第19話 燃える国境
イギリス時間1914年1月1日0時0分、本来なら全世界がカウントダウン等で盛り上がっているはずのときだが今年それどころではない。
各国は開戦の時間になると一斉に国境を越え攻撃を開始した。
祝いの花火の代わりに砲弾がそれぞれの国へ降り注ぐ。
日本も同じである。
第1軍・第2軍・第3軍はそれぞれ自分の担当地域へ侵攻した。
ただし第1軍及び第2軍は戦闘は起きていない。
べトナム・カンボジア・ラオスはそれぞれ日本に対し降伏を通告してきたからだ。
他にもフィリピン・ミクロネシア・マーシャル諸島・パラオも降伏すると通告してきている。
しかし、ミャンマーはインドに従属すると宣言し、日本軍の侵攻部隊に対し攻撃を加えてきた。
攻撃の規模は小さく第3軍はこれを踏み潰したが、深いジャングルに阻まれ前進は遅々として進まず、統合作戦本部は戦前のジャングルに対する考えがいかに甘かったかを思い知らされた。
さらにミャンマー軍はゲリラ的に攻撃を加えてきて、現地及び統合作戦本部を大いにいらだたせている。
一方ラオスやカンボジアのタイとの国境では大規模な戦闘が始まっている。
カンボジアではタイ陸軍約20万がカンボジア陸軍の国境陣地に対し攻撃をかけていた。
カンボジア陸軍国境守備隊5万名は全員戦死の構えで激しく抵抗したが、圧倒的な兵力差はどうしようもなく、2日ほど抵抗した後残兵1万5000は後退。
そのほかカンボジア陸軍は10万ほどの兵力がいたが、統合作戦本部の命令により国境守備隊の残存部隊を収容するとベトナム陸軍と合流するためサイゴンまで撤退した。
その頃ラオス軍は首都ビエンチャンに全部隊12万を集結させ、タイ軍を迎え撃とうとしていた。
このビエンチャンはメコン川を挟んでタイと国境を接する街で、メコン川の左岸がビエンチャン、右岸がタイ領となっている。
そのためラオス政府は首都が開戦と同時に攻撃されるのは当然覚悟しており、ビエンチャン市民は1ヶ月前の時点で全員すでに北部へ疎開を完了していた。
ラオス陸軍は川岸に陣地を構え、タイ軍の渡河を阻止して日本軍の来援まで持ちこたえるつもりだったが…。
攻撃してきた敵軍はタイ軍だけではなく、インドネシア軍30万を含む合計45万もの大軍であった。
わずか12万のラオス軍が約4倍もの兵力を持つタイ・インドネシア連合軍の猛攻を防げるはずもなく、あっという間に戦線は崩壊してしまう。
ラオス軍の陣地は急造のため縦深さに欠ける上に砲台などが全く掩蔽されておらず、攻撃開始から3時間も続いた連合軍の砲撃で陣地がほぼ完璧に破壊されてしまい死傷者が続出。
そのあと一斉に開始された連合軍の渡河に対しラオス軍は散発的に抵抗したが、あっという間に排除された。
ラオス軍の損害は死者・負傷者・行方不明者・捕虜合わせて6万5000。
全体の5割にも及んだ。
この一戦で戦力と自信を完璧に打ち砕かれたラオス軍は、日本軍に助けを求め各部隊バラバラに北上していくこととなる。
統合作戦本部で報告を聞いた俺は文字通り言葉を失った。
俺たちの作戦ではカンボジアの喪失は想定どおりだが、ラオス軍の大敗北は予想外としかいいようが無かった。
インドネシア軍がタイへ2,30万規模の兵力を投入するなんて思わなかったし、第一緒戦からこんなに積極的に攻勢をかけてくること自体想定してなかったのだ。
「第2軍の進軍を停止し、現在位置で防御陣地を構築して待機させよう」
俺は隣りにいた一戸兵衛陸軍大将に言った。
この人は史実では旅順攻囲戦で活躍した人物である。
「そのほうが良いでしょうな。第2軍だけで戦えというのは酷でしょう」
一戸が言う。
「あぁ、第4軍を増強してこの方面に投入しよう」
俺と一戸は第2作戦室へ向かった。
廊下はたくさんの士官が忙しく走り回っている。
書類を抱えて部屋から部屋へ。
歩いている俺らの隣をピューっと駆け抜けていく。
この統合作戦本部では敬礼は省略されることになっているので、彼らはいちいち立ち止まったりしない。
「陛下!第3軍から報告です。インド軍がミャンマー領内へ入った模様です。あと1週間もすれば敵の先遣隊と接触があるものと思われます」
「第1臨時支隊より報告が入りました。攻撃には成功しましたが…」
入った途端悪い知らせばかりだ。
「成功したがどうしたんだ?」
俺は不機嫌丸出しで聞く。
結果は本当に困ったものだった。
ご意見ご感想お待ちしています!
今回の名言↓
「長い駐屯地生活を過ごして、われわれは軟弱になり、快楽を追うようになって、軍人の特操を失いつつある。全軍人は『逆境という学校』を卒業しなくてはならない」
ーグナイゼナウ
それと我が高校文芸部の面々が書いた小説(短編のみですが)がこのサイトに載っています。作者名は「ねこのしっぽ」です。一度読んでいただけるとうれしいです。感想もいただければ励みになると思うので暇なときなどにふらっと立ち寄ってみてください。