦隊もここサイゴンにいた。
あの後マレー半島各地を襲撃していたがその後サイゴンに入港して整備と休養を取っていたのだ。
さらに第8航空師団の本隊が到着しておりかなりの数の航空機がサイゴンにいる。
飛行場の整備も行われており2,3ヶ月後には陸用航空機部隊の第3航空師団が進出してくる予定となっている。
そして3月の終わり頃陸軍からサイゴンの艦隊に対し出撃要請が入る。
この頃陸軍はタイ領内への本格的な攻撃を開始しており、タイの首都バンコクまであと100キロにまで迫っていた。
しかし、航空機の支援を受けられる範囲から出てしまった上に予想以上にタイ軍の抵抗が激しく、戦線はこう着状態。
砲兵隊が砲弾の雨を降らし、歩兵部隊が肉弾突撃を繰り返して毎日少しずつ前進しているがこのままではインドネシア軍の援軍が到着してしまう。
今はまだマレー半島北部をモタモタと北上しているがあと1ヶ月、遅くとも2ヶ月後には戦場に現れるはずだ。
そうなれば面倒である。
もちろん兵力をさらに送ればいいだけではあるがこれ以上投入するのは避けたいのが本音だ。
ただでさえミャンマー方面に出ている第3軍が未だにミャンマー北部でミャンマー軍の小部隊と毎日ダラダラ戦闘を続けていてほとんど進んでいないのである。
出来れば援軍到着前にタイ軍を完璧に撃滅しておきたい。
で、要するに陸軍はどうしたいかというと艦隊をタイランド湾の根っこまで入れて、そこからバンコクを爆撃して敵の背後に脅威を与えてほしいというのだ。
そこで海軍は第3艦隊に装甲巡洋艦を編入して強化し、タイランド湾に突入させることにしたが途中でまたも陸軍から新たな要請が入り作戦は大きく見直される、というより根本から変わることになる。
で、その新たな要請とは何かというと陸軍部隊を上陸させたいというのだ。
海軍は驚いた。
上陸作戦なんて考えたこともなかったからだ。
もちろん部隊を揚陸することくらいは当然やっているがそれは大体敵の影も形もないような海岸に上陸するとか、味方の勢力圏内で揚げて陸路で攻めるのが主である。
しかし今回は堂々敵の本拠地近くに部隊を揚陸させようというものである。
海軍首脳部には反対意見が多く見られたが連合艦隊司令長官山下源太郎大将が「大して考えたこともないの出来ない出来ない言うな」と一喝、サイゴンにいる全ての艦隊を出して支援に当たらせることで作戦は動き始めた。
当然インドネシア海軍も日本艦隊が何らかの大掛かりな作戦を準備していることは掴んだ。
ものすごい数の輸送船がサイゴンへ向かっているのである。
その数は50隻以上。
どんなに防諜に努めても秘匿することは出来ない。
そのためインドネシア艦隊は日本艦隊が出撃したのを確認(サイゴンに潜っているスパイや付近に配置してある潜水艦で)したら迎撃のため出撃することを決めた。
シンガポール軍港が先の空襲による被害から完全に復旧していないのは痛いが、まっすぐマレー半島へ日本艦隊が向かってくるならなんとか間に合う。
ただ日本艦隊が戦艦を含む場合、インドネシア艦隊はジャカルタでおとなしくしていなければならないがオーストラリア艦隊が到着すれば十分互角に戦える。
オーストラリア海軍はアメリカ製の戦艦を2隻保有しており、タイランド湾での海戦で2隻撃破されている日本艦隊にとって見逃せない脅威である。
その彼らはすでにオーストラリア北部にあるポートダーウィンを出港しジャカルタへ向かっていた。
あと1週間もあればジャカルタに着くだろう。
こうしてお互いの海軍は決戦に向かって動き始めた。
テスト週間に入りました。さすがに高二になると内容が難しく今までのようにテスト勉強なしではキツそうなのでそっちを頑張りたいと思います。二週間ほど更新がないかもしれませんがまたその後見ていただけたら幸いです。
もし更新していたらテスト勉強しろと一喝してやってください。
今回の名言↓
「敵軍が退却すればそれはわれわれの作戦の失敗だ!敵を捕捉して撃破してこそ勝利と言える」
ーアレクサンドル・スヴォーロフ(ロシア陸軍元帥)