第21話 シンガポール奇襲
1月4日、臨時支隊が大打撃を受け後退した翌日早朝のこと。
インドネシア海軍の根拠地であるシンガポールに大きな異変が起こった。
その日、ある陸軍大尉はいつものように自分が砲台長をつとめる砲台の側で兵達が整備しているのを見ていた。
兵達は忙しく動き回りながら整備をしている。
よし、それじゃやめて飯にするかと言おうとしたそのとき、水平線の上に黒い豆つぶみたいなのが目に入った。
兵達もそれに気づき整備の手を休めそれを見る。
5分後、大尉はその物体が何か理解する。
それは飛行機の編隊だった。
しかし、彼の理解は完璧ではなかった。
「航空隊の連中こんな朝っぱらから訓練飛行やってるのか。ご苦労なこった」
そうつぶやくとある兵士が、
「いえ、今日は休みだと思いますよ。昨日航空隊にいる友人が、明日は訓練が午後にちょっとあるだけで久しぶりにゆっくりできるって言ってました」
大尉は笑って、
「じゃああれは何なんだよ。上の連中が訓練ないとか言って油断させといて、また緊急出動の訓練でもさせてるんじゃないか?俺達もよくあるだろ。真夜中寝てる時に突然たたき起こされてさ。ま、気の毒な航空隊のことは置いといて、飯にしよう」
そう言うと兵達は整備道具の片付けを始めた。
大尉は砲台を去ろうとしてもう一度空を見る。
かなり接近していたその編隊を見て、ご苦労さん、と心の中で思ったその時だった。
彼に目に入った機の翼に描かれていたマーク、それはインドネシア軍のものではなく敵軍である日本軍の日の丸だったのである。
「整備やめ、戦闘用意!」
大尉は兵に叫んだ。
しかし兵は、
「大尉、止めてくださいよ。俺達も今日は緊急出動の訓練やるんですか?」
先ほどの話からしてジョークだと思ったらしい。
「馬鹿野郎!訓練なんかじゃない、あの飛行機は日本軍のものだ。翼の日の丸を見ろ!司令部へ通報だ、急げ!」
兵達はあわてて砲台へ取り付く。
「第14砲台から司令部へ!敵機来襲、その数100余り。繰り返す、敵機来襲!」
電話口で兵が叫ぶ。
こうして彼らの大変な一日が始まった。
「全機に告ぐ。目標上空に敵機なし。予定通り航空基地への攻撃を最優先で行え。以上だ。攻撃を開始せよ」
攻撃隊長の徳川少佐の命令を合図に攻撃隊は小隊ごとに散開して攻撃を開始した。
日本側の兵力は戦闘機30機、爆撃機20機、水上機40機である。
もちろん陸から飛んできたわけではなくシンガポール沖まで進出した第3艦隊の空母2隻、水上機母艦4隻から飛んできた航空隊だ。
世界初の機動部隊であるこの部隊がどんな戦果を挙げるか統合作戦本部は大きな期待をもってこの攻撃を見ていた。
攻撃は戦闘機隊がインドネシア陸軍シンガポール飛行場に銃撃を加えたことにより始まった。
敵機が舞い上がってくる様子は全くない。
しかも対空砲火もないに等しく戦闘機隊は悠々と上空を飛び回る。
その後爆撃機と水上機の部隊が到着、滑走路・格納庫・敵機に次々と爆弾を投下していく。
爆弾の搭載量が少ないため1機あたりの攻撃力はかなり低いが、これだけの機数が集まれば大きな攻撃力となる。
史実で航空機の集中投入によってすさまじい破壊力が生まれることが世界に示されたのは第2次世界大戦における真珠湾奇襲だが、この世界では第1次世界大戦におけるシンガポール奇襲ということになるだろう。
約1時間に渡って行われたこの攻撃によりシンガポール航空基地は完全にその機能を失った。
基地にいた航空機は各種あわせて60機ほどだがこの攻撃を生き延びたのはわずかに4機。
飛行場の隅の方にいたりしてたまたま難を逃れたのだがもはや飛ぶことは出来ない。
滑走路は爆弾で耕されているし、燃料タンクは炎上中。
弾薬庫も被弾して今は盛大に炎を吹き上げている。
まぁたった4機が飛んだところで何の役にも立たないが……。
そして日本機が去ってやれやれと思ったインドネシア軍の頭上に再び日本機が現れた。
第2次攻撃隊の戦闘機16機と水上機32機である。
今回の攻撃目標は港内にいる艦艇だ。
現在シンガポール港には装甲巡洋艦「マカッサル」をはじめ二等巡洋艦2隻、駆逐艦12隻、潜水艦5隻、掃海艇5隻、雑役船10隻、輸送船12隻などが停泊している。
もちろん最優先目標は「マカッサル」だ。
戦闘機隊は港湾施設攻撃のため港内には向かわずその周辺へと散る。
60キログラム爆弾をそれぞれ2発ずつ抱えた水上機隊は「マカッサル」へ殺到、停泊中で動くこともできずさらに対空火器など全く備えていない「マカッサル」は一方的に攻撃を受けることとなったが、たかが60キロ爆弾で沈むほど柔ではない。
命中弾は20発以上、艦橋構造物の大部分が破壊され炎上はしたが、船体はほとんどノーダメージだった。
当然上空から見た航空隊としてはそこまで分からないが「マカッサル」は明らかに戦闘力を失っている。
攻撃は成功したと引き揚げていった。
しかし、全ての機が「マカッサル」1隻に集中してしまい他の艦艇は全く損害を受けていない。
そのため第1次攻撃隊をもう1度攻撃に出し港内の敵艦や港湾施設を攻撃させた。
最終的な結果は以下の通り。
戦果
沈没 駆逐艦 1隻 潜水艦 3隻 輸送船 2隻 雑役船 1隻
大破 装甲巡洋艦 1隻 潜水艦 2隻 輸送船 4隻
そのほか駆逐艦3隻と雑役船2隻が損傷し、港湾施設も被害を受けた。
航空機は地上撃破52機で飛行場施設は壊滅。
損害
未帰還 水上機 2機
破損 戦闘機 1機 爆撃機 1機 水上機 7機
(うち損傷がひどく処分されたものが水上機3機)
損害は少なくはないが、与えた打撃からすれば攻撃は大成功と言っていいだろう。
新聞はこの初めての大勝利に1面全てを裂いて報道し、国民は沸き返る。
統合作戦本部もこのおかげで重くなっていた空気が軽くなり少しリラックスできるようになった。
開戦から誰もが緊張しっぱなしだったがこの勝利のおかげでわずか4日で少し全員の表情が良くなったと思う。
ただ、この戦いではっきりしたのは水上機の脆さである。
未帰還機がでたのはこの機種だけだし、破損した機も圧倒的に多い。
もちろん最も多く参加していたためという理由もあるが、あの大したことのない対空砲火でこれだけの損害が出たのは必ず理由があるはずである。
また、今の航空機では大型艦を撃沈するには航空機では力不足ということもはっきりとした。
そのため現在研究中の雷撃機開発が一層促進されていくこととなる。
このほかにも得た戦訓は多い。
これを生かすかどうかで今後の航空機の運用が変わることになるだろう。
史実の真珠湾作戦が戦艦8隻を撃沈破していたのと比べれば見劣りしますがこの時期の航空機だとこれが限度じゃないかと思います。第一これでも2年くらいは時代を進めてますが…。
今回の名言↓
「将来の戦争において、空軍はもっとも重要な軍となるだろう。その分だけ陸軍と海軍の役割は低下する」
ーギウリオ・ドーウェ
これは言いすぎかもしれませんが航空機のもたらす破壊力にはすさまじいものがありますよね。