第16話 外交交渉
軍備拡張が急ピッチで進む中、外務省も慌ただしく動いている。
前も述べたように「南進」する際に背後や側面となる国と平和条約を結ぶためだ。
まずは背後の大国、極東ソビエト帝国からである。
専門職である外務大臣に任せようかとも思ったが、ここは俺自らが赴いて平和条約の交渉に臨むことにした。
極東ソビエトの国家元首は川本純先生。
教科担当は数学で、割と好感の持てる人でもあり生徒からの評判は上々。
このゲームでも国民からの信頼はかなり高いようだ。
史実のロシアやソ連が力で民衆を押さえつけていたことを思うとえらい違いようである。
そして軍事力もかなりのものを持っていた。
海軍は哨戒艇があるだけの小規模なものだが、陸軍はすでに戦車が実用化されているし、そのほかの兵器も決して先進国に劣りはしない。
こんなのと戦争をすれば「南進」なんてまず無理だ。
そして1910年7月20日、俺は極東ソビエト帝国首都、マガダンに着いた。
マガダンは東経約150度・北緯約60度のオホーツク海沿岸にある街だ。
かなりマイナーな都市を首都にしてあるが、これはおそらく戦争で首都がいきなり攻撃を受けることを恐れてとのことだろう。
極東ソビエトの中には大きな街、例えばウラジオストクやイルクーツクなどがあるがいずれもシベリア鉄道に沿った、モンゴルや日本との国境線に近いところにあり、戦争となれば攻撃を受けることは必至である。
(その割にマガダンはオホーツク海に面しており、大した海軍を持たない極東ソビエトだと間違いなく艦砲射撃の的になると思うのだが)
極東ソ連との間にある領土問題は南樺太。
ここは帰属未定となり南サハリン(樺太)自治政府が存在する。
国家というほどのものではないが、そこに住むロシア系の人々によりしっかりと自治が行われている。
俺は民族的にも地理的にもここは極東ソビエト領となるべきだと思う。
資源的には南樺太にもあまり大きくはないが、そこそこ産出量のある油田があり欲しい限りなのだが、それを巡って極東ソビエトと戦争しても差し引きマイナスになるだけなのでそんなことはしない。
マガダンは暖かかった。
冬はマイナス20、30は当たり前のこの地だがちゃんと夏はあるらしい。
気温は25度、丁度いいくらいである。
空は雲ひとつない快晴で空気は澄みわたり遠くまでよく見える。
この快晴の空のように交渉もスムーズに進んでほしいものだ。
俺は到着早々マガダン市民の大歓迎を受けた。
日の丸と極東ソビエトの国旗(史実のソ連と大体同じ旗のようだ)を手にたくさんの市民が港で出迎えてくれていたのだ。
先生もわざわざ迎えに来てくれていて、俺は先生にガイドまでしてもらってその日はマガダンの市内観光を楽しんだ。
そしてその翌日外交交渉に入った。
「先生、わが日本としましては貴国、極東ソビエト帝国とは戦争をすることなく平和に共存していきたいと思っています。帰属未定の南樺太についても貴国が領有することに一切異議を唱えません。是非平和条約にご同意いただきたいのですが」
俺がそう切り出すと、先生は笑って、
「これは私がお願いするべきことだろう。今のわが国の実力ではとうてい日本に太刀打ちできない。当然平和条約はお受けしよう」
こうして無事に平和条約は締結された。
これにより日本は沿海州付近での漁業権を得るかわりに帰属未定となっていた南樺太は極東ソビエトに譲る。
そしてお互いに国境を侵すことなく友好的にすごしていこうということになった。
この後俺はアジア諸国を歴訪して平和条約の交渉を行った。
モンゴル帝国・カザフスタン・パキスタンとの平和条約は問題なく締結され、ここに背後・側面の脅威は去ることとなる。
しかし、予想通りタイ・インドネシア・インドとの交渉は失敗に終わった。
タイではカンボジアの譲渡と引き換えに交渉の妥結を図ったがタイはラオス・ベトナムまでもの領有を主張。
小国のくせに生意気な…と思ったが、これはどうやらタイを治めている水島の主張ではなく、その背後にいるインド・インドネシアがそう言えと言っているかららしい。
水島はそれらの領主である2人と仲はいいが、その2人に比べおとなしい性格なので逆らえずこうなっているようだ。
この調子では他の2国は無理だなと思ったが一応行ってみた。
しかし予想通り議論は平行線で、なんら得るところもなく空しく引き揚げることになる。
こうして日本政府の戦うべき相手がはっきりと決まった。
インド・インドネシア・タイ、そしてもしかしたらオーストラリア。
負けるとは思わないが勝てるかどうかは怪しい。
軍部ではこれに備えて軍備増強計画の見直しも行われた。
そうそう、言い忘れていたがとうとう待望の油田が見つかった。
場所は秋田県の男鹿半島、油の質も上々で精製すれば航空ガソリンとしても十分使えるとのこと。
また、隣りの青森県で陸奥湾に突き出た夏泊半島でもかなり大きな油田が発見された。
陸奥湾の海底にかなり広がっていると思われるこの油田の石油の質はそんなに良くはないが、現在懸念されている船舶用燃料の不足をカバーしてくれるだろうと期待されている。
こうして戦争への準備は着々と進んでいった。
今回カテゴリを見直し「山」とか全く関係なかったものを消し代わりに「SF」等を入れさせていただきました。そのため「SF」のカテゴリのところに突如この小説が出現してしまった形になってしまいましたがご容赦ください。
今回の名言↓
「戦争は他の手段をもってする政治の継続にほかならぬ」
ークラウゼヴィッツ