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第13話 飛べ!飛べ!



「左舷前方に『宮古丸』を視認。取り舵30度よーそろぅ」


実験の日、俺はこないだできたばかりの装甲巡洋艦「筑波」に乗っていた。

別に船で見に行かないといけないような沖合いでやるわけではないが、この機会に軍艦というものに乗ってみたかったのだ。

やはり男子たるもの、鋼鉄の浮かぶ城には憧れを持つものである。


「やっぱすごいな、軍艦ってのは。実際に乗ってみると思ったより大きく感じるな」


危ないからと止める朽木(クッキーの人間名)副官を無視して副長に艦を端から端まで案内させる。

しかも急にその辺の水兵に話しかけたりしたから、話しかけられた方は緊張で声がひっくり返ったり声が震えたりしていた。

いつもは明るくてよく冗談を飛ばすという艦長も緊張のせいか顔はこわばり、指示を出す以外は全く話さない。

やっぱり天皇の威信というか権威ってのはすごいもんなんだと感じた。


さて、実験だが今回は2種類の実験を行うことになっている。

まずは停泊状態での発艦・着艦。

おそらくこれは成功するだろう。

飛行機が軽いのとスピードが遅いのとで実際離陸するまでにそんなに距離がかからないからだ。

それにパイロットは徳川好敏よしとし少尉、彼はおそらくこの時点の日本軍人の中で最も長い飛行時間を持つベテランだ。

もっとも、飛行機自体の飛ぶ時間が短いため後の基準から言うと未熟の部類に入るが。


そしてもう一つの実験、これは上手くいくかどうか分からない。

それは航行状態での発艦・着艦である。

発艦に関してはやりやすいだろうが、問題は着艦。

いくらベテランの徳川少尉とはいえ動いている相手へ降りるのは初めてのことだ。

しかも上海の飛行場と比べるとものすごく小さい甲板の上に、である。

下手すれば飛行機ごと海中へ落下、まだ後の飛行機のように浮くようには作られていないため最悪飛行機と一緒に徳川大尉は海の底へ沈むことになる。

そこで万が一に備え駆逐艦4隻と哨戒艇4隻が『宮古丸』を取り囲むように配置されているのだが脱出に失敗すれば何の役にも立たない。


「『宮古丸』より信号、実験を開始す」


信号兵の報告が入る。

俺は双眼鏡を覗く。

今「筑波」は停止しているため機関科の兵も甲板に上がってこの様子を眺めていた。


甲板上の飛行機のプロペラが回り始める。

しばらくはその場で回し続けていたが脇に立っていた兵か研究員かが旗を振り降ろすと滑走を始めた。

ものすごくゆっくりに見える。

まずい、このままじゃ落ちるのではないか、そう思ったが飛行機はすんなり艦を離れ大空へと舞い上がった。


その瞬間、艦全体から歓声が上がった。

皆実際に飛行機が飛ぶのを目の当たりにして興奮していた。

俺がいるのも忘れて大騒ぎだ。

まぁ俺は静まり返っているよりは大騒ぎしているほうが好きだけど。

その後しばらくして我に返った艦長があわてて騒ぎを鎮めた。


飛行機は上空で3周くらいすると着艦の体勢に入った。

ゆっくりと高度を下げる。

そしてゆっくりと甲板に降りた。

万が一に備え甲板の前にはネットが設置されていたがそこまで突っ込むことはなくゆっくりとネットの前に停止した。


艦全体で拍手が起こる。

第一の実験は無事終了。

この後1時間の休憩をおいて次の実験に入ることになっている。

さて、果たして無事に成功するのか。

俺としては最悪失敗してもいいからパイロットの徳川大尉が無事であってほしい。

ここでただでさえ数の少ないパイロットを失うわけにはいかないのだ。


ったく、俺のほうが緊張してきてしまった…。



そして「筑波」の艦橋までもが異様な緊張に包まれるなか、実験は再び始められた。


離艦はなんの問題もなく進んだ。

飛行機は順調に高度を上げ旋回を始めた。

そして前回同様3周した後に「宮古丸」の真後ろにつき高度を下げる。

艦橋の緊張も高まる。

水兵たちも自分の持ち場から精一杯顔を出してこの様子を見守る。

そして、両者の間の距離がゆっくりと縮まっていく。

1000メートル、500、250、100、50、0。


飛行機は一瞬バウンドしたように見えたが「宮古丸」の甲板に乗った。

そのまま艦の上をまっすぐ進む。

ブレーキをかけているのかどうか分からないがいまいちスピードが落ちているのかどうかわからない。


そして…、ネットにぶつかり停止した。

艦橋ではふぅ…とため息が漏れる。

これはがっかりとしたため息ではなく、落ちなくて良かったという安堵のため息だ。

飛行機はネットに絡まっているがパイロットはどうやら無事の様子。

操縦席から自分の足で出てきているのが見える。

俺もとりあえず安心した。


「艦長、『宮古丸』の近くにつけてくれ。ちょっと『宮古丸』に行ってみたい」



それから30分後、俺は「宮古丸」の甲板で研究チームのリーダー二宮技術少佐、パイロットの徳川少尉らと会った。

二宮少佐は凄腕の研究者だが見た感じは失礼だがそうでもなさそうな感じの人だ。

どこにでもいそうなおじちゃんだ。

一方徳川大尉はごつい。

鍛え上げられた肉体と厳つい顔。

史実の徳川大尉の写真は見たことがあるが同一人物とは思えない。

まぁいろいろ変わってるし人が1人や2人外見が変わってても別におかしくはないが。


「みんなご苦労だった。実験は無事に終わって本当に良かった。徳川大尉も怪我などなくて本当に安心している。まだまだ改良しないといけないところがあるようだな。これからも研究に励んでほしい」


俺はねぎらいの言葉をかけた。


「はっ。今回陛下に完璧に成功した実験をお見せできなかったことは残念でなりません。これより日夜研究に励み今度はしっかりと成功させてみせます」


二宮少佐が言う。


「陛下から小官のような者にお言葉を賜るなど、身に余る光栄であります。今後も飛行技術の向上に努めてまいります」


心底緊張している、と言う声で徳川少尉が言った。

まぁ確かに本来天皇に直接会うなんてないもんな。


「あぁ。期待しているぞ。ただみんな身体には気をつけてくれよ」


お決まりだがこころからそう思う。

日本人は生真面目で一生懸命だから平気で無理をする。

それが日本を支えているのは間違いないがそう簡単に死なれるわけにはいかない。


俺は直立不動で敬礼している研究員らに敬礼し返して「宮古丸」をあとにした。




そういえばこの後書きで紹介している名言はいろんな本とかから取っているのですが著作権とか問題になるんですかね?どなたか知っていたら教えてください。引っかかるのなら即削除しますので…。


今回の名言↓

「総司令官は1日のうちにしばしば自問自答せよ。『もし、いま敵が我が正面に、左翼に、右翼に出現すれば?』と。もし、その自問に答えられなければ、我が部隊の配置が悪いのだ。ただちに修正せよ」

ーナポレオン・ボナパルド

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