第15話 緊急軍備増強計画始動
1910年4月1日、予想…ではなく予定される第1次世界大戦に備え策定された、陸・海軍の緊急軍備増強計画が動き始めた。
まずは海軍から。
海軍は艦艇の全体的な旧式化が目立っており、早急な近代化が求められている。
そこで戦艦8隻、装甲巡洋艦12隻、二等巡洋艦16隻、駆逐艦56隻、潜水艦64隻を4年間で建造するという途方もない建艦計画が作られた。
もちろん、こんなの一度に建造できるはずはないので第1期・第2期に分けられて建造が行われる。
第1期は「安芸」型戦艦4隻と「箱根」型装甲巡洋艦6隻、「美々津」型二等巡洋艦8隻に「山風」型駆逐艦32隻、潜水艦が3種40隻である。
これでも多いが造船業界の活況のおかげで造船所が一気に増えたことでなんとかなるだろうということで行われることとなった。
戦艦と装甲巡洋艦は海軍工廠で、残りはおもに民間に建造を依頼してある。
民間業者では今すでに手一杯というところもあったが、外国からの受注を断らせたりしてなんとかドックを空けるようにさせた。
これだけ膨大な数の艦艇を建造するとなるといかに効率よく造れるかがカギである。
日本はその点ではかなり優秀といってもいい。
数年前から続く造船ラッシュにより工程管理手法が導入され、無駄の少ない建造が行われているからだ。
他にも俺がブロック工法をアドバイスしておいたが、これはまだ実現されていない。
また、これだけ多数の艦を建造すると当然それだけ多くの乗員が必要になる。
そこで旧式化した「吉野」型巡洋艦を全て練習艦に改造して訓練に当たらせることにした。
また、昨年竣工したばかりの日本初の大型潜水艦(と言っても当時で考えてというもので実際は500トン強の小型潜水艦)「呂ー1」型5隻も全て練習任務にあてる。
さて、今度は陸軍だ。
まずは最初の2年間で現在の90個師団・20個後備師団・10個騎兵旅団・24個砲兵旅団から150個師団・30個砲兵旅団に増強する。
騎兵旅団は全廃され、戦車の開発が成功次第「機甲兵旅団」が新設されていくこととなった。
そしてその次の2年間で30個後備師団が編制される予定だ。
新設の通常師団は2年間みっちり訓練に励み戦争に備える。
後備師団は戦時には基本的に損害を受けた部隊の補充部隊として使用されることになっている。
そのため半年前には召集して本格的な訓練を受けさせることになった。
そして、戦車の開発状況だが残念ながら上手くいっていない。
エンジンが弱かったり、キャタピラが途中で切れたり……。
何かしら不具合を抱えてしまって実戦で役に立つようなものは今のところ出来てない。
俺の構想としては10個ぐらいの機甲旅団が大戦前に作れたらいいかな、と思っていたがそれはこの調子だと難しいだろう。
やはりまだまだ技術的に難しいようだ。
ところで空軍だがとりあえず稼働機1000機を目指してパイロットの育成・機体の製造が行われている。
何しろまだ手探りで進めているのでパイロットの数が非常に少ない。
新しく育成しようにも、何を学ばせればいいのかいまいち分からないような状態だ。
今は上海や鹿児島など10箇所に150機が配備されているので、そこへとりあえず基礎だけ教えた新米のパイロットを送り、ベテランから直接教えてもらうようになっている。
一応来年には練習航空隊が上海に設置される予定だが、練習に使用する機体や教科書が全く決まっていないような状態。
こんな感じで空軍は急な増強はまず無理である。
そしてこの航空機がらみのことなのだが、海軍はこの増強計画の前に技術開発庁の研究班が水上機の開発に成功したことを受け、水上機母艦4隻の建造に着手していた。
「知多」「渥美」「室戸」「志摩」と半島名が冠せられる予定の4隻は水上機20機(常用16機・補用4機)を搭載し、基準排水量約1万2000トンの大型艦だ。
速力は艦隊についていけるよう21ノットを発揮できるようになっている。
ただ14センチ単装砲2基を搭載しているので、単純に水上機母艦というよりは航空巡洋艦とでもいうべき存在である。
これらは当然のことながらカタパルトなんていう便利なものはついていない。
史実の日本初の水上機母艦「若宮」と比べると大型で本格的な4隻だが、史実どおり海面におろしてから発進させるようになっている。
史実で1913年にフランス海軍水上機母艦「フードル」が成功させたような、滑走台を艦上に設けての発進という方法も考えられたが無難な水上発進が選択された。
ただ迅速に発進できるように艦尾がゆるやかに水中に没するようになっていて航空機をレール上を滑らせて次々に海面に降ろせるようになっている。
これにより見た目は史実の一等輸送艦か回天搭載艦に近いものになった。
建造状況は現在一番艦「知多」の船体がだいぶ出来上がってきたかな、というところだ。
就役はおそらく1年半後くらいだろう。
搭載する機体はあってもパイロットが間に合うかは疑問だが…。
また、例の「宮古丸」を使って空母の研究も進められている。
「宮古丸」は現在エレベーターや着艦制御のための鋼索などの取り付け工事が行われている。
鋼索は史実の「鳳翔」や「赤城」で最初に採用されていた縦索式ではなく、後に主流というか当たり前になる横索式だ。
縦索式は摩擦で止めようとするものだが、実際は転倒事故を引き起こしたりして上手くいかなかったようだ。
さて、あせっていろいろ思いつくままにあれこれ口を出したからいろいろ足りないものもあるかもしれないが、とりあえずこれで進めていく。
ただ、これらの艦艇建造や部隊増強のため増税を行った。
国民には申し訳ないが来たるべき大戦に備え大規模な軍拡が必要なのは事実だ。
こうして軍備拡張が始まっていったが同時に外交交渉も始まった。
最初のお相手は極東ソビエト帝国である。
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今回の名言↓
「多分、余は国内戦も含めて誰よりも長い年月を戦争に費やしたが、余の経験を通して言えば、どんな犠牲を払っても自国の国内戦だけは身命を賭けて避けたいと思う」
ーウェリントン