第18話 開戦
「陛下!陸軍部隊は所定の位置につきました。いつでも攻撃を開始できます!」
「空軍司令部より報告、遅れていた第7航空師団の進出が完了しました」
「連合艦隊より報告、臨時第1支隊目標海域に到着しました!しかし天候が悪化しつつあるようです」
香港の統合作戦本部は今非常に忙しくなっていた。
今日は1914年1月1日、そして現在時計は午前5時すぎを指している。
もう戦争始まってるじゃないか!と思われた方多いかもしれないがこれには訳がある。
本初子午線、つまり経度0度のイギリスが午前0時になったときに戦争が始まることになっているのだ。
つまり、日本とイギリスには7時間の時差がある(この世界の日本は東経105度での時間を標準時刻としているため普通の世界の日本とも2時間違う)のでこちらでの戦闘開始時刻は午前7時となっている。
開戦まであと2時間となり、所定の作戦に従い各部隊が動きそれらの報告が全てここに集まってくるので無線は鳴りっぱなしの状態だ。
統合作戦本部は軍の指揮系統の最上位にあるものなのでその忙しさは半端ではない。
ただそれらを整理するため当然いくつかの部署にわけてある。
主なものは戦域全てを大まかに扱う総合作戦部、東南アジア地域を細かく扱う第1作戦部、オセアニア地域担当の第2作戦部、インド地域担当の第3作戦部。
総合作戦部でおおまかな戦略目標が決まり、それが各地域担当の部で陸・海・空軍が共同で具体的な攻略目標等を決めるようになっている。
さて、現在の状況だがまずは陸軍から…。
陸軍は各方面隊から師団や旅団を引き抜き「軍」を編制する。
ただし、この世界の「軍」は史実の「方面軍」と思っていただきたい。
その下には「軍団」がおかれそれは2個または3個師団から成っており、これが1軍に3個か4個。
つまり1つの軍は大体8から10個師団を隷下にもっている。
そして史実と異なり師団司令には少将があてられ軍団に中将、軍に大将。
これは平時に高給取りの大将や中将の数を減らすためでもある。
今回おかれた軍は以下の通りである。
第1軍(ベトナム方面担当) 華南の部隊を中心に8個師団と3個砲兵旅団
第2軍(ラオス方面担当) 華中の部隊を中心に8個師団と2個砲兵旅団
第3軍(ミャンマー方面担当) 日本列島の部隊を中心に10個師団と4個砲兵旅団
第4軍(フィリピン方面担当) 朝鮮の部隊を中心に6個師団
現在はこれだけだがタイを制圧した後にさらに軍の数幾つかが増やされインドやインドネシアへ投入される予定である。
第4軍だけ兵力が少ないがこれはスパイ情報によりフィリピンは日本に降伏するらしいので戦闘が発生する可能性自体が低いためだ。
万が一降伏しなかった場合は華北から3個師団、新疆から2個砲兵旅団を引き抜いて軍を編制しなおし、フィリピンへ上陸させるようになっている。
また、西蔵方面軍は部隊を南下させインド軍がヒマラヤ山脈を越えてくるのを警戒している。
もっともその可能性はほとんどない。
ただでさえ標高8000メートルとすさまじい高さがあるのに、こっちの世界では西蔵やネパールの標高は約1000メートル下がっており、要するに1000メートル余計に上らないといけなくなっているのだ。
そのため西蔵方面軍が警戒しているのは、大部隊が山脈を越えてくることではなく小規模なコマンド部隊が侵入して来ることである。
コマンド部隊による跳梁を許せば様々な交通機関が麻痺するのは確実、さらに有効な対策が出さなければそのまま政府への批判へ直結する。
それだけは避けなければならない。
一方海軍だが連合艦隊が編制されている。
編制は以下の通り。
第1艦隊 戦艦8隻を中核とする主力部隊。
第2艦隊 装甲巡洋艦12隻を中核とする前衛部隊。
第3艦隊 空母2隻、水上機母艦4隻を中核とする機動部隊。
第4艦隊 旧式戦艦5隻、旧式装甲巡洋艦6隻を中核とする支援部隊。
第5艦隊 潜水艦64隻を中核とする潜水艦部隊。
このうち現在活動中なのは第1艦隊・第2艦隊から若干艦艇を引き抜いて編制された臨時第1支隊とシンガポール方面へ出撃した第3艦隊、各地へ散らばって敵艦隊の捜索・敵輸送船への攻撃を行う第5艦隊である。
それ以外の艦艇は台湾で待機中。
なぜ台湾なのかというとオーストラリア艦隊に備えてのものである。
オーストラリア艦隊は南洋諸島を通って日本列島への攻撃もできるし、東南アジア方面に出てくることもできる。
どちらにも対応できるように大体中間に位置する台湾の基隆で待機しているのだ。
ただ中途半端が一番危険であるのだが…。
それはさておき最後に空軍について。
空軍は航空師団を設置している。
大体1つの航空師団には航空戦隊が6つおかれている。
その航空戦隊は4個分隊編制で1個分隊12機(うち3機が補用機)なので1つの航空戦隊で常用機36機、補用機12機。
航空師団全体では常用216機、補用機72機である。
(史実の航空師団・航空戦隊と編制は全く異なっている)
現在日本には航空師団が10個置かれている。
基本的に航空師団の任務は陸軍部隊の支援である。
爆撃機が他国に先んじて開発され実戦配備されているが、その搭載能力は最新鋭の双発爆撃機「炎龍」でもせいぜい400キロが限度。
航続距離も最大600キロだが爆弾を400キロ積むと3分の2ぐらいまで下がってしまう。
そのためかなり前線に近いところに飛行場が必要だが、戦線はどんどん南下していくためおそらくついていけなくなると思われている。
それを打開するために開発され続けているのが水上機だ。
水上機なら河でも海でも水さえあればどこにでも降りることができる。
幸い東南アジアにはそれなりの大きさのある河川がかなりあるため降りるところに困らない。
もちろん運動性・爆弾搭載能力は劣るが偵察・軽い爆撃任務は出来る。
空軍は水上機のみで編制された航空師団を2つ持っており、現在2つとも海南島で待機中である。
「陛下、そろそろ時間です。攻撃許可を出してください」
クッキーが俺を呼んだ。
時計を見るともう6時55分になっていた。
「よし、全部隊に予定通り〇七〇〇を持って行動を開始せよと電報を打ってくれ。みんな、これから長い戦いが始まる。心してかかれ」
「はっ!」
部屋にいる全員が俺に向かって敬礼をする。
しばらくして7時を告げる時計の鐘が部屋全体に響きわたった。
ようやく始まりました。戦争の終わり方を考えずの戦争突入で今ものすごく悩んでいます。頑張っていきますが終わらせ方は強引になる、かもです。
今回の名言↓
「戦場で得られない譲歩を、交渉のテーブルで得られるわけがない」
ーウォルター・デベル・スミス (米陸軍大将)