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第20話 タイランド湾海戦



1914年1月3日、日本海軍第1臨時支隊は天候不良で数日遅れはしたがバンコク港のタイ海軍艦隊へ攻撃を開始した。

日本艦隊の兵力は戦艦「安芸」型2隻を中心に装甲巡洋艦4、二等巡洋艦2、駆逐艦16。

さらに特設水上機母艦「貴陽」が付属されている。

対するタイ艦隊は二等巡洋艦1、駆逐艦13で陸上からの航空機は一切なし。


タイ海軍としてはもともと早くインドネシアあたりに逃げておきたかった。

正面から戦って勝てるわけはないし、バンコクにいたのでは開戦後逃げるにしてもゲリラ的に戦うにしても難しい。

タイランド湾に敵艦隊が入って来たら逃げるのはまず無理だ。

しかし、海軍をインドネシアに脱出させたいとタイ政府が同盟国であるインドネシア政府に打診したところ、開戦まではバンコクにいろと言ってきた。

インドネシアやオーストラリアはタイに日本と戦わせて日本海軍の実力を測ろうとしたのだ。


タイ海軍司令はこの手前勝手な命令に憤慨したがどうしようもなく、開戦したらすぐに南下してシンガポールへ向って逃げることにし、その準備をさせていた。

しかし、天候不良で出撃することが出来なかったため今もまだバンコク港内に残っている。

そして日本艦隊タイランド湾を北上中という知らせを受けたとき、司令は覚悟を決めた。

むざむざ港内で沈められるのは口惜しい、ならば沖に出て日本艦隊に突入して敵艦をいくつか道ずれにしてやろう、と。


一方日本艦隊は油断しきっていた。

どうあがいたところでタイ艦隊に勝ち目はない。

どうせ港内で縮こまって出て来やしないとたかをくくっていた。


ところがタイ艦隊は二等巡洋艦「バンコク」を先頭に単縦陣で真っ直ぐ日本艦隊へ向かってきた。

日本艦隊はタイ艦隊の出現に少々驚いたが、何のことはない、チビばっかだと戦艦と装甲巡洋艦部隊を前に出して砲撃を開始した。


戦闘開始わずか10分後、「安芸」が放った砲弾がタイ艦隊旗艦「バンコク」を直撃、同艦は爆沈した。

もともと高速を出すため装甲がほとんど張られていなかった上に35.6センチ砲弾が機関室付近に命中したのだ、とても耐えられるはずはない。

司令官はもちろん戦死、乗員もほとんどが艦と運命を共にした。

これを見て士気がすっかり落ちたタイ艦隊は我先に逃げ始める。

日本艦隊はこれを追撃、わずか1時間ほどの戦闘で全ての艦を撃沈または拿捕することに成功した。


タイ艦隊は全滅、日本艦隊の損害は皆無。

海戦は日本軍の圧勝ということで終わる……はずだった。

ところが、思わぬ伏兵が潜んでいたのだ。


海戦終了後、拿捕した駆逐艦2隻を護衛して駆逐艦4隻と「貴陽」がひとまずサイゴンへと向かった。

(ちなみに「貴陽」はこの海戦では波が荒かったため水上機を飛ばせず何の役にもたたなかった)

残りの艦艇は昼過ぎから夕方にかけチャオプラヤ川河口(タイランド湾の一番引っ込んだとこ)付近にあったタイの港湾施設を攻撃し輸送船など11隻を撃沈する。

沿岸砲台から反撃が少しあったが、数も少なく射程も短いため日本艦隊が損害を受けることはなかった。


そしてその日の夜、


ドオォオン!


突如艦隊の先頭を行く「安芸」に艦橋よりも高い水柱が上がった。

さらに数分後2番艦「石見」も大きな爆発を起こし火災が発生する。


敵潜水艦による奇襲だった。

タイ海軍はひそかにドイツ製の大型潜水艦4隻を購入、訓練していたのだ。

日本海軍もタイが潜水艦を手に入れたらしいという情報は得ていたが重要視せず、今回の作戦においても省みられることはなかった。


この予想外の攻撃を受け日本艦隊は混乱したものの、水雷戦隊を戦艦部隊の前に出して敵潜水艦に対する攻撃を開始した。

しかし、なかな敵の位置がつかめない。

他国よりマシなソナーを積んではいるがこの時代のソナーは信頼性が低く、実際訓練でさえ敵役の潜水艦を見つけるのは難しかったのだ。

まして実戦で見つけるなんてそれこそ奇跡だった。

(史実の第1次大戦でも捕捉率は1割程度だったという)


水雷戦隊が敵潜を探し回っている間に戦艦・装甲巡洋艦部隊はもう一方の水雷戦隊(二等巡洋艦1と駆逐艦4。拿捕した敵艦の護衛のため4隻欠けている)に守られながら離脱を開始した。

護衛する艦が少なくこれ以上敵潜がいたらどうしようもないがとりあえず現場から逃げようとしたのだ。

幸い、被雷した戦艦は2隻とも自力航行が可能であり、海域に別な潜水艦がいることもなかったので無事に離脱することができた。


一方日本艦隊奇襲を成功したタイ海軍潜水艦部隊だったが正直困っていた。

さっさとどっかに行ってくれればいいのに敵の駆逐艦か巡洋艦が10隻近くまだ頭の上にいるのである。

しかも悪いことにこのドイツ製潜水艦には灯油機関が使われていて(もちろん水中は電動機だが)、水中性能や航続距離に問題があった。

そのためこの潜水艦は水中にいることができるのは長くても一日程度とされているのに空気の補給が十分でなく、残量はあと1時間がやっと。

電池も残りわずかだ。

本来夜間に空気の補給や充電をするのに、夜に攻撃をかけるよう命令されたため補給が完了しないうちに日本艦隊と接触してしまったためである。


そのため潜水艦4隻の艦長はそれぞれ悩んでいた。

もちろん水中で連絡など取れるはずもなく各々で今後のことを考えている。

浮上して全速力で離脱する……、無理だ。

このまま水中で敵艦が去るのを待つ……、先に酸欠で死んでしまう。

じゃあ降伏するか……、そんなことはできない。

だったらやるべきことは一つ、しかしそれは……。


そして1時間後、4隻の潜水艦は次々に浮上しそれぞれ決めた覚悟のもと行動を開始した。


まず浮上したのは「S-2」だった。

「S-2」は浮上と同時に日本艦隊の先頭にいた二等巡洋艦「川内」へ雷撃を行った。

「川内」では突然の出来事に驚いたが冷静に魚雷を回避、「S-2」に対し砲撃を開始し第2斉射

が「S-2」を捉え「S-2」は爆沈した。


続いて「S-4」が浮上を開始、日本艦隊へ体当たりをかける。

しかしそう簡単にあたるはずもなく、さらに悪いことに駆逐艦の真横に浮上する形となってしまった「S-4」は集中砲火を浴びあっという間に海の藻屑となった。


残りの2隻は聴音機でこの2隻の結末を知り、これ以上の抵抗は無意味と浮上して白旗を掲げた。



こうして日本艦隊は大きな損害を受けはしたが、一応タイ艦隊撃滅という目標は達成された。

今回の海戦で被雷した2隻の損害は予想以上に大きく両艦ともに修理に半年かかると見積もられ、ここ最近の負け続きで暗くなっていた統合作戦本部の空気をさらに悪くした。


しかし、落ち込んでいる暇はない。

報告を聞き終わるとすぐさま次の報告が飛び込んできたのだ。






ご意見・ご感想お待ちしています!


今回の名言↓

「戦闘は、きびしく、エネルギッシュに戦え!それが戦闘時間を短くし、損害を最小限にする方法である」

ーナポレオン・ボナパルド

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